第5話 リス水木と、瑞樹ワシ

私、合コンに参加するのも生まれて初めてだけど、居酒屋に行くのも、実は生まれて初めてなのよね・・・。

だからか、私は合コン場所である居酒屋「宵~Yoi~」に、内心、ビクビクしながら入った。


「いらっしゃいませ-!」と威勢よく、男の人(お店の人)が言うと、他のお店の人たちも、次々と「いらっしゃいませー!」と私に言ってくれた。

早くもお店の人たちの、とても勢いある歓待ムードにのまれてしまった私は、その場で固まってしいそうなくらい、ますます緊張してしまった。


私・・・小心な臆病者だから。慣れてない雰囲気や初めての場所に来ると、やっぱり緊張度がいつもより多くなってしまい、結果、ビクビク度が、ますます跳ね上がる。


この場では、唯一知ってる人である、姉の友人でコンパの参加者でもある日菜さんを探すように、キョロキョロ辺りを見渡していると、店員さんが声をかけてきた。


「ご予約の方でしょうかー」

「あ。えっと・・・」


姉からは、ここに予約を入れているのかどうかも聞いてなかった。

予約していたとしても、どんな名前で予約を入れていたのか、それも分からない。


私は肩にかけてる赤いバッグを、ギュッと握りしめた。


どうしよう!なんで言えばいいの?

日菜さんはどこ!?

もう私、帰った方がいいのかもしれない・・・。


そのとき、「あ。来た来た!」という女の人の声が聞こえた方を反射的に見ると・・・日菜さんが私の方へ手をふってくれていた。

私は思わず泣きそうになるくらい嬉しかった、というより「救われた」と思った。


「このコは私たちと一緒だから」と言ってくれた日菜さんに、店員さんは「あ。そうでしたか、はい」と答えると、気を利かせたのか、私たちから離れてくれた。


「えーっと、湖都ことちゃん、だったよね」

「あ、はい。こんばんは、日菜さん」

「はいこんばんわ~。ヨウナからは自分が来れない代わりに妹を寄越すって聞いてたけど・・湖都ちゃん、ホントに来たんだ」と日菜さんに言われた私は、「え?あぁ・・はぃ・・」と答えたものの、本当にここに来てよかったのか、“私が”合コンに参加してもいいのか、疑問に思ってしまった。


そんな不安気な表情が、モロ顔に出ていたのだろう。

日菜さんは、私を安心させようと思ってか、ニコッと微笑みながら、私の二の腕を軽くポンポンと叩いた。


「よく来たっ!会費の3000円は、ヨウナからもうもらってるよ。ここの飲食代は、その会費から支払うからね、お金のことは心配しなくていいよ」

「はい」

「それから、ヨウナから今回のこと、どんな風に聞いてるかは知らないけど、私は湖都ちゃんのお守役じゃないってことだけは言っとくね」

「あ・・はぃ」

「まぁそう緊張しないで。私は自分の責任で、この場を楽しんでちょうだいって言いたかっただけだから。それとー、この後どうするかは自由だからね。いつ帰るか、二次会になだれこむか、湖都ちゃんの好きにしていいんだよ。でも二次会以降はその場でお金払うことになるから。その点はちゃんと覚えといてね」


結局私は「はい」とだけしか返事をしないうちに、私たちは日菜さんの誘導で、合コンの席に着いた。



合コンには男女5人ずつ、合わせて10人が参加していた。

その中に、もちろん私も含まれている。

そして岸川さんも、その中にいた。


「お~っ、来た来た!最後の一人!」

「待ってましたぁ!」

「わぁ。小っちゃくてか~わい~ぃ!ねぇねぇ、身長いくつ?」

「・・153、センチくらい・・・」

「小動物みてぇだな」

「ハムスター?」

「え。ハム・・」

「手乗り文鳥じゃね?」

「へ?」

「やっぱカワイイ小動物と言えばズバリ!小リスちゃんでしょー」

「でもリスは元々小さいんだから、わざわざ“”をつける必要はないんじゃねーのー?」

「あ。そうね」

「名前は?教えてよ」


みんなの注目と視線を一気に浴びて、私はまたしても緊張がぶり返してしまった。

頬が火照っているくらい、熱く、赤くなってるのが、自分でも分かるくらいに。


「ぁ・・ぇっと、みずき、です」

「みずき?ってセンパイと同じじゃん!」

「ホントだー」

「え?」


合コンメンバーの、「センパイと同じ」と言った男の人が、チラッと指さした壁際の、隅っこの席に、その人が座っていた。


男の・・人だ。


私は、まるで生まれて初めて男の人を見ているような、ボーっとした目で、その人を見ていた。

というより、私の視線が、その人に釘づけになったみたいな感じで・・・。

そのとき時間が・・・ちょっとだけ止まったような、気がした。


さっき自分自身が動物に例えられたせいか、ワシみたいな人という印象を、その人から受けた。

この人は、くつろぎながら、全てを見通すように観察し、その場を掌握しているような鋭く光る目をしている・・・。


その男の人は、私と目が合うと「どーも」と言って、手に持っていた、飲み物が入っているグラスを掲げた。


・・・この人、一見暗そうな雰囲気出してるけど、「どーも」て言った声は、意外と明るかった。

そのギャップになぜか安心したのを、10年経った今でも覚えている。


この人、とっつきにくそうだけど、怖い人じゃないと思ったから、かな。


「じゃーミズキちゃんは、ココに座って!」

「え?あ・・はい?」


よく分からないうちに、その人の向かいに当たる、その人と同じ、壁際の、隅っこの席に、私は座ることになった。

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