第五回

 さあ、いよいよ、この連載も佳境に入ってきましたよ。

「段々、文芸ライターとしての自覚が出てきた」というお便りもいただきました。その一方、「下準備をするようになってつまらなくなった」というのもあります。世の中ややこしいなあ。


 ところで、これまでの文中にしばしば21世紀前後の文物が顔を出しますけれども、それはこの宇宙コロニーが建設されたのが22世紀初頭であるからです。私は歴史には詳しくないので細かい年代は申し上げられませんが、コロニー発足時の22世紀初頭から20世紀後半というのはひとつのベル・エポックであり、モニュメントとして重要な意味を持っています。膨大なライブラリィの中にはデジタル化されたその時代の書物や映像資料なども多数残されています。その上私が20世紀後半から21世紀前半のポップ・カルチャーについこの間までハマっていたとあっては、そうなるのもやむを得ないことですよね。


 この宇宙コロニー“ガイア‐01ゼロワン”は、正確には宇宙コロニー型恒星間世代宇宙船であります。直径500㎞、長さ2500㎞の回転する巨大な円筒形の内側面が私達の暮らす世界です。そこはひとつの閉じたエコ・システムであり、水や空気、様々な動植物の存在する豊かな自然環境です。必要に応じて物資やエネルギーの出し入れもなされます。人間の都市文明社会もそこにあるわけです。全人口約一億人、日本エリアの人口約二千万人となっています。

 22世紀初頭ついに実用化された恒星間ラム・ジェット機関がこの宇宙コロニーの主なエネルギー源です。私は技術者ではないので詳しいことは申し上げられませんが、銀河系の恒星間には水素が豊富に存在しており、それを取り入れ核融合を行うことによってエネルギーを得ているそうです。これにより、人類はついに太陽系の外へ旅立ったわけです。


 現在は西暦4004年です。41世紀ですよ。

 本当なら、このコロニー型宇宙船は3000年ごろまでには新天地となる恒星系の惑星に到達している予定だった。事前の綿密な調査データによればそうだった。だが、そこは人類が住める場所ではなかったのだ。それからは、もう大変。このコロニーは銀河の恒星間を唯さまよっているだけと言ってもよい。いずこにあるとも知れない新天地を求めて。


 しかし、今ではこれすら伝説と化しています。地球などなかった、全ては神話伝承である、この豊かなコロニー世界があればええじゃないか、と言う人達もいます。

 それに、このコロニー世界そのものが全て私の妄想だったらどうするか、なんてことを言うとびっくりするでしょ。

 実際問題、もう何処に向かっているのかも、何世代経ったのかも、よく分かんなくなってるらしいんですけどね。なんせコンピューターまかせでしょ。いつか、どっかに着くらしいんですけどね、ハハハ。


 え~と、あのですね、恒星間飛行について語るのが私のこのコーナーの目的ではないんですけどね。問題は文芸なんです。文化なんです。はい。

 相変わらずアメリカエリア、ヨーロッパエリアの文化がコロニー世界をリードしているみたいですね。文学だとコロニー・マーベル文学賞の「花弁」(I・ヤスシスキー)、「永遠のダルセーニョ」(M・M・アダージョ)、「時間外オペレーション」(サラ・リーマン)、映画だと「200100年」(S・シュールリック)などが有名ですね。

 まあ、私のような即席─綿雲収集─作家など、そもそも埓外らちがいなんでしょうけどね。しかし、私はここで何か書かなければならない。タイム・スケジュールがせっぱつまってるんです。

 さて、今日は何しようかなあ……


             (全回 おわり)



                  (了)

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コロニー通信 稲荷田康史 @y-i-2018

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