第3話
骨になった兄貴を抱え、両親は早々に仙台に帰っていった。
あんたアパート近いんでしょ、片付けは頼むわ、という言葉を残し、兄貴の家だか部屋だかの鍵を俺に押し付けて、である。
ひどすぎやしないか。
いくら親父とお袋が急に老けて見えて、実際に魂の抜けた顔をしていたとしても、だ。
俺だって忌引き休暇が無限にあるわけじゃない。兄貴の家だか部屋だかマンションだか知らないが、遺品の整理や処分が半日やそこらで終わると思っているのか。しかも鍵は二つあった。別宅でもあるのか。どんだけセレブなんだ。意味が分からない。
鍵二本と、一緒に押し付けられた住所のメモを、俺は無視したかった。だが両親が仙台に帰ってしまった今、普通に考えて、このまま放置するわけにはいかない。そのあたりは、充分すぎるほど、俺も大人になってしまっていた。
十二月の東京は、クリスマスソングとLEDのやたら明るいイルミネーションが溢れ、何処もかしこも浮ついていた。
大人になってしまったから、俺にはサンタも来ない。
俺は家族に不幸があったのを言い訳にして、面倒な忘年会を片っ端から断った。
いろいろ忙しいんで、とメールを返した。嘘は吐いていないはずだ。
言い訳を後から作るように、両親が帰ってから一週間ほど経った週末、俺はメモの住所を地図アプリで検索しながら、国分寺へ向かった。
中央線の車内の中づり広告も、カラフルだった。イルミネーションや冬のセールやお節料理の写真が、やたらと目についた。
二十代最後、彼女もいない。
それどころか、俺はこれから死んだ兄貴の家を片付けに行く。
笑っちゃうようなシチュエーションだった。
大体、外資系コンサルティング会社の正社員で、勤務先が品川のなんかシュッとしたビルの高層階のオフィスで、どうして国分寺から駅徒歩十分の所に住んでるんだ。六本木に住めよ。二十三区からはみ出てんじゃねえよ。
腹の底でぶつくさ文句を言いながら、改札を出た。
絶賛再開発中の駅前と、LEDでちかちかしている色んな店のデコレーションと、厚着した人々の往来が、駅前でごたまぜになっている。空間がひどく狭い。
見知らぬ人と人との圧迫感を無視して、空気は冷たかった。
狭いのに、なぜか、遠かった。
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