第二章

第21話 サンダードラゴンの調査 1 やつはそこにいる

第二部スタートです。

黒歴史の痛み少な目、真面目な話や戦闘多めです。

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 ◇ ◇ ◇


 僕らは馬車に乗りこんで、セバスは御者台ぎょしゃだいに座った。

 かなり豪華な馬車に初めて乗りこんだ僕らは、最初テンションを上げて騒いでいたが、すぐに気を引き締める。


 まずは『空間移動テレポート』で天災用の『シールド』がもちろん貼られているユウナの国の城、サント城へ飛ぶ。

 サンダードラゴンの立ち位置は天災と同じなので、各国に予報士がいる。魔邪生物ゲイルの研究者と兼任している者もいる。

 サント王国の予報士は王家に仕えるので、当然いるのもサント城内。そこでのサンダードラゴンの出現場所を絞ってもらい、移動する予定だ。

 まあ台風のようなもので、各ドラゴンが捕食する時期は大体決まっているので、予報士はその時期のみ自国に棲むドラゴンの様子を注視する。各国に縄張りを持つドラゴンの巣の場所は大体分かっているが、手を出すことはどこも国の法律で禁じている為、巣の中は基本的に見ることはない。ドラゴンの感覚器は鋭く、研究の為などで寝た子を起こして、国が崩壊してしまっては元も子もないからだ。

 予報士たちが見ているのは空の雲や魔邪力ゲルードの流れ…とかではなくて水晶玉。1メートルほどの大水晶である。予報に関しては占いであるが、遠隔地でも、自国であれば天災級の大型魔邪生物ゲイルの姿をその大水晶に映すことができる。

 また、サントの村々にもそれより小さいサイズの水晶玉がおよそどこの村でもやぐらの上に設置されており、警告も村の水晶玉から流れる。緊急放送用スピーカーの役割といったところだろうか。カメラとしての役目も持っている為、大水晶に魔邪生物ゲイルの姿を送ることもある。それなりの術者がいれば、城と村、村と村など双方向での通信ももちろん可能だが、優秀な術者は大体王都にいるので、一方的に声を受信する役割が多い。

 他の国にもほぼ同様の水晶を使った通信技術がある。しかし難点は、その産出国内でしか通信をできないということと、大水晶から各村や街には声しか送れないということ。大水晶は受像装置としての役割に魔力をいているので、送信に関しては多少ポンコツなのである。

 ユウナの馬車にももちろん水晶は乗っている。だが前述の通り、サント王国とは通信ができない。僕らは今サントではない別の国にいるのだから。


「とにかく、王都に行って予報士の方たちの話を聞きませんと…。できるだけ近づいておかないと、移動に時間がかかりすぎますわ」

「城で情報を聞いた後、飛んでからどのあたりまでこの馬車で近付けるの?」

 

 イロハが、弓を取り出して弦の張り具合を調整しながらユウナに尋ねる。


「セバスもわたくしも、『物理障壁プロテクト』と『魔法障壁マジックプロテクト』を張れますので、かなり近くまでは大丈夫だと思いますけれど、馬が怯えます。馬車でしたら恐らく1kmまで近づくことができればいい方ですわ。馬車は置いて、わたくし達だけをサンダードラゴンのすぐ近くに飛ばしてもらう方が現実的かと思います。ただ、飛ぶ場所があまり近すぎてもよくないとは思いますけれど…」

「なるほど、確かにそうね。私の弓の射撃はスキルを使って300mまで当てられる。こちらに意識を向けるのはその距離なら可能よ」


 イロハの心強い一言が嬉しい。

 だが、これは最序盤も序盤。割と覚えている辺り。

 物語通りならどこにサンダードラゴンが出るのか……、僕は知っているんだよなぁ…。

 だが、このイレギュラー多発の現在、本当にそこにいるのか分からない。だから、確実性がないから言わない方がいいのではないか、でも…いや…しかし…。

 頭の中で、『余計なことは言うな』という声が響く。これは、僕が生きていた時の…それこそ黒歴史より根深い呪いかもしれない。


「もったいぶらないで、みんなに言ってあげなよ」

 

 リーンは僕にそう囁く。その言葉にユウナが反応する。


「タカアキ様、何かご存じなのですか?」

「……。…も、もしもここで僕の書いたストーリーから全くずれずに、その通りの場所にサンダードラゴンがいるとするなら…」

 

 セバスが『空間移動テレポート』を使った。

 ああ、もう遅い。


「サント城直上にいる」


 ピシャーン…!!

 空気が弾けるような音が馬車内に響いた。当然『シールド』があるので音だけだが、僕らをびっくりさせるのには十分だった。

 みんな驚きで目を見開いている。


「ちょっとぉ!! なんで先に言わないのよ!! もったいぶらないでよ、びっくりするじゃない!!」


 雷に劣らないキンキンとした声でイロハが怒る。 


「だ、だって…もし違ってたら僕のこと責めるだろ…?」

「責めないわよ! 今度知ってることがあったら先に言いなさいよね!」

「わかりました…」

 

 イロハの雷が僕に落ちる様子を、ノワールはじっと見ていた。

 だが、どうやら止めに入る様子はない。ノワールもちょっとびっくりしたのかもしれない。 


「みなさま、予報士の元に行く必要はもちろんなくなりましたが……ここで戦闘は避けていただきたいのです。城だけならともかく、戦闘ともなれば、城下町に被害が及ぶでしょう」

 

 ユウナは冷静でいるつもりだろうが、声が少し震えている。

 まさか、サンダードラゴンが城の真上で猛威もういを振るっているとは思ってもみなかったのだろう。僕は、自分の間違いを恐れてこのことを言わなかったことを後悔した。言ったところで、別にサンダードラゴンが場所を変えてくれるわけではないが…。


「分かってる。僕の考えを聞いてほしい」


 僕はユウナが持っているサント王国の地図を出して説明して、彼らの協力をあおぐ。

 サント城からおよそ数十キロ先南東に、平野に森が点在する場所がある。

 そこなら、思う存分力を使っていい。あ、もちろんノワールは除く。


「問題は、そこまでどうやってサンダードラゴンを引き付けるか。こんな距離、引きつけながら走れないわよ?」

「引きつけなくていいんだ。セバスさんに手伝ってもらう」

「え……? セバスさんは、できるの…? こんな大がかりな地点指定…。『空間移動テレポート』とはわけが違うわよ…?」


 僕は馬車から降りて御者台のセバスに、地図を持って何をしてほしいか説明をする。

 それと共に、他のメンバーも馬車から降りてきた。

 馬車を降りてきたユウナの手には可愛らしい杖が握られていた。

 この大陸のほぼ中心にある霊山に生える、強大な魔力の宿る木から作られた、王族が持つにふさわしい逸品いっぴん。回復や補助を得意とするキャラらしく、杖の頭に大きなスカイブルーの宝石のついた杖だ。

 そしてその石の下から杖の中ほど位までキラキラとした宝石がデコレーションされている。

 見てびっくり、まさかのだった。

 こんな杖のビジュアルにした覚えは……全く、ない。

 …魔法を使う道具をデコるとは。王女様の考えることはよくわからん…。魔法を使うと言うよりは…魔法少女に変身しそうだなあ。


 雨は降っていないのに雷が轟いている。不思議な光景だった。

 サンダードラゴンがなぜ怒っているのかがわかる僕は、この雷が涙のように思えた。

 見上げたところにいるサンダードラゴンの顔は、もちろん怒り。その怒りは恐らくこの件を解決するまでは解けないだろう。


「できますよね、セバスさん?」


 もちろんできないわけがないし、この非常事態にやらないとは言わないだろう。ちょっとサイズは大きいけど、まあ彼ならなんとでもなる大きさだ。ここは彼の国だから、地点指定に関しては問題ないだろうし。

 優しい顔をしたセバスが、ゆっくりと頷く。


「かしこまりました」


 イロハは驚きながら、セバスを見つめている。人を数人程度ならともかく、20メートル級の大がかりな『空間指定移動アシポート』は、生半可な術者にできることではない。ユウナは、セバスにはその位できると知っているのか、特に驚く様子はないが。

 

「ユウナ、もう『物理障壁プロテクト』と『魔法障壁マジックプロテクト』を僕とイロハにかけて。多分、この城の障壁が多分もう持たないんだ。すぐに移動する」

「わかりましたわ。『物理障壁プロテクト』『魔法障壁マジックプロテクト』」


 うっすらと僕らに膜のようなものが張られる。

 『シールド』とは別のものだ。『シールド』の方がもちろん強固だが、そちらは術者ないし術を展開できる機械を中心に、指定した範囲内だけを守るため、動けない。戦うには不向きな魔法なので、普通は使わない。

  

「リーンとノワールはこのお城で待機させることはできる?」

  

 その言葉に、静かにしていたノワールが騒ぎ出す。


「はい、それはもちろ…」

「いや! ノワールも行く! なんで置いていこうとするの! タカアキのいじわる!!」

「ということらしいわよ」

 

 僕は溜息を吐くしかない。


「わかった。ノワール、でも絶対にサンダードラゴンの前には出ないこと、あと魔法は使わないこと…。これを守るんだよ?」

「うん、守るよ!」

「私も、いつもタカアキの戦闘について行ってたし、行くわよ」

「わかった」


 本来のストーリーならいなかったはずのリーンとノワールも、結局来ることになるのか。

 ユウナが、万が一に備えてこの二人にも『物理障壁プロテクト』『魔法障壁マジックプロテクト』をかける。

 

「じゃあ行こう。セバスさん、お願いします」


 僕の初めての戦闘がこれ…、ほんっとうに恨むぞ思春期の頃の自分……!

 震えるな、僕の足。


 ――強い主人公をイメージする。僕は強い。僕は強い。


 シールド越しにサンダードラゴンと対面したセバスが、ゆっくりと魔力を放出しながら両の掌に溜める。


「ガ、ガアアア! グァアア!!」


 サンダードラゴンは、その異常な魔力の高まりに気づいて、セバスに攻撃を入れようとするが、『シールド』に阻まれて放電を当てることができない。焦りさえ感じる。

 何度集中して雷が落ちただろうか、『シールド』に少しずつひびが入り、ビリビリと僕らの頬に衝撃がかすめるような感覚がした。

 セバスはその『シールド』のひびにも動じることなく、十分に力を溜めた手のひらの力をサンダードラゴンへと向けた。


「『空間指定移動アシポート』」

 

 ドラゴンの姿は、セバスの出した大きな黒い渦のようなものに巻きこまれ、消えた。


「では、次は僕らをお願いします。ここに帰ってくるときに、予報士を集めておいてください」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ。御武運をお祈りしております。『空間指定移動アシポート』」

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