第11話 旅を始めるには時間がかかる
「誰ってどういう質問? ウチはリーン。見たまんまカワイイ妖精やけど?」
「そういう意味じゃない。お前は…僕が作ったキャラクターじゃないよな」
確かにファンタジーの世界を題材にしているからには、マスコット的ポジションの妖精や小動物の類もいたらいいかなと思ったことはある。
ほらあの…商品化とかそういうやつの為にね!
でも実際には設定ノートにも書かず、作中にも出さないまま、ストーリーを進めた。
だからこのリーンという妖精は、僕の書いた『エターナルダークサーガ(仮)』の筋書きを知っているというどう見ても『この物語の鍵』のポジションにいるのに、僕が作ったものではないというわけのわからない存在なのだ。
ストーリーを全部覚えてはいなくても自分が作ったキャラクター位は細部まで、ほとんど覚えている。
ましてやこんな濃いキャラの妖精を、思い出せないはずがない。
「ああ、やっぱりそうか~」
「え?」
少し寂しそうな、吹っ切れたような…なんだろう…、とても複雑な声で妖精はそう言った。
「ウチも違和感があったんや。この世界にというよりは自分に。なんちゅうんやろうなあ…。ファンタジーやし妖精はおってもおかしないんやけど、全く自分と同質の妖精は存在せえへんやろうなというのが分かるんや。ちょっと自分でも何言ってるかわからんけどな」
「まあストーリーにも妖精は出てくるけど。でも関西弁じゃないな…確かに…」
「『カンサイベン』?」
あ、そうかこの世界に関西地方はない。
京都の
「えーと、リーンが今喋ってる言葉づかいのことだよ」
「あ、これ『カンサイベン』って言うんか? まあ喋り方もあるけど、これはその中でも表面的なもんで…そういうのよりもっと別のとこかなあ? 違和感あるんは」
リーンはなんでもは知らないと言った。
その中にリーン自身の事が含まれているとは思いもよらず、僕は罪悪感が湧いた。
でもそんな僕の思いとは裏腹に、リーンはあっけらかんと笑う。
「せや! じゃあウチ自分探しするわ」
「自分探し?」
一体何を言い出すんだこの妖精は。
「ウチが何で生まれたか、何でここにおるんか、そういう哲学的なことを探るのが自分探しやろ?」
「い、いや…本来の自分探しは今までの生き方を捨てて、新しい生き方とか新天地とかそういうのを探すことだけど…」
「そうなん? まあええわ、ほんならこれがウチの『自分探し』や!! あんたはこれから冒険に出る。ウチも当然一緒に行く。その旅の途中でウチがなんでこの世界におるんか、もしかしたらわかるかもしれへんし」
「わからないかもしれないけど、いいのか?」
「その時はその時や!!」
弾ける笑顔が眩しい。
この妖精の前向きさ、見習わないといけないな。
折角イケメンに生まれ変わったのだから。いや、イケメンは関係ないか。
――こんな風に前向きに生きていれば、僕の生きていたころも何か少しでも変わったのだろうか?
まあ今更でしかないのだけど。
「ほんならまあ、善は急げ! 急いで出発の用意して、姫さんの依頼受けに行くで!」
「わかった」
◇ ◇ ◇
後ろからリーンに急かされながら、僕は必要だと思うものを詰め込んでいく。
二階にある部屋は自分の寝室、両親の寝室、客用の寝室と武器や防具といった装備品の部屋、回復薬などと言った薬類などの部屋だ。
普段用の着替えと、思っているよりもいかつい防具があったのでそれを着て、武器は…武器はあの寝室にあったので行こう。
片手剣と盾はタカアキのメイン装備だし。
でも、もしかすると他にも必要になるかもしれない。弓、メイス、大剣、それに薬類はたくさん持っていく。
まだ試していないからわからないけど、メインストーリーに関することのみに制限がかかるなら、関係のない場所に行った時どんなことが起こるか…。
それもこれもあれもと入れまくって、ずっしりと重く大きくなった鞄を見て、妖精が爆笑する。
「ぶはっ! あははは!! ちょっと! 鞄でかすぎやから!! そんないっぱいいらん!! 勇者はスマートに冒険に出んかい!」
「いや、でも冒険に出るとなったらやっぱり必要なものは全部…」
「待て待て! あんた『
んあっ?!
ああ~…。
いやもう、本当に素で忘れていた。
タカアキが覚えている魔法は全部僕も使えるんだった…。
すなわちそれは、この世界にある魔法『全て』だ。
いや、でも一つも使ってみていないから、後でこっそり本当に使えるか試さないと…。
「それに、なんやその防具!!」
「え!?」
「タカアキはそんな鎧一回も着てなかったで!?」
「ええ~…、そんなこと言われても…」
実際ここにあるし、これが一番防御力高そうだし…。
着けておいて損はないのでは…?
「脱げ脱げ! そんなんタカアキに似合わんわ。タカアキのイメージ壊すんやない! つけてもサポート程度のにしとき」
「嫌だ!!」
「脱げ!」
「嫌だって……!! あっ! ああ…っ! いっ…いやぁ…っ! やめてぇ!!」
思いのほか怪力な妖精さんに鎧をひん剥かれる。
「タカアキはどんな敵に対してもいつも軽装やったで!それでも大丈夫っちゅうことや!」
……はて? リーンの言ういつもとはどこを指し、そしてそれは僕に当てはまるのだろうか?
いや、僕はタカアキだ。
大丈夫…のはず。
何度も何度も僕は『エターナルダークサーガ(仮)』のタカアキ…僕は『エターナルダークサーガ(仮)』のタカアキ…と繰り返さないと敵を前に……いや、やめておこう。
考えたらまた足が止まってしまう。
装備
片手剣(右手)
片手盾(左手)
黒い戦闘服(上下防具/軽装)
遠雷の腰当て(腰)
速度上昇の腕輪(右手首)
防御力上昇の腕輪(左手首)
揺らぎの耳飾り(耳)
「…ちょっと待ち」
「えっ、まだなにか…?」
びくびくしながら振り返るとリーンは攻撃力上昇の腕輪を持ってこちらに近づいてきていた。
「防御力が上がる腕輪は外して、こっちに換えるんや」
「こ、このくらいはいいだろ? こんな装甲力のない服で防御力を上乗せできないとか…」
「あかん。最強の男は黙って攻撃力極振りやろが!!」
どんな偏見!?
「指輪をつけへんかったのは褒めたる。剣振るのには邪魔やからな。『
まあ王女と一緒に『
装備
片手剣(右手)
片手盾(左手)
黒い戦闘服(上下防具/軽装)
遠雷の腰当て(腰)
速度上昇の腕輪(右手首)
攻撃力上昇の腕輪(左手首)
揺らぎの耳飾り(耳)
ううっ…妖精さん怖い…。
子どもに対して煩い母親とか、嫁に対して重箱の隅を突く姑みたい…。
「母親やら姑やら…あんたウチの事舐めてんのか?!」
「ひいー!」
思っているより頭の中を読まれるというのは、びっくりするもので、そして…辛いもので。
本来なら口に出さずに頭の中に留めているからこそ、人間関係というやつはうまくいくと思う。
「ごめんなさい。舐めてません…」
うう、泣きそう。カンサイベン恐い…。
「こっちだってなあ、あんたの頭の中を好きで読んどるんちゃうで? 聞こえてくるんやししゃあないやろ? こんなにカワイイ妖精を侍らせて、母親とか姑とか恐いとか、全く」
確かに見た目はすごく可愛い。
だから、もう少しだけ…その…、柔らかく話してもらえると嬉しいんだけど…。
「柔らかくねえ…。誰かいる時はいつもそうしてるから今更やけど…二人の時はなあ…。ま、検討してみるわ」
「検討だけですか…」
これは…、ずっとこのままのような気がしないでもなくもないような。
「うん、まあこんなもんか…。揺らぎの耳飾りもまああんたにしたら面白味のあるええチョイスちゃうか?」
「あ、そうかな?」
揺らぎの耳飾りには不安要素もあるが、多分大丈夫だろう…、ストーリー通りに進むなら…だけど。
小説では遠雷の腰当ての描写はした覚えがあったから、それは外せないとして、それ以外に関しては自由が
しかしながら…本当に今更ながら、こんな軽装で最強クラスの敵に挑みに行くとは、正気の沙汰ではない。
確かにキャラクターイメージというやつは大事だ。
でもそれは命よりも重いものではないと思う…。
若さって怖い。
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