第25話 サンダードラゴンの調査 5 覆水を盆へと返す
ハンカチを回収してその今にも崩れそうな建物に入ると、地下に続く隠し階段が開いていた。
サンダードラゴンは、大人になれば20メートルを優に超える体長になるが、仔の頃はもちろん小さい。仔ドラゴンは、この下にいる。
「サンダードラゴンの仔に手を出すなど頭になかったので、仔がらみでこのような事態になっているなんて、思いもしませんでしたわ…」
「僕も反省してる」
ユウナははっとなって、僕に謝った。
「すみません…。タカアキ様を責めているわけではないのですわ」
「いや、僕はこの世界の人達みんなに責められてもおかしくない。この世界に来た時点で、僕には『タカアキ』以上の力はないけど…」
「タカアキ様……」
地下へと延びる廊下の先に、セバスが険しい顔で立っていた。
その横には、縄で縛られたゴロツキと、予報士。ぐったりと下を向いている。
セバスは申し訳なさそうに僕に言った。
「わたしには、『
「はい…」
僕とユウナは、その部屋の中に入る。ぎしぎしと嫌な音を立てるその扉が、僕らが開けるのを拒んでいるように思えた。
部屋の中には、目をえぐり取られ、鱗をはぎ取られ、爪は抜かれ、滴る血はバケツのようなもので受け取られ…酷い有様の仔ドラゴンが吊り下げられていた。
どうやら眠らされているのか、仔ドラゴンは鳴き声一つ上げず、そこにいた。
生きているのだ、この酷い有様でも。この時ばかりは、あの頃の僕がドラゴンを頑丈な設定にしたことを褒めてやらなければ。
「ほんとうに、ほんとうに……っ!! なんてことを…!!」
ユウナが目を見開きながら叫ぶ。掌から血が出そうなくらいに手を握りしめている。彼女は、決して目を逸らすことはしなかった。
僕は、彼女の握りしめた掌をそっと開いてやる。
このままじゃユウナの綺麗な掌に、傷がついてしまいそうだったから。
「セバスさん、降ろすのを手伝ってください」
「はい、かしこまりました」
仔ドラゴンの体長は、翼を広げた状態で3メートルほど。閉じてしまえば、1メートルくらいだろうか。
まだ、産まれてそれほど時間が経っていない。
それほど、といってもドラゴンの寿命は何百年もある。この仔ドラゴンは生まれて一年くらいという設定だったはずだ。
「『
この魔法で、これまで剥ぎ取られたものは、全て仔ドラゴンへと還っていく。もし、彼らがすでにはぎ取ったものを売ったりしていても、それは全てこの仔に戻る。自然の治癒とは違い、この魔法は失ったものを無理やり元に戻す魔法だ。魔力を相当量消費するのも仕方のないものだった。
僕らはまずのびているこいつらを、セバスと共に城に戻らせた。こいつらの処遇に関しては、あとはユウナの国の仕事だ…。殺すことはしないだろう…、多分…としか言いようがないが。僕の目の届くところは、もちろん誰も死なせはしたくない。だが目の届かないところは……、僕にもどうすることもできない。
「では、この仔を連れて帰りましょう。セバスにまた、あの地点へと飛ばしてもらわないといけません」
「うん、そうだね…」
研究の為のつもりだったのは、多分あの研究者だけだっただろう。でも彼は、僕らに隠そうとしていた。結局こうなると知っていて彼はこの仔を
「タカアキ様、では帰りましょう…」
「早く、この仔を帰してあげないとね」
「はい」
陽がもう落ちそうだ。きっと今頃、サンダードラゴンが目を細めながら、この城の方を見ている事だろう。
「『
僕らはサンダードラゴンの仔を抱えて、城へと戻った。
また、馬車置場のところに戻ってくると、なぜか別の部屋にいたはずの三人がこの場所にいた。僕らを見つけると、ノワールが走り寄ってくる。
「タカアキ! その仔連れてサンダードラゴンのところにいくんでしょ?」
「うん、早くこの仔を彼女の元に帰さないとね」
「ノワールもついていくよ! それにリーンとイロハも行くって」
「そうなのか?」
イロハが心配そうな目で、僕を見つめていた。
「……アキ、大丈夫なのよね?」
「うん」
「本当に?」
「……多分ね…」
僕らがした約束は、この仔を無事に連れ帰ること。眠っていてもそれは契約を果たしたことになるだろうが、それでサンダードラゴンが納得するかというと…、それは恐らく別の話なのだ。
そして僕が殺されるのを防ぐために、イロハ達は僕についてくると言っているのだろう。
きっと僕は死にはしない。
でも、僕は思う。
ここで奇跡を起こせなければ、何が主人公だ…と。
◇ ◇ ◇
「わたしの魔力は今日はこれで限界がきそうです。皆様、無事に終わりましたら、宴の用意をしておきますので、どうぞ食堂へとお越しください。王も前王も、あなた方にお礼を言いたいとおっしゃっていますので」
「はい、今日は色々させてしまってすみませんでした、セバスさん」
「いえ、この国の為でしたらこの老骨にいくらでも鞭打ちましょう」
「でもユウナの事はまた別ですからね、セバスさん」
「……ユウナ姫様は頑張りましたよね? 一晩くらい枕を共にしてもよいのでは?」
「一晩くらいの意味が解りません、セバスさん」
この爺の笑顔がほんとに怖い。なんか料理に強壮剤的な薬を盛られそうな気すらする。
「それでは、いってらっしゃいませ。無事のお戻りを。『
さあ、サンダードラゴンとの最後の対峙だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます