Phase 09 ― never say goodbye, say “see you”(さよならじゃなく)

温かな水の中に溶けているような感覚だった。

身体の存在が、分からない。上下左右も分からず、視界も無い。

それでいて、不安は感じなかった。

掴んだ手は、確かにそこにあった。


――ジェン、ううん、ジェレミー。ねえ、聞こえる?

――うん。

――君は、お母さんから離れて、うちを出て、何になりたかったの?

――パイロット。

――そっか。


フライズの隣で、掴んだ手の温度が、少しずつ薄らいでゆく。


――フライズ、さよなら。

――さよなら、なんて、言わないで。

――僕は、もう、戻れないから。

――行っていいよ。でも、また会えるって、約束して。

――そんな分からない約束、出来ないよ。

――私が、君を、探すから。

――見つけられるかな。

――大丈夫。


見えない相手に向かって、形の無い表情で、精一杯の笑顔を、フライズは作った。


――だから、さよならなんて、言わないで。またね、だよ。

――うん。……またね。


決して離別ではない別れの言葉を残して、穏やかに、静かに、沈んでゆく。

独りになって、フライズは、柔らかな水の中で、水面を目指した。

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