第2話 既視感はつきまとう
わあ~! こんな見事なピンク色の髪の毛初めて見たなあ。
緩くウエーブがかかった柔らかそうな髪の毛は、現実なら痛みまくっているだろうと、身も蓋もないことを考えてしまう。
しかし、この目の前でふわふわと揺れる髪の毛はあくまでもこれは地毛の色ですよと言わんばかりの艶。
それに枝毛一つもない完璧なキューティクル。
流石に生徒指導の先生も、「ま、まあ地毛なら仕方ないな…」と言ってしまうだろう。
薔薇色の宝石ロードライトガーネットのような色の美しくうるんだ瞳は、
半分ほど開かれた柔らかそうなぷっくりとした唇は、思わず吸い込まれそうだ。
――それに、その…すごい…。
すごい…おっぱい…すごい…。
34年と5ヶ月生きてきて(あっ、もう死んだけど)、こんなすごいおっぱい初めて見た…。
いやまずね、腕の中に女の子がいるっていうのがね、すでに初めてなんだけれども…。
なぜか男女混合で高校の時に踊らされた踊りは、男女で手を繋ぐ甘酸っぱいダンスではなく、地元の伝統文化の殺伐とした夫婦げんかのような踊りだったし…。
おふっ、おっぱい、おっぱい…すごい。ヤバい。
(ウチには聞こえてるって言うてるのに、おっぱいおっぱい言うな)
妖精さん僕の頭の中読んでツッコんでくるのやめて~。
僕だって健全な男の子(34歳)なんだよお。
妖精の顔を見ると、不快さを表に出さないように真面目な顔をしてこらえているのが、僕には分かった。だって口の端っこがひくひくしてるし…。
人はおっぱいの前には無力なんだよ…!
いやおっぱいだけじゃなくて全体的に柔らかくていい匂いするし…。不可抗力でつかんでる太ももも柔らかいし…。
こんな体験初めてだし…。
などと、動くこともできず僕はピンク髪の少女を見ていた。
すると鋭い気配を感じた。
僕は…『張り詰めた空気』というやつをこの瞬間初めて知った…。
普通に生きているだけなら、味わうことのなかったであろう空気…。
それなのに分かってしまう。
――そうこれは…――殺気だ。
…あっ! 来る! 来るよ~! ヤバい! ヤバい! ヤバい!!
ドアの前にいた幼馴染(仮)が残像すら見えるほどの猛烈なスピードで近づいてくる…これって縮地ってやつ?
バッチィィン!! …ィィン…ィン…
強烈なビンタを喰らった。部屋の中に音が反響するほどの。
「ッッッ!!」
痛すぎて声にならない…。
うーん!!
寝起きにもね! 一発喰らってるからね!
同じ方の頬に二回ビンタはキツイっすわ!
ほんとね! 逆の頬にならまだ耐えられたんだけども…!
朝の占いで「今日のアンラッキーさんは左ほほです」って言われてたとしても納得がいく。
頬っぺた叩かれることって実際言うほどないからね!
でも妖精に叩かれた時より、今回のビンタの方が数倍痛い。
サイズの違いというよりはもっと別の…根本的な何かが違う。
「誰なのよ、その子~!!! そっ、そんな恰好の女の子と…! ふっ、ふた、2人で一体…なっ! なにを…!! あと、その…、いやらしい顔をやめて!!」
えっ、僕知らないうちにいやらしい顔してました?
幼馴染(仮)は真っ赤な顔をして涙目で叫ぶ。
そして抱きかかえた美少女も涙目。
当然わけのわからないまま幼馴染(仮)から強烈なビンタを喰らった僕も涙目。
そこで場の硬直を解いたのは妖精だった。
「イロハ、2人じゃないよ! 私もいるよ! その2人が『ゆうべはおたのしみでしたね』的なことになってないっていうのは、私が保障するから!」
イロハと呼んで、幼馴染(仮)の周りを慰めるようにびゅんびゅん飛び回る妖精。
「それ…ほんとう…?」
大きな瞳から今にも涙が零れ落ちそうだ。
……そうだよ!!
僕は生まれてこの方『
カット率は悲哀の常時100%。スキルも使ってないのに!!
でもできればね! 宿屋の店主にそんなこと言われたいですよ? そりゃもちろんね!!
おいおい親父~聞き耳立てるなよ、百歩譲って聞いたとしてもそこは黙っとくもんだろうがよお!
でもまぁ…『
なんつってね!
僕の純潔が散ったことを宿屋の親父とビールでも飲みながら陽気に祝いたいけれどもね。
あ、でも会話をしているということは、妖精さんは僕にしか見えない聞こえない的なイマジナリーフレンドってやつではないのか。
それもそうか、現に頬っぺた叩かれてるし。
この歳にして妖精が見えるようになったかと思ったら、そんなことはなかった…。
だからテレパシーで僕にツッコミをね~…なるほどなるほど~。
と、それは置いといて、イロハ?
彼女の名前はイロハと言うのか…。
もちろん僕の幼馴染ではないというのは確定しているが、イロハという名前に聞き覚えがある。
この金髪に近い飴色のボブヘアーの活発そうな美少女…。
そしてこの登場の仕方。思い込みの激しい感じ…。
どこでだったかな?
マンガ? ラノベ? アニメ?
それともどこか別の場所だろうか?
…まあ、ありがちな名前だしなあ…。
登場方法も幼馴染を起こしに来るなんていうベタで使い古された、幼馴染の鉄板的な行動だし…。
「ならよかった…けど…。いやそもそもリーン! あなたがついていて、何でこんなことに!」
なるほど、妖精の名前はリーンと言うのか。
リーンと呼ばれた妖精は、イロハの顔の前で動きを止めて、こちらをちらりと見た。
「うーん、それはねイロハ…。今日が…『始まりの日』だからだよ。あの女の子が『始まりの少女』」
――『始まりの日』? 『始まりの少女』?
これまた、どこかで聞いたことがある。
既視感につぐ既視感…。
あとちょっと胸が痛い。何でだろう?
この異世界もしかしてあれかな?
タイトルをつけるとすると『ベタな異世界冒険譚~どこかで感じた
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