九話
一人生存者を探しに出たアベルは三十分という制限時間を自身に設けた。
滑走路から見た限りでは基地は酷い状態に思えたが、どうやらそこ以外で被害が酷いのは滑走路や通りに面した部分だけのようだ。建物の内に侵入するのには問題なさそうだった。アベルは崩れた場所を避け、中庭の窓から基地の中に入る。
中は静まり返っていた。聞こえるのはボイラーの稼働音。人の気配一つなかった。
どうやら、廊下に面している部屋の大体は仮眠室らしい。それならば、とアベルは納得がいった。この周辺は建物の被害も小さい。ここが戦場になったというわけでもないようだった。ここにいたであろう人間は全員呼び出されたのだろう。
仮眠室のある廊下から離れ、少し行ったところに来客向けであろう案内板を見つけた。
(さすがに司令部の場所なんて書いてねぇよな……)
アベルが入った建物はオズワードの軍の中枢機関があるもので間違いはないようだった。案内板にオズワードの軍のトップ陣の執務室を見つけた。
(この建物にあるはずなんだがな。)
案内板には一階と四階しか載っていない。なら、二階か三階にあると考えるのが普通だろう。
おおよその場所が分かったとは言っても、何が潜んでいるかは分からない。ここまで一人で探りに行くのも賢いとは言えないが、さすがにこれ以上進むのはまずいだろうとアベルは引き返すことにした。
アベルが滑走路に戻ると、ジークリットが手を振った。
「ちょうど三十分かな? 北の部隊もう少しだと思う。」
「思ったよりかかってるな。」
ジークリットは航空機の中の通信機を指差して言葉を続ける。
「街門からここまでの被害が結構酷いって通信があった。」
「ん? 通信機なおったのか?」
ジークリットは首を振って否定する。
「いや、通信機はどこも壊れてなかった。たぶんこっちの問題じゃなくて、有線ケーブルのほうがやられてるんだと思う。」
「そりゃ、どうしようもねぇな。」
街と街の間の通信を支える有線ケーブルは氷の中に埋められている。頻繁に機械獣との戦場になる北や南の氷原に埋まるケーブルには相応の対策が施されているが、オズワードとの間のケーブルにはそんなことはされていない。これには、機械獣の数が少ないからという以上に、オズワードとの交流が少なかったというのが軽視されていた理由としては大きかった。
「街同士の因縁やら歴史やら、まあ分かるけどさ……」
ため息をついて首を振る。アベルも言っていたように今考えても仕方のないことだ。
「で、街に北の部隊が着いてからようやくまともに通信ができたってわけ。」
「僕とあっちとで少し話して、一機に街まで戻って中継用の車両を持ってきてもらうようにしてもらったんだ。ここまで機械獣も少なかったみたいだから、護衛用の部隊もそうはいらないだろうさ。」
あとは北の部隊が来るまで待機しようと、今できる仕事は終えたエイムズとエセルも二人の元へ歩いてきた。
「この状態じゃあ、かなりの長期戦になるだろうね。」
この事件の原因も探らねばならないが、今後のオズワードについてもどうにかしなければならない。ジークリットたちの仕事は早々に終わり他の部隊へとバトンタッチすることになるだろうが、簡単に終わるような事件ではないことは誰にでも予想できた。
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