海上都市国家・三神王都
三神王都
海上都市国家・
数百年前に天界によって作られた、人口の海上都市国家。
蒼海を司る群青の
天空を駆ける青空の
人の営みを守護する藍衣の
これら国を護る三柱の神が祀られており、それらを信仰する三つの主教団体と、無神論者の四つの勢力に分けられる。
総人口、七五〇〇万人を超える巨大国家である。
国を治めるのは、公平のために無神論者の王。
彼にそれぞれ三つの宗教団体の長が付き、公平に公平を重ねる審判が下される。
三つの宗教団体は対立しており、長年内戦状態にあった。
と言っても大きな事件は数えるほどしかなく、現在は冷戦状態と言った方が正しい。
今回の第八次
ゾオンと呼ばれる組織で、規模は都市国家全体の約一二パーセント――九〇万人程度。
天界の天使を界人の化身だと進行する彼らにとって、自国が天界に次ぐ教徒達の聖地となることに喜びを禁じ得ず、歓喜した。
今すぐにでもゾオンに加入すれば、天界の恩恵を授かり助かるぞ。
そんなデマまで流して瞬く間に勢力を拡大し、現在の規模に至る。
三神王都において最大規模を誇る団体である。
他、海神を信仰する団体アックア。
聖母を信仰する団体ラピスラズリはこれに抵抗。
冷戦状態だった三つ巴の戦いは、ゾオンに対してアックアとラピスラズリが協力し打倒する、二体一の構図が完成しつつあった。
故に緊張状態の三神王都。
ついに九人の参加者が戦場に到着。
国の上空には戦いを見届けるため、天界が飛んで来た。
かつて今まで見たことない空飛ぶ大地に、海上の国は興奮で沸く。
天界より光の柱が伸びて来て、それらが一か所に集まって上空に巨大な映像スクリーンを作り上げる。
映っているのは仮面を被った、四人の人影。
現在の天界を仕切る、過去の歴戦を制した四人の最高権力者達であるなどとは、誰も思わない。
だが彼らが誰であろうと天界の者であることに変わりなく、ゾオンの人々は狂喜乱舞した。
目の前に神の使いが現れた、と涙する者までいる。
『ごきげんよう、三神王都の諸君。我々は天界の使徒である。此度の第八次
国民も参加できると聞いて、まず訝し気な表情を浮かべたのは
ルールなどいつもと変わらないだろうとしか思ってなかったし、そうとしか聞いていなかったため、俗物が参加するなどという暴挙を許せなかった。
その一方で、ならば殺す理由ができたか、などとも考えてはいたが。
『まず、参加者九名はこの都市国家のどこかにある玉座を探していただきます。玉座の場所は二四時間ごとに転移します。参加者は他の参加者を殺すことでその時点での玉座の場所と次に出る玉座の場所を知ることができます。殺してもよし、殺さずともよし。とにかく玉座を見つけ、座った者の勝利です』
人ごみに紛れて聞いていた
だがそこに他人が入り込む余地などなく、九人の参加者に誰かが取って代わることもできないはず。
参加者の証である刻印はそれこそ、参加者のものだ。
他の誰かに移そうものなら、強制的に破壊され、参加資格を失うと鏡幻士も言っていた。
『さて、そこで皆様には一種の賭けをしていただきます』
賭け。
その言葉が出たとき、煙草を
掻いている胡坐の目の前には、百を優に超える魔術刻印が施された弾丸がズラッと並ぶ。
鉛色の弾丸に鈍色の刻印が妖しく輝いて、まさしく魔弾という表現が正しかった。
「俺達の誰が勝つかをてめぇらで賭けろってことか。随分とエンターテインメントしてるじゃねぇか」
今までならばなかった。
無論、今まで人のいる場所が戦場になったことがないのだから、当然である。
しかし賭博など、らしくもない。
ただの金稼ぎ程度、天界が目論むはずもないだろう。
銃天使は、その裏を読む。
『玉座に座る者を以降紹介します九名の中からお選びください。上限金額はありません。そしてあなた方三つの教団で勝った際の賞金の合計金額を争い、最も賞金が多かった団体に、三神王都ほどの規模ではありませんが、海上都市一つを差し上げましょう』
「そう来たか……」
ゾオン、アックア、ラピスラズリ。
三つの団体が狂喜に震えた。
他の団体に邪魔されることなく、自分達と同じ神を信仰する者だけがいる国を持てる。
これほど魅力的な話は、他にない。
だがこのルールだと、無神論者には関係がない。
故に国の大半を占める人々が自分達は蚊帳の外かと話を聞き逃そうとしたそのとき、説明はその人々にも届く声で言い放った。
『なお信心のなき者達もまた、一つの団体に賭けてください。勝った団体を選んだ者には、賭けた金額の倍の額を差し上げましょう』
この一言で、都市全体が狂喜乱舞に包まれた。
金に目が眩んだ人々が、自分の手元の金銭を掻き集める。
その様を見下ろして、
「あぁあぁ、恥ずかしい恥ずかしい。人様の欲の深さが出ちまったぜ。まったくよ、天界もおもしれぇことするじゃあねぇの」
『賭け金の振り込みと投票は三日後の夕刻。天界より使者を送り、受け付けます。皆様の熱い思いを変えて、是非ともご投票くださいませ。さて、それでは? 第八次
こうして、賭博式の新ルールを設けることで、天界は都市国家を狂喜で染め上げた。
ほとんどの人間がもはや天界に異を唱えることはなく、全員が早期決着を望んでいた。
そして賭ける対象を決めるためにも、さっさと戦えと、実力を見せろと国中で騒ぐ。
そのために彼らは、戦争の参加者を探し始めた。
参加者に特別な刻印が施されていることは、周知の事実。
故に皆、見知らぬ他人の体から刻印を探し始める。
だがそれよりも早く動いたのは、彼女だった。
無数の剣や槍、鎌などの武装が宙を舞い、曼荼羅を描くように隊列を組む。
武装の輝きは人々の心と瞳を奪い、彼女の姿を明確に認識した。
だが彼女はそんな視線など一掃して、高らかに凛とした声を轟かせた。
「有象無象の俗物共! 我は天界の熾天使、貴様ら全員を屠る者。貴様ら俗物に勝利の栄光はなく、敗北の詩吟も存在しない。貴様らはただ虫のように、ただ我に踏み潰される運命だ。故に隠れるな。表を上げ、我が武装演武の餌食となれ……!」
曼荼羅の一つを作り上げていた武器群が、一撃で粉砕された。
それを放った相手は熾天使の言う通り隠れておらず、真正面に立っていた。
熾天使の眉間を撃ち抜くつもりで完全に防がれたのだが、隠れることなどしなかった。
隠れてコソコソなど、彼の性に合っていなかったのだった。
「よぉ、熾天使様……お久し振りで」
「銃天使……最初に貴様を狩ってしまうと、もはや戦う理由がないのだが」
そうはいいつつ、熾天使は嬉しそうだった。
正直彼女からしてみれば、地上の俗物ばかりを相手にするのが億劫で仕方なかったのだが、元天使である彼の登場が、比較的嬉しいサプライズだった。
彼女の中では、彼との戦闘はもう少し後だと踏んでいたからだ。
「腕は落ちていないだろうな、堕天使め」
「あんたは、腕落ちは期待できないようで……難儀な話だ!」
銃撃と剣の隊列が衝突し、激しい衝音と火花を広げる。
最強の天使と元最高階級位天使の衝突が、この戦争開幕の狼煙となった。
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