第7話 上級クエストは突然に

「サンダードラゴンが現れたことで、何か困ったことがあったのですか?」

「本来、サンダードラゴンは捕食行動を長くとも一週間程度で終えて、自分の寝床へと帰っていきますわ。その後数ヶ月から一年程度は帰ってこない為、国民は元の生活へ戻ります。しかし…サンダードラゴンはなぜか数日も経たないうちに戻ってきたのですわ。国民はまた砦へと避難をいたしましたが、備蓄を追加する間もない再避難でしたので、もう数日で砦内の備蓄が切れてしまいます…」

「そのサンダードラゴンが、別個体という可能性は?」

「…わたくし、魔邪生物ゲイルの研究をしておりますわ。ですので、自身を誇るわけではありませんが、魔邪生物ゲイルに関しての知識は、七ヶ国の研究者と同等かそれ以上と自負しております。わたくしが断言いたしますが、現在我が国を縄張りとしているサンダードラゴンは一体のみ。これは我が国の領土がそれほど広くないと言うのもありますが、サンダードラゴンは縄張り意識の強いドラゴンですので、繁殖期の伴侶や子ども以外では他のドラゴンと縄張りを共有することはあり得ないからです。その伴侶や子どもも、一定期間を過ぎれば他の場所へと飛び去ります」


 祖父にだまされたり、そういった面での知識が乏しかったりとちょっとおつむが弱そうな一面を持ってはいるものの、対魔邪生物ゲイルにかけてはユウナはエキスパートなのだ。


「ただ…、不可解なことがもう一つありますの…。本来であれば生き物がいる場所に無差別に落とす雷を、人が多く住む場所に限定して落としているように見えるのです」


 その捕食行動ではないように見える不可解な動きが、どうも気になると言う。


「国民たちも、普段と違うサンダードラゴンの動きに怯えております。天災用のシールドが破られることはないとは思うのですが、これほど限定的に攻撃を受けることは今までなかったので、絶対とも言いきれず…」

「それでは、サンダードラゴンの討伐を依頼に来たのですか?」


 王女は首を横に振る。


「いいえ、討伐であれば、わたくしのお父様やお爺様でも可能ですわ。しかし、我が国にいるサンダードラゴンが居なくなってしまったら、別の場所に縄張りを持つドラゴン同士の縄張り争いが、国の上空地上を問わず起こるでしょう。それは恐らく、戦争よりもひどい状況になることが過去の資料によって分かっています。ヨルンの神龍様が動いてくれれば事態は早く収集するとは思うのですが、恐らく動いてはいただけないでしょうし…。このようなことになっている原因を突き止め、ドラゴンを巣に帰してほしいのです」


 ヨルンのドラゴンは、当然だがヨルンしか守護しない。

 それはこの地が特別な場所であるということにも起因するという設定にした覚えがあるが、とにかくまあ他国の縄張りには興味がないのだ。


 とんでもない登場からの落差が激しすぎる深刻な依頼。

 確かに、この依頼は単なる討伐ではない為、恐らくこの世界で受けて成功させられる人間は限られてくるだろう。

 …でもいや、ユウナのあの登場の仕方は…、この小説を書いてたあの頃の僕の名誉にかけても断言できるけど、書いた小説と色々違う…。

 姫はあんな恰好をしてなかったはずだ。普通の上等なドレスで降ってくるはずなんだ…。

 だから、最初にどこかの国の姫なのではないかというおおよその察しがついて――…


「受けるでしょ?  この依頼?」


 僕の考えを遮り、当然よねと言わんばかりに妖精はささやく。


「え? いや、受けないけど?」

「はぁ!?」


 妖精だけでなく、イロハ、ユウナ、セバス…。

 全員が目を見開いて二の句を継げないでいる。


「受けないって、なんで…?」


 口を開いたのはイロハだ。


「いや、逆に訊きたいけど、なんで全員僕が断らないと思ってたの?」

「……あの、それは…あなたが予言の救世主様だからですわ…」


 おずおずとユウナが言う。


「それだよ!!」


 僕は堪えきれず、テーブルを叩く。


「予言された救世主様だからって、依頼を断っちゃいけない理由なんてないよね?」


 ゲームだってちゃんと受けたくない依頼は断れる。

 ここは、僕が書いた世界なんだから、僕は…創造主なのだから…!! 

 僕は何をしてもいいはずだ!

 だって僕はこの世界の神!!

 だからまあ、サンダードラゴンの調査依頼? それもまあ…当然やれるよ?

 そりゃ、神だしね!!

 ちょちょいのちょーいよ。…多分。

 でもほら、人間気が乗らない時ってあるよね。

 今がそれ。

 鼻息荒く興奮している僕の頭に、リーンの声が流れ込んでくる。


(あー…うーん…それは無理な話やなあ…)

「はえ?」


 テレパシーということに気づかず声が出た。

 妖精以外は、きょとんとした目で僕を見ていた。

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