第14話 それでもやっぱり十万円はボクらにとっては大金で、仕方ないのでボクらはちょっとした金策に走ることにした

 それでもやっぱり十万円はボクらにとっては大金で、仕方ないのでボクらはちょっとした金策に走ることにした。

 学校を休んだボクたちは、ずっと昔に繁華街だった、今は廃ビルが並ぶだけの人気のない通りを、朝から二人で歩いていた。

 冬の朝の澄んだ寒さに、ボクたちの吐く息は白い。ひしひしと這い寄る冷気にボクたちは声まで凍ったように無言だった。冬の空は意味もなく晴れていた。

 しばらくそうして歩いていると、加賀見さんがぽつりと言った。


「見つかるかな?」


「見つかるよ、きっと。ビルの中も探してみよう」


 そう答えたボクは、近くの適当な廃ビルに入ってみた。日の当たらない廃ビルの中の空気は、外よりも一層に鋭く冷えていた。その空気に生臭いものが混じっていることに気づく。割れたタイルをバリバリと踏みながら奥に進むと、はずれたドアのむこうによどんだ影が見えた。


「ほら、あった」


 そこには死体があった。コートを着た若い男の首吊り死体だ。コートの内ポケットを探ると財布があった。一万円が入っていた。


「あと三万円か」


「本当にあったね。次もすぐ見つかるかな?」


 加賀見さんはそう言って、次の死体を探しにいった。ボクらの貯金を持ちあったら、全部で十六万円だった。一人分なら買えるけど、二人分には少し足りない。だからボクらは死体からお金を盗むことにした。死体にお金は必要ないし、自殺した死体なら街中に溢れているからだ。


「あっちのビルはどうかな?」


 加賀見さんが隣に建っている、窓ガラスの全部破れた廃ビルを指差す。自殺者は人気のないところに集まりやすい。だからこの廃墟となった繁華街の跡地にボクらは当てをつけてみた。やっぱりキレイじゃない自分の死体は、みんなに見てもらいたくないのだろうか、自殺者はみんな隠れて死にたがる。後ろを振り返ると、首吊り死体の足がぷらぷらとゆれていた。



 *****



「死体はあっても、お金はあまり見つからないね」


 加賀見さんが空を仰ぎながらそうこぼした。昼下がり、少し休むことにしたボクらは、ガレキの転がる廃墟の広場の日だまりで、ちょっと途方に暮れていた。

 自殺した死体を他に三体ほど見つけた。けれどお金は小銭なんかがほとんどで、ちっとも残りの三万円は埋まらなかった。


「もう、他の人に盗られちゃたのかな?」


 ボクが言うと、加賀見さんは首を振った。


「死んだらお金は使わないから、しょうがないのかもね」


 それはそうだ。生きていても、生きるためにしか使わないお金を、死んでからも使おうなんて人はいないに決まっている。


「じゃあ、ムリなのかな」


 冬の空はやっぱり無意味に晴れていて、ぽかぽかとあたたかい日差しの中でボクらはなすすべなく空を見上げるだけだった。

 ボクは加賀見さんの髪の匂いが無性に嗅ぎたくなった。加賀見さんの頭に顔を寄せる。加賀見さんもボクに身体を寄せる。冬の日差しにあたためられた加賀見さんの髪は、お日さまの匂いでいっぱいだった。

 こうしてしばらく日だまりの中で身を寄せあっていると、「クゥ」と加賀見さんのお腹がかわいく鳴った。


「お腹空いたね」


 ボクもお腹が空いていた。


「じゃあ、ゴハン食べに行こう」


 ボクらは廃墟を後にして、人気のある街の方へ歩いていく。ボクらは死ぬためにお金を探していたけれど、まだ生きているからどうしてもお腹が空いてしまうのだ。加賀見さんに聞く。


「なに食べる?」


「ハンバーガー食べたい」


 ハンバーガーを買いにボクらは街へとむかう。

 死体から盗った小銭が、ポケットの中でじゃらじゃらと鳴っている。

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