捨てる神あれど拾う神あらず

予測不能の第八次

 戦争三日目の朝日が昇る。

 ビル屋上の貯水タンクに腰かけ、潮風に髪を撫でられる召喚士しょうかんしの背後に、一時的に裁定者さいていしゃの権限と役目を預かっていた両天使りょうてんしが降り立つ。

 翼を折り畳んでその場に片膝をつき、首を垂れて傅く。

「お疲れ様でした、召喚士様」

「そっちもお疲れ様。どうだった? 港の戦線は」

「ヴォイの屍女帝しじょていの魔術は、この先の戦いにて少々この国の危機になり得るかと。首を断った死体を操る魔術、この国の人民の命をおびやかしかねません」

断言オ・イシリモス懐古魔術ロストスペルか。確かに厄介だね。彼女の同行も、監視しておく必要があるかもしれない。他には誰かいたかい?」

熾天使してんし様と銃天使じゅうてんし様の実力は想定されていた通りでした。が、一時的にとはいえ、あの熾天使様と互角にやり合った存在が」

「それは驚きだね。誰だい?」

「それが、自らを海神と称しておりまして……事前に得ている情報から龍巫女りゅうみこと思われるのですが、言動といい情報以上の能力値といい、何やら異変が起こっているのかもしれません」

「海神ねぇ……」

 アックアの仕業だろう。

 何をしたのかまでは調べなければわからないが、しかし彼らの仕業だろうことは間違いあるまい。それについても、調べる必要がありそうだ。

 無論、物事には優先順位が存在する。

 屍女帝の魔術。海神と名乗る存在。そして、都市一つを崩壊させかねない魔導人形。

 今までの戦いも一切の例外なく、一人一人が一癖も二癖もある強者揃い。しかしここまで複雑で、様々な事情が絡んだ戦いはなかった。

 史上初の一般人がいる国での戦い。天界の玉座に座る者達の目的は、召喚士の考えるうちは大したことがなさそうだが、放置しておけば良からぬ事態になりそうな気配を感じる。

 この戦いにおいて単純なのは、絶対強者の彼女だけなのが皮肉である。

「両天使、他愛の下へ向かってくれるかな。また女神の役を演じていて欲しい」

「召喚士様は」

「うん……ちょっとね。これから奔走しそうだ。自分から裁定者の役を買って出たからね。手抜きはできない」

 召喚士は颯爽と跳ぶ。

 戦争三日目、残った戦士八人。

 途中経過は今まで通りか、むしろ少し展開としては早いくらいだ。

 だがどうも、今回は色々と異質な存在が集まり過ぎているようにも思える。

 この戦いは今まで通りのようにはいかない気がする。これまで七次の戦争では起こらなかった何かが起こると、虫の知らせか風の便りか、勘がそう囁いている気がする。

 第八次はどうにも、予測不能の大戦となりそうだ。

 故に召喚士は自足を速めて跳ぶ。この戦いの結末がどのような形になろうとも、最悪の展開だけは避けられるようにと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る