十話
到着した北支部の部隊とともに大型テントを組み立て、少し休憩を挟む。ジークリットが顔見知りの部隊員と話していると、少し前まで遠くで一人で他隊員を眺めてたアベルが名前を呼んだ。
ジークリットはエセルと共にアベルの後についてテントの中央に向かう。中央には大柄の男性と女性が三人を待つように立っていた。
「北支部の討伐部隊二班の班長、トラヴィス・スウィフトだ。」
大柄の男性が自己紹介を始める。飛行服にある階級章には星が二つ。中級飛空士だ。
「私は下級飛空士のエマ・フィッツジェラルドです。」
トラヴィスの一歩後ろに立っていた女性は一歩前に出て彼に並ぶ。
「俺は東の偵察部隊隊長のアベル・クロックフォード。」
「私はジークリット・ナイトレイ。私も同じく中級。」
トラヴィスに目で促され、二人も口を開いた。
「ん? ナイトレイ? 確か、北に……」
ジークリットの名前を聞き、何度か顔を見た後、トラヴィスは不思議そうな顔で訪ねた。
「あぁ、ナイトレイは養父の姓です。」
「そうだったのか。」
トラヴィスはジークリットの答えに少し申し訳なさそうな顔をする。久しぶりに見た他人のそのような顔にジークリットは困ったように笑顔を作った。
エセルは二人があいさつを終えるまで後ろで控えていた。
「エセル!」
トラヴィスとジークリットの間の空気に色々と思考を巡らせていたせいで、エセルは自分に声がかけられたのだと認識するのが遅れた。
「あっ、はい。エセル、エセル・パーキンソン準下級飛空士です。」
「おぉ、君がか。東での研修期間が終わったら、北に来るといい。東と比べもんにならんくらい変なやつが多いが、やりがいだけはあるぞ。」
どこかで噂を聞いたのだろうか。エセルの名前だけは聞いたことがあるようだった。
「あと、ここにはいないですけど、うちの防衛部隊から通信技師のエイムズが。」
「さて、さっそく仕事の話に移ろうか。」
トラヴィスは姿勢を正した。
「先ほど入った報告によると、司令部は壊滅、生存者はなしということです。」
「司令部については間違いなく機械獣が原因ではない。軍関係者以外に軍に関係ないだろう市民の死体もあった。」
少し嫌な予感がしてアベルは顔を顰めた。
「クーデター……いや、革命かな?」
「だろうな。オズワードの情勢について全く知らないってことはないだろう?」
オズワードの軍による圧政はその手の話題に興味のない者でもこの場にいるような者なら知っている程だった。
「しかし、クーデターだけじゃあないだろうな。この惨状を見れば明らかだ。」
「ほぼ同時に機械獣の襲撃もあった、と。」
街の崩壊はどう考えても人間が起こすには規模が大きすぎた。
「ずいぶんタイミングの良いことで。」
「いろいろと考えられることはあるが、どうにかオズワードで何が起こったかを知る人が欲しい。根拠のない憶測ばかりが頭に浮かんで仕方がない。」
頭の中には一つの考えがあった。
(人為的に機械獣の襲撃を起こしたんじゃないか。)
機械獣がこの地に出現してからすでに数百年たったが、そのような話は聞いたこともなかった。
「これから街の中で生存者を探す。」
「外は?」
壁の外に生存者がいるとは思えなかったが、それでもやらないわけにはいかない。
「そこまで人手はいらないだろう。」
トラヴィスは「大事なことを聞き忘れた。」とアベルに目をやった。
「そちらの航空機の装備はどうなってる?」
「最低限の装備以外は外している。とにかく早く着くことを選んだ結果だな。」
残念ながら夜間飛行のための装備は外してあった。なくとも出来ないわけではないが、このような状態だからあまり無理はしたくなかった。
「戻ることを考えたら、粘っても二時間か。」
「そのあとはよろしく頼む。」
軽く笑いトラヴィスはアベルの背中を叩いた。
「そのための我々だ。」
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