第10話 質問は時間の許す限りいくつでも 2

「あと、ユウナは一体どうやって家にいる俺の腕の中に落ちてきたんだ?」

「知らん」

「えっ」

「あんたがその説明を小説に入れてなかったからな。ウチが知ってるのはあんたが書いた小説の中身だけや。なんでもは知らん。でもまあ、予想はついてるで。『空間移動テレポート』の一種『空間指定移動アシポート』や」

「ああ…!」


 そうだ、冒険と言ってはなくてはならない移動魔法、『空間移動テレポート』。

 空間移動系の魔法は調子に乗っていくつか作った…ような気がする。


「それを、アレクスがユウナに使って落ちてきたんやろうな」


 そうだったのか…。


「他に質問は? ないなら、はよ準備していくで」

「待って待って!! えーと……あっ! 僕にはチート能力はないのか…? なんかほら、異世界転生って神様的なものに冒険とか生活で役立つアイテムとがスキルとかそういうの…貰えるよね?」


 死んだと気付いてから、神様的な物との交信もなく特に何も授かる様子がなかった。

 妖精がそういうギフトを授ける的な立ち位置のキャラなのかな~と勝手に思っていて。

 だとしたら早く欲しいなと…。


「はぁああ???!!」


 全く意味がわからないとばかりにリーンは顔を歪める。怒りも混じっているようだ。


「えっ、なにそのリアクション…」


 そういうものは僕には授けてくれないのだろうか…。

 特大の溜息を吐いて、


「すでに持ってるしちょいちょい使ってるやろ? それ以上のチート能力なんかあるんか?」

「ええ?? どういうこと…?」


 すさまじい量のスキルや魔法を持っているのはどうやら前のタカアキ君からいでいるっぽいから、チートとは言えないだろうし(それだけでも十分と言われたらそうかもだけど)、まさか歌やダンスが上手いっていうやつ…?

 いや、それもタカアキ君が持っていたものだし…僕がここにきてから歌ったり踊ったりしてないし、どんなのか分からないけど…。


「今まで繰り返し自分で言うてるやん。わかった上で話してるんやと思ってたわ」

「繰り返し……?」

「…え? どんだけ鈍いん? それともわざとはぐらかしてるんか?」

「僕がんな高等なことできるわけないだろ! はぐらかしてるのはそっちだろ!?」


 すでに持っていて、何度も使っているもの…?

 今まで繰り返し自分で言っている?

 ――その、チート的ななにかのことを???


「あ―…っ!!」


 そうか、当たり前だと思い込んでしまっていた。

 しかし確かにこれ以上のこの世界でのアドバンテージはない。


「あんたはこの物語の作者、世界の創造主。この先何が起こるか、全部知ってる。これがチートじゃなくてなんなんや?」

「…えぇ~…、それ…かあ…」

「…なんや、残念そうやな?」


 ――そりゃ残念だよ…。

 この小説を書いたのが何年前の話だと思ってるんだ…。

 最後にこのノートを開いたのは16年も前…16年も前だ!!

 0歳だった子が女子高生だぞ!!

 んひょお! 時間って恐い!! 

 思春期の目まぐるしく毎日が過ぎる多感な時期に、勢いだけで書いたこの小説…。

 …全部覚えてるわけなんて…ないだろう…?

 そりゃ全部しっかり覚えていれば、その通り進むとわかっているのだから迷うこともないだろう。

 しかし、何度も言うけど16年以上も前の小説の内容を、しかも16年間一度も読み返していないモノの内容を!!

 全て覚えているわけがない!!


 僕の脳みそは平凡なんだ!!!


 あの頃はすさまじい万能感があった。

 僕は特別なのだと思っていた。

 いじめられても、いじめる奴が低能なのだと見下して、中学も高校も皆勤賞だった。

 でも逆に言えば…それだけが自慢だった。

 勉強は出来る方だと思っていたが、身の丈に合わない大学を受験して失敗した。

 滑り止めで入った大学は、自分に合わないと思いながら通い、真面目系クズだった僕はただのクズになり、二年留年した。

 原因はギャンブルだった。

 社会に出て、そして僕はやっと……特別じゃないのだと思い知った。

 僕は途端に恥ずかしくなって、この小説もその頃を思い出したくないと、ずっとしまっていたのだ。

 異世界に転生しても、結局持っているチート能力さえ満足に使えないとは、笑える。


「ふっ…ふふ…はははっ…!ははははは…っ!!はっ…はっは…っ…はは…はぁ~あ……」


  ――結局、痛いだけなんだ。


 また掴まれる、『黒歴史』の呪いに。きつく、きつく。

 苦しい。苦しい。苦しい。……眩しい…。


「…アキ、おい…あんた大丈夫か…?」

「なんでもないよ、姉ちゃん…」


 呼びかけられて咄嗟に出た。


「誰が姉ちゃんや」

「…え、あ…ごめん…」


 何で今思い出すんだ。

 僕には姉がいた。姉は僕のことをアキと呼んでいた。

 なんでもできて、僕が進みたい道の一つに進んで行った。僕の劣等感を一番近くで刺激する、僕の自慢の姉。

 だから、うっかりだ…。

 こんなサイズの姉が僕にいるわけがないのに。


「最後の、質問なんだけど…」

「なんや?」


「君は一体、誰なの?」

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