第三回

 私達が暮らしているのは、コロニーの日本エリアなんだけど、今までこの機関誌の専属文芸ライターだった人がとうとう死んじゃったらしいんです。

 それで、ひょんなことから、コンピューターの選択か何だかによって私が後任に選ばれたらしいんですね。日本エリアの中央にミスティ・シティというのがあって、そこでエリアの管理・行政をやってるわけですけれども、ある日突然、辞令書が送られてきたんですよ。何かの間違いじゃないのかなあ、と思うんですけど、私に適性があることになってるらしいんですね。それでとにかく書かなきゃいけないはめになったんです。このコロニー世界の法律で決められているわけですから。

 それにしても、ミスティ・シティというのも、優秀な官僚がいることになってますが、一説によればそれは伝説的幻想であり、全ては巨大なコンピューターがその実体だとも言われています。ま、どっちが伝説的幻想だか分かりませんけどね、これだと。私は別にどうでもいいんですけどね。


 そうそう、編集部に二、三お便りが届いたらしいので紹介させていただきます。

 まず最初のお便りですが、「書き手にあまりやる気がないように見受けられる」という内容です。

 そうですか。それは少し心苦しいものがありますね。でも、やる気があるのかないのかと問われたならば、ないんです。そういう感じ。

 えっ。あっ、今編集者から「エリアにはあなた一人しか文芸ライターはいないんだから、そういうことを言わないでくれ」と注文が入りました。そうですか。実はこれは最新音声読み取りワードプロセッサーによる口述筆記にも似た形でことが進んでいるコーナーなんですが、もちろんそれ以外の入力形態も用いますけども、それが、若干のタイム・ラグを置きながら、ほぼリアル・タイムでプリント・アウトされ冊子となって配信されてしまいます。これは高度に無人化されたシステムであり、そのタイム・スケジュールは容易に変更することができません。つまり、せっぱつまってるわけです。ですから、一度言ったこと、書かれたことはほとんど取り返しがつきません。私は別に気に病みませんがね、あはは。ああ、ともかく、いたらない点は大目に見てくださいね。

 次のお便りです。「まともな小説も読んでみたい」という内容。そうですね。その手のリクエストもあるかと思って今回は小説を発表します。これでもうちで寝ないで考えたんですよ。ショート・ショートなんですよ。はい、これをいってみましょう。


 ショート・ショート その一 「狼少年」


 その二人組の宇宙人は、UFOに乗り地球に飛来しては、人間を“アブダクト”し、生態を調査した後解放する、ということを繰り返していた。

 ある時、彼等はジャングルの中で一人の人間の子供を捕獲した。

 宇宙人Aが言った。「これが狼に育てられた少年かい?」

 宇宙人Bが言った。「ああ、そうらしい。これは非常に珍しいサンプルだ」

 そして彼等は、すでに捕獲してあった都会の不良少年とその少年とをよく比較検討してみた。

 宇宙人Aが言った。「こっちが狼に育てられた少年で、そっちが人間に育てられた少年だ」

 宇宙人Bが言った。「ああ、そうだ」

 二人の宇宙人は顔を見合わせて言った。

「別にたいして変わりはないな」


                (おわり)


 ショート・ショート その二 「舌の生態学」


 その二人組の宇宙人は、UFOに乗り地球に飛来しては、動物を“アブダクト”し、生態を調査した後解放する、ということを繰り返していた。

 宇宙人Aが言った。「地球のほとんどの動物の舌は一枚だな」

 宇宙人Bが言った。「ああ、でも人間は二枚だよ」

 彼等が捕獲した人間は政治家だった。


                (おわり)


 あ~あ。

 フォーエバー・シティの指導者クラスの方々もがんばってくださいね。


 ショート・ショート その三 「真実の書」


 ある寺院の書庫の奥には“真実の書”と呼ばれる書物が保管されていた。その書物にはこの世界の謎を解く答が記されているという。

 何人もの僧侶や学者がその書物を読みに訪れた。

 しかし、世界の謎を解く答が得られることはなかった。

 その書物はあまりにも難解でそれを理解できる人間は一人もいなかったのである。


                (おわり)


 これじゃ、ほんとに、わけわかんないなあ。


            (第三回 おわり)


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