Ⅲ―どうして
終業式の日も、夏とは言えない肌寒さだった。相変わらず、細い雨が断続的に降った。
数日前に、福岡と那覇で爆破事件が起きていた。過激派はそれぞれの現場で十名以上の死者を出し、世間をお通夜のような雰囲気に突き落としていた。以来、都心の警察官の数が、異様に多い。常に機動隊のワゴン車が、道路を行き交っている。
だが、そんな警戒で明日がどう変わるのだろう、とナリは思う。
この夏休みが無事に終わるのか、ありふれた二学期が来るのか、教職員達はそれすら怪しいと心の底で思っているようで、その不安定な空気は学校中に満ちていた。誰もが気付いているのに、誰も言葉に出さない。
それでも、例えすぐそこの未来が薄暗くても、天気が悪くても、高校生達は夏休みの到来に心を躍らせている。
もっとも、ナリにとっては、夏休みは単にチャットのサクラ用プログラムの起動頻度を上げる良い機会、だった。チャット相手の男には、夏休みだから女子高生は暇なのだ、と思わせておけばいい。一緒に出掛けるような友達はいないし、それに今年は、行く場所も、一応ある。プロジェクトの研究室にあったワークステーションは、ナリの興味を惹いた。
終業式とホームルームの後、ナリは教室に鞄を置いたまま、一旦図書館に行った。夏休みの暇つぶし用に、目に付く範囲で分厚そうな本を適当に何冊か選んで、借りた。
「佐藤さん」
教室に戻ったナリに、同じクラスの女子生徒が声を掛けてきた。
「……私?」
ナリは怪訝な顔で女子生徒の顔を見た。名前もまともに出てこない。それどころか、彼女の背後にいる友人らしい二人の女子生徒に至っては、同じクラスかどうかすら記憶に無かった。
「ちょっと佐藤さんに、知らせておきたい事があるんだけど」
「何?」
教室には、もう殆ど生徒は残っていなかった。女子生徒は眉を顰めて言った。
「佐藤さんが選抜されたっていう、文部科学省のプロジェクトなんだけど。私、親が国家公務員で、偶然聞いちゃったの。あれ、本当は防衛庁がらみなんだって」
「防衛庁?」
「そう」
女子生徒は声を少し低くして続ける。
「才能ある若者を発掘するとか綺麗事言ってるけど、実際は防衛庁が使えそうな人材を囲い込むための、なんだって。だから佐藤さんがそういうのに選抜された事も公表されてなくて殆どみんな知らないし、先生達も良く分かってないんだよ」
「へえ……」
有り得ない話ではなかったが、しかしながら一体どんないきさつで一介の高校生がそんな話を偶然聞けたのか、とナリは首を傾げたくなった。事実だとすれば、政府の情報管理能力も堕ちたものだとしか言えない。そんなナリの思惑をよそに、女子生徒は神妙な顔で、自分で話した内容に頷いている。
「……それで?」
ナリが訊くと、女子生徒は驚きを顔に浮かべた。
「それでって……」
「だから何なのかなと思って」
「え? 佐藤さん、何とも思わないの?」
女子生徒は声を低く抑えて、ナリに畳み掛けた。
「防衛庁って事は、軍事目的だよ? 佐藤さん達が集められたプロジェクトは、表向きは綺麗に繕ってあるかもしれないけど、実際は佐藤さん達を防衛庁が利用しようとしてるんだよ? 戦争の為に利用されるんだよ? それでいいわけ?」
「……」
「防衛って言ったって、所詮は戦争の道具だよ? 守るとか平和のためになんて、綺麗事じゃん。言葉が違うだけで、実際、殺し合いでしょ? 今なんて、明日テロとか戦争とか起こってもおかしくないんだよ? ある日いきなり人殺しに利用されてもいいの?」
少し考えて、ナリは言った。
「……別に」
「――」
「っていうか、どうでもいい、みたいな」
女子生徒とその友人達は、顔を見合わせて絶句している。ナリが重ねて訊いた。
「……で、満足?」
「え……?」
「軍事目的とか、それを私に話したかったの?」
「だって、教えてあげたほうがいいと思ったから」
「ああ……。そっか」
どうでもいい、という言葉は、咄嗟に出てきた正直な感想だった。改めて先程の話を反芻してみても、ナリの胸の内には他の思いは特に沸いてこない。
「……話、終わりなら、私、帰っていい?」
ナリの態度に、女子生徒は憤りを滲ませた声で答えた。
「――佐藤さんがそう思うなら、佐藤さんの好きにしたらいいよ」
行こう、私達も帰ろ、と口々に言って、三人は教室を出て行った。佐藤さんがあんな人だと思わなかった、何あれ、信じらんない。女子生徒達の声が、かすかにナリの耳に届いた。ナリは彼女たちを見送りながら、こういう時は教えてくれて有難うと答えるべきだったのか、と僅かに迷ったが、すぐにその思いを打ち消した。ナリが彼女に自己満足を齎す必要は、何処にも無いだろう。
利用されたとして、どんな悪影響があるのだろうか。確かに、厄介ごとに巻き込まれるのはあまり好きではなかったが、自分に失うものがそう沢山あるとは、ナリには思えなかった。
メトロの駅の電光掲示板には、もう時刻が表示されていないことのほうが多い。
時刻表通りに電車が走らないから、意味がないのだ。
いつの間にかそんな生活に、誰もが慣れている。
ナリが小学生の頃の記憶と比べて、警戒のレベルがかなり上がり、頻繁に電車が止まるようになった。元々が過密ダイヤで、維持するのにも無理があったのである。経済が冷えてゆくにつれて、利用客の数も少しずつ少しずつ減少傾向にあるが、電車の本数も減っているから混雑の度合いは殆ど変わらなかった。むしろ、来た電車を逃すまいとして駆け込む乗客が増えているようにも感じられた。
千駄ヶ谷駅を出てから、まっすぐ自宅へ向かわずに遠回りして、コンビニに寄った。
今日も、近所のコンビニの冷蔵ケースは、空白が多く閑散としている。
棚には、ほんの四、五種類のおにぎりが残っていた。背後の菓子パンの棚も、七割ほどが空である。かつてはアイスクリームが並べられていた冷蔵ケースは、電源が切られ、店の真ん中でただの箱と化していた。入り口の自動ドアの脇に、千円以上するビニール傘とレインコートが陳列されている。
ナリはおにぎりを買って、コンビニを出た。
帰宅しても、家はやはり無人だった。
香月とはここ数日、顔を合わせていない。
ナリは自室のパソコンの前で、おにぎりを食べつつ、自家製人工知能が繰り広げるエロチャットの様子を暫く見守って、時間を潰した。
稼動させているプログラムはサクラ三人分で、それぞれ異なるハンドルネームを付けてある。相手とフランクな会話を交わしながら、女子高生らしからぬ手馴れぶりを見せる『ヒナコ』。過保護な両親に育てられた反動で親の目を盗んでセックスに嵌る、うぶな『スズカ』。パパになってくれる人が欲しいと言いながら、実際は父性より男性を求める『ゆっき』。
資料になる会話は、インターネットの海にいくらでも落ちている。アダルト動画や成人向けの漫画を適当に探して、使えそうな台詞を片っ端から集めた。集積回路を介してなら、何を見ても心が波打つ事は無かった。サクラ達が卑猥な言葉で酷く詰られたとしても、特に気にならなかった。
三時をとっくに回った頃、ようやくパソコンの前を離れた。
メトロで虎ノ門の研究室へと向かう。地上へ出ると、またもや雨だった。
ナリはモノトーンのビニール袋から、折り畳み傘を取り出した。袋には高級コスメのブランドのロゴが入っているが、無論、その店でナリが何かを買ったわけではない。買い物をしたのは香月だ。
カードキーでセキュリティゲートを抜けて上階へ上がると、外国語の話し声が聞こえてきた。
「It’s too early in the morning for you, isn’t it? …Don’t mind. ‘Cause I’m in Japan now. …No, not for a university job…」
研究室の入り口の外で、四十歳前後くらいの細身の男性が携帯電話で話をしている。ナリに気付いて、軽く微笑んで道を空けてくれた。開け放した研究室のドアから、中で数人が作業中なのが見えた。
部屋に入って、最初に目に留まったのが、ワークステーションの前のヒカルの後姿だった。
ナリはヒカルから少し離れたワークステーションの前に座った。横目でヒカルの姿が見える。
暫くすると、電話を切った男性が部屋に入ってきて、ヒカルの画面を覗き込んだ。初日に来ていた顧問達の一人らしい。
「いやあ、早いね。さすが」
「そうでもないと思いますけど」
「君さ、インドのシヴァ神って知ってる? 破壊の神様」
「坂本さん、作業の邪魔っす」
「正直な子だねえ」
ヒカルと坂本と呼ばれた男性の話し声に、知らず知らず聞き耳を立てている自分がいる。からりとした坂本の感嘆にヒカルは、淡々と沈んだ、しかし柔らかい声で応えていた。
ナリは彼らの会話を聞きながら、上の空で、手だけを動かした。スマートフォンをケーブルで繋いで、保存しておいたテキストファイルを呼び出した。それをワークステーション上へコピーして、プログラムとして使える形に整え、続きを打ち込んでゆく。
暫くすると、ヒカルの横に立っていた坂本が、ナリのほうへ歩いてきた。
「佐藤さんだったよね?」
「――え」
「元気?」
「あ……はい」
坂本は、嫌味の無い声でナリに訊いた。
「佐藤さん、それ何してるの?」
「えっと……AIみたいなものです。元は学校の授業で作ったやつなんですけど」
「へえ。会話が出来るって言ってたやつか」
初日の顔合わせでナリが話した内容を、坂本は鮮明に覚えている様子だった。
「もう随分前から老人ホームなんかに導入されてるよね、ネットワークに繋いだロボットは」
「そうですね。同じ系統だと思います」
「出来るのは日常会話?」
「日常会話とか、どうでもいい雑談とか。ネットワークに繋げば、たぶんニュースとか映画の話とかも」
「テキストだけ? 声は入れないの?」
ナリは答えにつまった。理由が説明できない。そもそも、ナリが会話用プログラムを作り始めたのが、テキストのみのアダルトチャットならAIでも務まるのではないか、と思いついたからである。自宅で稼動しているサクラ達に喋らせる必要が無いから、などとはとても言えない。
「その、声は……めんどくさいかと思って。そこに時間かけるより、別のところをいじりたいし」
「成程ね」
坂本が頷いた。横のヒカルを仰いで言う。
「なあヒカル。この佐藤さんのAIを一緒に育てたらどうよ」
ナリはぎょっとした。それに気付いて、坂本が苦笑した。
「あ、ごめんね佐藤さん。思い付きを軽ーい気持ちで言ってみただけよ。あいつ、普段あんまり創造的な事してないから」
「坂本さん、余計なお世話っす」
ヒカルがぼそりと突っ込みを入れる。
「正直な子だね……」
ヒカルがナリとのコラボレーションを即座に断ってくれて、ナリは内心ほっとした。が、頭の片隅では少し残念にも感じていた。他の中学生や高校生と友達になりたいとは思わない。しかしヒカルには興味があった。
彼が打ち込んでいるプログラムは何なのか。十九歳の浪人という身分で何故このプロジェクトに選抜されたのか。あまり他人と馴れ合うように見えないヒカルが、いつの間に坂本と打ち解けていたのか。それとも、彼はもともと坂本とは知り合いで、何がしかのコネでここに来たのか。初日の顔合わせの場で、自己紹介を文字通りの一言で終えた時の学生達のかすかなざわめきを思い出すと、ヒカルについて知りたがっているのはおそらく、ナリだけではないはずだった。
部屋の中央のデスクを囲み、三、四人の高校生達が談笑している。
その声を背後に追いやって、ヒカルの姿だけ視界の端でずっと捉えたまま、ナリはキーボードを打ち続けた。窓の外で日が暮れたのにも気付かなかった。夏だから日が長い筈なのに、連日の雨でいつも戸外が薄暗かった所為かもしれない。
ナリは手を止めて、椅子に座ったまま大きく伸びをした。見渡すと、いつの間にか部屋にいるのはナリとヒカルだけになっている。部屋が静まり返っているのにも、この時初めて気が付いた。
空腹を感じて、ナリは食料を調達しに行く事にした。一応データを保存し、鞄を持って、階下のセキュリティゲートを抜けた先のコンビニへ向かった。
すかすかのコンビニの棚を物色して、粉っぽいビスケットのような栄養食品とペットボトルのカフェオレを買った。研究室の前まで戻って来ると、部屋の中の電気が消えていた。
ナリの胸が大きく波打った。
廊下の窓から見る限り、部屋の中は真っ暗だった。
誰もいない。
咄嗟にナリは、研究室には入らずに、ドアの前で踵を返して走り出した。幸い、荷物は全て持っている。
エレベーターホールは、帰宅する公務員達で少し混んでいた。ナリはエレベーターを待たずに、奥の階段を駆け下りた。一階まで降りると、丁度エレベーターから降りた人の波が流れ出していた。ナリの知っている顔、知っている人影は、無い。
目線だけ隈なく走らせながら、人波の間を縫って、早足でセキュリティゲートを抜ける。
雨は殆ど止んでいた。
名前しか知らない。ヒカルが何処に住んでいるかなど、知る由も無い。
どちらへ行くべきか一瞬迷ったが、メトロの虎ノ門駅へ向かう事にした。改札を目指して走る。
頭の中には、自分の動悸だけが聞こえている。
改札も階段もホームも、通勤の人で溢れかえっている。こんなに数え切れないほどの人とすれ違っているのに、ナリの知っている人影はひとつもない。
丁度ホームに滑り込んできた電車に、ナリは飛び乗った。
周りの乗客にせわしなく目線を走らせ続けようとした。だが、後から後から人波が押し寄せる。ナリは簡単に満員電車の中に埋められた。身動きが取れなくなった。
ここまで来て、ナリは我に返った。
――私、何してるんだろう。
得体の知れない混乱ばかりが渦を巻く。胸で浅く早く繰り返していた呼吸を、整えようとすればするほどに、自分自身に向かって眉を顰めずにはいられなかった。
我に返った事で、ナリは別の事にも気付いた。ナリが乗ったのは、帰宅するのとは逆方向の電車だったのだ。
――バカじゃないの? 私。
雨の湿気と乗客の吐息で、窓ガラスは曇っている。
――なんでこんな事してんの。バカじゃないの。
自分には、こんな所で小さな車両にぎゅうぎゅうに詰め込まれている姿がお似合いだ、と思った。本当に、どうしようもない。
その時、ぬるい感覚を、腰の辺りに感じた。
周囲の乗客の体温とは違う、粘りのあるような生ぬるさだった。
――痴漢だ。
見えない背後で、知らない手が、ナリの腰から尻、太股を探っている。
スカートを隔てた見知らぬ手の感触が、あまりに鮮烈なのにぞっとした。生ぬるい温度とは裏腹に、背筋が冷たく凍りつく。今すぐ、自分という肉体を脱ぎ捨てたい衝動に駆られる。
痴漢の手はゆっくりとナリの下半身に添ってうごめいている。
メトロは駅と駅の間隔が短い。すぐに次の駅に着くはずだ。
しかし今この場所だけ、時間が異常な粘り気を持って、遅く流れている。
「おっさん。何してんの」
不意に、ぼそっと呟く声が聞こえた。スカート越しにナリの股間に差し込まれていた手が固まった。
ナリは自分の耳を疑った。
「社員章とか付けてんのに、勇気あるね。人生終わらす気」
満員電車で後ろを振り返るのもままならないが、聞き間違えようのない声だった。ヒカルだ。
男は震えながら無理やり手を引っ込めた。混雑した車内で密着し合っている他の乗客が、男の存在に眉を顰めた。
電車が次の駅に滑り込んだ。
ホームのざわめきと電車の轟音が、地下鉄特有のコンクリートに密閉された空間で、騒々しく混ざり合う。ドアが開いた瞬間、ナリは後ろからホームに押し出された。
どうにか肩越しに後ろを振り返ると、スーツ姿で必死の形相の中年男性が弾けるように走り出さんとしているところだった。ナリとヒカルは、男に腕で強引に押しのけられた。ヒカルの眼鏡がホームに落ちた。
男は人にぶつかりながら、迷惑など一切顧みず、闇雲に改札へ向かって階段を駆け上がっていった。
ナリはホームの端で、男をただ呆然と見送るしかなかった。
「……あーあ。逃げられちゃった」
「――え」
横にはヒカルが立っていた。ヘッドホンを首に掛けている。
「クズにはクズなりのシメ方があったかもしんないのに。残念」
「あっ、眼鏡――」
「うん」
表情を変えないまま、ヒカルは眼鏡を拾った。白い、華奢な指だった。掛け直そうとすると、眼鏡のフレームが僅かに曲がっていた。ナリは慌てて言った。
「ご、ごめん――眼鏡、もしかして壊れた?」
「ん。歪んだっぽいね」
「ごめん! 本当ごめん、私の所為で! ――あの、弁償するから」
「いい」
「え」
ヒカルは眼鏡を畳んで、無造作にポケットに突っ込んだ。
「安もんだし」
「でも!」
「うちに似たようなの、持ってるし」
「そういう問題じゃ……!」
「伊達だから無くても困んないし」
ナリはぽかんと口を開けた。伊達眼鏡?
どうすれば良いのだろうか。ナリは途方に暮れた。二の句が継げなくなったナリに、ヒカルが訊いた。
「……大丈夫?」
長い前髪の下で、灰色の瞳がナリのほうを伺っていた。
「――あ。うん。ごめ――」
そこまで言って、ナリは言葉を選びなおした。
「――有難う」
「別に」
ナリが礼を言うと、ヒカルは目線を逸らした。しかし、声は相変わらず柔らかかった。それを聞いて、急に全身の力が抜け、ナリはホームの端のベンチにへなへなと座った。
「……帰るんじゃないの?」
「……私? あ、えっと……その、私、こっちじゃなくて。うっかり逆方向の電車乗っちゃったとこで。だから」
「逆?」
「うん。……家、千駄ヶ谷だから」
「へー。とんだ災難じゃん。間違えて乗った電車で、クズオヤジにケツ触られるとか」
ヒカルを追い掛けて慌てていたからだ、とはとても言えなかった。どうしてそんな事をしたのか説明できない。自分でもよく分からない。
「あの……ヒカル、さん、は、何処に住んでるんですか」
「今更。タメ語でいーよ」
ひとつ溜息をついて、ヒカルが答える。
「俺は蒲田」
「えっと……」
「新橋から京浜東北」
「ああ。そっか。ごめん。足止めして。その――有難う」
「ん」
ヒカルは、それじゃ、と短く言って、改札に繋がる階段を上がっていった。先程電車が来たばかりなのに、既にホームは次の電車を待つ人で混雑し始めていた。ヒカルの後姿は、すぐに人混みに消えた。
見知らぬ男に触られた下半身は、ぬめりを帯びているような気がした。吐き気を催すような生ぬるさが、今だ鮮明に記憶に残っている。肌が覚えている。しかし今のナリには、それがまるで自分の身体だとは思えなかった。
ヒカルが、上書きしてくれた。そう思った。
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