第2話

 12月25日。町中にイルミネーションが張り巡らされ、サンタクロースに扮した人があちらこちらに見える。

 そんなクリスマス一色の雰囲気の中、ある家の前で、一つの戦いが始まろうとしていた。


 「よう、小林。覚悟はいいか?」


 「今日はクリスマスだ。せいぜい神様にお祈りしな」


 「コロス殺スコロス殺す殺すコロス──────」


 「一体どうしたんだお前ら!?」


 自分の家の前に殺意を持った友人達がいる光景に、小林は驚きを隠せない。


 「なあ、小林。俺達友達だよなぁ?」


 「そ、そうだな」


 「友達はぁ、一人で幸せになったりしないよなぁ」


 「いや、それは違うと思「やっぱり、そうだよなぁ!」お前、俺の話聞く気ないだろ!?」


 喋り方がまともな人間のそれではない。

 ジリジリと距離を詰められる小林は、壁際に追い込まれる前に逃げた。


 「待ぁぁてよぉぉ、こぉぉばぁやぁしぃぃ小林


 「コロ殺コロス殺殺殺スコロォォオス」


 少年達もまた、標的を逃がすまいとその背中を全速力で追いかける。


 「なんなんだ!? 俺はお前達に恨まれるような事を何かしたのか!?」

 

 「別に今のところお前らに恨みは無い。───だが、未来のお前には妬ましさと殺意しか湧いてこないんだよォォオ!」


 「ええい、訳が分からん事を───」


 追われる理由に心当たりがない小林は、どうにか情報を聞き出そうと、背後から迫る恐怖達との会話を続ける。


 「お前ら、そもそも俺が今日どこに行くのか知ってるのか?」


 「知ってるから追いかけてんだ!」


 「じゃあ、その情報一体誰から聞いた?」


 「お前もよく知ってる───いや、お前の方がよく知ってる奴だ!」


 「───っ! てことは春也の奴か!」


 親友の裏切りに驚く小林。

 ───今日は邪魔をしないと、確かにあの時約束したはずなのに。


 「くそっ、とにかく今は逃げるしか───」


 「くたばれぇぇぇ!」


 「───っとぉぉ、危ねぇ!」


 いつの間にか追い付いていた一人からのタックルをなんとか避ける小林。

 いつもの彼なら、そのまま起き上がってこれないよう、蹴りを喰らわすのだが、残念ながらそんな余裕は無い。


 「残りの二人は───まだ、結構離れているな」


 それを好機と捉えた小林は、彼らの視界から外れようとスピードを上げる。


 「とりあえず、佐藤アイツに色々聞かないとな」


 ひとまずの目標を決めた小林は、落ち着いて連絡を取るために、追跡者達に見つからない場所へと走った。



 □□□□□□



 プルルルル、プルルルル


 机の上に置かれたスマホが、誰から電話が掛かっている事を知らせている。

 部屋で漫画を読んでいた佐藤はそれを手に取り、画面に表示された名前を見て、ニヤリと笑う。


 「(ピッ)はい、もしもし」


 「春也、お前、どういうことだ!!」


 「───っと」


 相手の声の大きさに思わずスマホを落としそうになる佐藤。なんとか落とさずにすんだそれをしっかり持ち直す。


 「おいおい、どうしたんだ優太。そんなに慌てて」


 「惚けてんじゃねえ。こっちはお前のせいで大変な目にあってんだ」


 「その様子だと、どうやら、あいつらに追いかけ回されているようだな」


 「ああ、そうだよ。どっかの誰かが約束を破ってくれたおかげでな」


 その言葉に佐藤は、心外だと言わんばかりに答える。


 「約束を破る? 俺はそんなことしてないぞ」


 「ふざけんな。あいつらを差し向けたのはお前だろ?」


 「いや。俺は一昨日あいつらに、お前が菜津に告白することを伝えただけだ。誓って何もしてない」


 「───っ下衆め。何故、俺の邪魔をする? まさか、可愛い妹をお前みたいな奴にはやらん、とか言うんじゃないだろうな?」


 「まさか。俺は妹の恋愛に口出しはしない。───ただな、優太。少し考えてみろよ。仮にお前と菜津が付き合ったらどうなる?」


 「? 別にお前には関係ないだろ」


 「いや、大いに関係ある。なあ、優太、俺が学校で一番一緒に過ごすのは誰だ?」


 「………そんなの、俺に決まってるだろ」


 「じゃあ、俺が家で一番よく話すのは誰だと思う?」


 「えーっと、お前んちは両親が家にいることが少ないから───佐藤か?」


 「そうだ。俺が一緒に過ごす時間が長いお前ら二人が付き合ってみろ。───毎日毎日、惚気話を聞かされて、悔しさと悲しみから俺の精神が崩壊するのが目に見えている」


 「知るか! そもそも、まだ付き合えるかどうかも分からねえんだぞ!」


 「黙れ! そもそも俺は、お前だけリア充になることが気にくわないんだ!」


 「絶対そっちが本音だろ!?」


 「とにかく、せいぜい逃げ回るんだな」


 「あっ、ちょっと待───(プツリ)」


 電話を切った佐藤。そのまま友人が始末されることを願いながら漫画の続きを読み始める。


 そんな彼の耳に、ドタバタと慌ただしく誰かが家を出ていく音が聞こえた。


 「───菜津?」


 まさかと思い、リビングや彼女の部屋を探す佐藤。だが、その姿はどこにも見当たらない。


 「まさか、あいつ───」


 嫌な予感を抱えた佐藤は、着の身着のままで外へと妹を探しに出た。

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