八話

 少しずつ高度を上げ、街からも離れていく。アベルが操縦する航空機はエセルが操縦する小型輸送機の少し前を行く。高度はいつもよりも高く、輸送機の限界近くまで。機械獣の感知範囲からできるだけ離れるためだった。


「今のところ、小型がちらほらいるだけで中型の気配はない。」


 平時でもあまり機械獣がいないとはいっても、小型も中型も一定数はいる。


「嵐の前の静けさってやつかな?」

「いや、嵐のあとの静けさじゃないか?」


 それもそうだ。


 ジークリットもアベルもこのような場面にあったことはなかったが、静かなこの氷原とオズワードからの緊急通信の間に確かな線を感じてしまった。


「エセルの方は……」


 確認しろ、と言外に含まれたものを感じたが、ジークリットは前を見てため息をつくだけだ。


「通信入れて自分で確認すればいいんじゃないかな?」


 その言葉にアベルは通信きに手を伸ばそうとするが、少し手を迷わせてそのまま元の位置に戻した。


「通信を入れるほどでもない気がする。」


 ジークリットはその言い訳に小さな笑い声をこぼす。


「別に仲が悪いわけじゃないでしょ? 何? 今までほとんど私にエセルとのコミュニケーション任せっぱなしだったから?」



 会話も途切れ、不思議なほどに何も起きず、目的地まで半分を切った。

 そろそろ司令部に一報入れようとジークリットは通信機に手を伸ばした。


「HQ、HQ。こちらメーヴェ1。」

「——、————。」


 ジークリットの声は相手に届いているようだったが、相手の声がはっきりしない。ノイズの中にかすかに聞こえる音程と経験で何を言っているのか判断することしかできない。


「アベル、ノイズが酷い。こっちの通信機はダメかもしれない……アベルの方でも、通信入れてみてくれる?」


 司令部に通信を切り替える旨を伝え、後席の通信機を切った。


「えー、こちらメーヴェ1。HQ、こちらメーヴェ1。」

「HQより、メーヴェ1。どうぞ。」


 ジークリットの手元の通信機とは違い、前席の通信機はなんともないようだった。


「メーヴェ1より、HQ。後席の通信機に何らかの不具合が発生した。今後、通信は全て前席に入れてくれ。」

「こちらHQ、了解した。原因はなんだ?」


 ジークリットはアベルに「原因不明」とだけ伝える。


「整備不備ではないと思うが……」


 整備後の確認作業でもなんともなかったのだ。別に機体自体が古いわけでもない。実際、前席の通信機は何ともなかったのだ。


「着陸後、再度確認しよう。」


 この場ではどうすることもできない。司令部もそのことは分かっているので、それ以上の言及はなかった。

 アベルは一息つくと、他の報告へ移った。


「メーヴェ1より、HQ。機械獣が極端に少ない。小型が少数。中型は現在確認できる範囲にはいない。」

「こちらHQ、妙だな。メーヴェ1、警戒を怠らないように。何か異常があればまた通信を頼む。」


 そこを最後にオレンジのランプが消えた。

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