十三話

 オズワードから帰還して数日、偵察部隊は表面的には通常業務に戻っていた。しかし、パトロール範囲はオズワード寄りへと変わり、駐屯部隊と持ち回りで数日おきという頻度も北支部の人員を割いて毎日行われることになった。

 そして、この数日間、エセルは組むことになった飛行士との訓練に明け暮れている。相手の飛行士は新人という程ではないが、飛空士と組むことになるということは、つまりは昇進コースに乗れるチャンスでもあり、彼も結構張り切っているようだ。ジークリットとアベルもそれぞれで仕事はあるが、手が空いたときは彼女らの努力が空回らないように軽い指導をすることもある。オズワードに行く前から探していた相手がやっとみつかったのだ。エセルが焦る気持ち分からなくはなかった。



「少し忙しくなったくらいで、なぁんにも情報入ってこないですね。司令官は相変わらず忙しくしてて捕まらないですし。」


 装備の整備を終え少し休もうかと、あの日と同じように三人はテーブルについた。


「確かにねぇ。でも、少しなら教えてもらったことはあるよ。」


 ジークリットは小さく「あまり頼りたくはなかったんだけどね。」と呟く。


「教えてくれた人も言ってたけど、おおよそこの間アベルの言ってたことで間違いはないみたい。」

「機械獣の襲撃もか?」


 ジークリットはそれは違うと否定する。


「機械獣が『文明を喰らう獣』って呼ばれてるのは知ってるよね? 食べつくされて、守るために退化した今じゃあ、そんな呼び方をされることは少ないけど。」

「今はこっちを狙うことより、氷の下の旧文明を掘り出すことの方がよっぽど良いらしいからな。」


 聞き手に徹するつもりの二人は、そんな当たり前のことを聞いてどうするんだ、とは口には出さなかったが、顔にはありありと出ていた。


「それは前置きでね。オズワードで見つかったものがあったの。ガラスのような透明な素材でできた人一人が入れる大きさの気密容器とそこそこの大きさの機械が、すでに破壊されていたけれど、地下の実験施設らしいところにあったんだ。」

「アーティファクトってやつですか?」


 ジークリットはエセルの言葉にうなずいて、話を続ける。


「で、残っていた資料からあの日に起動テストを行う予定だったことが判明。それで、司令部に人がいなかったみたい。上層部の人間はごっそりそっちに行ってたってこと。しかも、生き残りの市民によるとその情報が市民側に漏れていたらしい。」

「起動テストに反応した機械獣の襲撃。しかし、防衛を行うべき軍部はその上の司令部がすでに壊滅しているから、行動が遅れたうえ、統率もまともにとれていない。それじゃあ、まともに戦えるはずなんてなく、そのまま街を蹂躙されたってことか。」


 すべてが繋がった。オズワードの惨状を知っている者が杞憂していた、「人為的に引き起こされた機械獣の襲撃」というものが真実だったことに眉間にしわを寄せ渋い顔をする。しかし、不幸中の幸いというべきか、それを引き起こすための「旧文明の遺物」なんてそうそう手に入らない。例えば、機械獣の跋扈する氷原を掘り起こすなんてことをしない限りは手に入らないのだ。


「なんで、オズワードはその気密容器を持っていたんでしょうか? 掘り起こしたなんて馬鹿なことをしていたら、さすがにこっちが気づかないなんてことはないでしょうし。」


 エセルの疑問の答えはすぐに思いついた。


「最初から、だろうな。オズワードがオズワードになる前から持っていたんだろう。」

「……じゃあ、なんでそんなこと……だって、私だって分かりますよ! 『遺物』なんて、あいつらのかっこうのエサじゃないですか!」


 惨状を思い出し、救えなかった人々を思い出してエセルの拳に力が入る。そして、やりきれない気持ちを表すように、テーブルに叩きつけた。


「私、初めてだったんです。人が死んでるのを見たのは。……初めてだったんです。」


 拳を開き、力なくうなだれる。

 そこそこ経験を積んだ二人にとってもあの惨状は初めてだったが、それを全くの新人が見てしまったのだ。余計にそのショックは大きくなるだろう。

 だから、ジークリットは言わなかった。オズワードが凶行に及んだ理由は「戦争」じゃないかなんて、そしてその相手はこのリベルタスじゃないかなんて言えなかった。遺物の技術を軍事利用するためだったんじゃないかなんて推理は自身の頭の中にとどめておくのが今は良いだろう。

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