14話グラデーション

答えがあるならぜひ教えてほしいものだ。



「美緒ちゃんでどう」



「え?ふつうじゃん。それにちゃんだなんてなんかキモいし」



自分なりになんとかひねり出したんだけどその答えがキモいかあ。



我ながらショックだった。



なんだか彼女と一緒にいると喜怒哀楽を教わる。



一日でこんなにあれこれ感情をゆさぶってくれる人は初めてだった。



「いいよ。これで」


「え?キモいんじゃ」


「うん。そうだけどこれでいい」



キモいのは否定しないのかい。



それにキモいのにこれでいいのかい。



すごく妥協された感じがする。


「ねえ敬くん」


「ん?」


もうすでにそのあだ名を受け入れている自分にも驚きを隠せないのだけれども。



彼女は何かを言おうとしたが、口を押さえた。


「どうした」


「ううん。なんでもない。さあ帰ろう」


「なんだよ、言ってよ」


「何でもないってば」



それ以上僕は追求しなかった。



そんなことはどうでもいいとも思えた。



彼女が何を言おうとしようが、やめようとしようが、それは彼女の自由なのだ。


そんなこととるに足らないことだ。


今この時この瞬間こそが、大事なんだと意識はしていないが、今この時この瞬間こそが大事なんだと。


意識はしていないが、直感あるいは、無意識の中で感じていたのかもしれない。


辺りはすっかり暗くなり、深い紺色へと変わっていった。




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