11話石段
彼女だけが知る目的地に向かって。
歩みを進めると彼女がどこに向かって歩いているのか次第に明らかになった。
百段にも上る急な石段の前にきたときには確信に変わった。
そこは有名な神社であった。
その神社からは僕たちの住んでいる町が一望できる。
僕は七五三とか小学校の遠足以来行っていない。
ずいぶん前のことなのでどんな神社だったのかも記憶は定かではない。
彼女はその立ちはだかる急な階段を何の迷いもなく軽快にかけあがった。
この様子だとずいぶん行きなれているようだ。
足腰もかなり鍛えられているだろう。
一方僕はというとじいさんのようにとぼとぼと息を切らしながら上がっていた。
なんせ小学校以来帰宅部兼週末ひきこもりだったためか思春期食べ盛り働き盛りの青春男子には似つかわしくないほど体力が落ちてしまっているからだ。
上がっても上がってもまだたどりつけない石段地獄にイラつきながらもようやくたどりついたときには人知れぬ達成感を得ることができた。
なんとなく登山家が山に酔い知って苦労して登る気持ちがわかったような気がした。
まあ、山と高台の神社を一緒にしてはいけないとは思うのだが。
そんなこと本物の登山家がきいたら激怒するだろう。
彼女は全然平気な顔をしていた。
僕と彼女では、周りの酸素の濃度が倍以上違うのではないかと錯覚させた。
これが長年怠けきった体と青春を謳歌したスポーツマンの体の違いか。
また、その相手が女子だから余計に恥ずかしいような気持ちになる。
「もう。情けない。男なのに」
彼女がさらに傷口に塩を塗る。
「もうしっかりしてよね」
何も言い返せなかった。
そんなセンチメンタルに浸っている僕におかまいなしに彼女は続けた。
「みてこの景色」
眼下に広がる僕たちの町は沈みゆく夕日に照らし出されながら光輝いていた。
それは今までみたどんな景色よりもきれいだった。そしてそれを見つめる彼女も。
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