第9話 質問は時間の許す限りいくつでも
「うん…! 私も手伝うよ、用意してくるね!」
イロハは嬉しそうにドアから出て行く。
……ついさっきまで僕の事を殺そうとしてた気がするけど、切り替えが早いなあ。
気付いたらなぜだか吹っ切れた顔をしていた。イロハの中でどんな心境の変化があったのだろうか。
「さ、じゃあ旅の準備をしないとな」
ここは『僕』の家だ。だからどこに何があるか位は頭に入っている。
準備の為に二階への階段を上ろうとした時――
「ま、茶番やな…」
聞こえるか聞こえないか位の声量で、興味なさげにつぶやく妖精。
「今、なんつった?」
僕は聞き逃さないぞ。独り言は絶対聞き逃してやらない。
誰かがボソッと喋る一言、それは絶対に何か『秘密』を
それは恋心であったり、世界に関する重要な事柄であったり、心境の
一応小説を書いていたから知ってるんだ。
鈍感系主人公でいるのは、甘酸っぱい方面だけでいい。
「なんでもない。とにかく、はよ用意して」
妖精が話題を変えるためなのか、僕の背後に回って僕を押す。
割と力強い。
「待て、茶番ってどういうことだ!!」
「ちっ、聞こえとったんか」
第三者がいなくなった途端急に態度が悪くなるなお前。
「聞こえてなかったらスルーするところだ。でも、こんなめちゃくちゃな流れじゃなかったら、お前に聞かなきゃいけないことがたくさんあったんだ」
「はぁ、さよか。めちゃくちゃな流れなのはあんたのせいやけどな」
ぐああ…っ!!
や、やめろ…そういうの心臓が痛いんだから…!!
「と、とにかく訊きたいことがいくつかある。答えてもらうぞリーン!」
「へいへ~い」
……ほんとに態度が悪い。
「まずさっき、『受けることは知っていた』って言ったな?」
「まあ…、言うたね」
あくまでも妖精は興味がなさそうだ。
「それはなんでだ?」
「なんでも何も…。そう作ったのはアキやろ。物語がそうなってるからや」
「物語か。そう、今僕がいるのは『エターナルダークサーガ(仮)』の世界だ。僕がそう書いたから。それはわかる。でも、僕には今『意思』がある。僕の手によって動かされていたタカアキと違って、僕は今誰にも動かされてない。さっきのクエストの受注だってそうだ。最初僕は受けないと言った。そういえばその時もお前、それは無理って言ったよな? あのまま受けないことだってできるはずなんだ。僕の行動は誰にも規制されないんだから」
「ああ、そこんとこの認識の話か。そう、それが無理な話なんや」
どういうことだ…?
「あんたの『意思』は制限されてないけど、『自由』は気付かんうちに規制されてる。『エターナルダークサーガ(笑)』よりも下なんや」
こいつしれっとカッコカリをカッコワライにしやがった!!
か、(仮)なのにはちゃんと理由があって…、その…担当さんがついたら担当さんと相談してかっこいいタイトルを考えようと思ってたからだよ…!
タイトル弄るのやめろよ!
説明するの恥ずかしいんだから!
ちょっと、呪いがまた発動してる! 痛い!
「僕が創造主なのに、物語よりも下ということなのか?」
「そうや。外れようとしても筋書きに戻ってくる。さっきまでの流れにしてもそうや。始まりの起点として『謎の美少女が落ちてくる』。その美少女から『サンダードラゴンの調査依頼を受ける』というのは、序盤のストーリーが進むための肝の部分や。どう
作り出した時はこの世界を好きなように創造する力があったやろうけど、この世界に来た時点でその力はなくなっとる。だから、物語の筋書きを変えるとかこの世界にない魔法を出すとか。そういう能力はアキにはない。この世界の神…、せやなあ…この世界の人が信仰しとる四神や他の神様達を除けば、運命を司どっとる『エターナルダークサーガ(笑)』が神みたいなもんか」
「か、神はちょっと調子に乗って思ってただけで…。説明を聞いたら納得したよ。
でも僕が書いた物語とは細部が全然違うし、やってみないとわからないだろ?」
「なら変えるために動いてみたらええ。ウチは止めへんで?」
でも結局僕が依頼を断ることはないと、分かっているのだろう。
「…さっきまでいた三人…僕が書いた覚えのないセリフや動きをしていた…。なら、物語の根幹だって変わる可能性も…あるんじゃないのか?」
「せやなあ、あるかもなあ…」
本当に興味がないのだろう。必死な僕とは対照的に妖精の返事は生返事になってきた。
しかしこの話の筋道と僕との関わりの話、わりと重要なことだと思うのに、思いのほかあっさりと教えてくれた。
てっきりはぐらかされるものとばかり思っていたのに。
――大体の物語が秘密に関しては意味深に引っ張られるのがオチだし。
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