第126話 スワンプマン

 スワンプマンという思考実験がある。


 ある男が沼の近くで雷に打たれ、即死した。男の死体は沼に落ち、沼の底に沈んでしまう。

 その後、二本目の雷が沼の近くの泥に落ちた。すると、泥の成分が変化し、死んだ男の記憶、肉体、意識、所持品を全て再現したスワンプマン(沼男)が誕生した。

 

 スワンプマンは自分が死んだ男本人だと思い込んでおり、死んだ男の家に帰り、死んだ男と同じ職場で仕事をし、死んだ男の家族と一緒に過ごした。

 周囲の人間も彼が死んだ男本人だと疑っておらず、いつもと同じ日常を過ごしている。


 だが、男の死体は沼の底に沈んだままだ。


 さて、この時、

 死んだ男は『生き返った』と言えるだろうか?

 それとも、男は『死んだまま』なのだろうか?


***


 吸血鬼となった三島はまず、腕や足を動かした。


 手のひらを握って拳を作ったり、足を上げたり下げたりする。

 体の動きに問題は無い。次は魔法を上手く使えるかどうかだ。

 三島は近くにある大木に向かい、炎の魔法を発動した。大木は一瞬で炎に包まれ、灰となって崩れ落ちる。

 魔法の発動にも問題は無い。次に三島は変身能力を使ってみた。

 吸血鬼が血を吸った人間、魔物に変身する事に成功する。ドラゴンなどの巨大な魔物にも変身する事が出来た。

 最後に三島は『三島由香里』の姿に戻った。自分の姿に戻る事にも問題は無い。


 吸血鬼の力を完全に掌握した。と、三島は確信する。


「出来れば、人間として優斗の傍に居たかった。でも、これで良かったのかもしれない」

 安藤が『自分を好きになる者を引き寄せる特殊能力』を持っている以上、これからも安藤を奪おうと多くの者が集まるだろう。

 その者達全てを排除するには、圧倒的な力が必要になる。


 三島は人間のままでも凄まじい魔法の力を持っていた。

 今の三島は魔法の力に加え、吸血鬼の特性である『不死の肉体』。そして、『血を吸った相手になれる能力』までも手に入れている。


 自分から安藤を奪おうとする者達全てを排除出来る力を、三島は得たのだ。


 しかし、吸血鬼になった事で新たな弱点も出来た。

 光魔法に弱くなったのもそうだが、それ以上に気を付けなければならないのが『封印』だ。


 約千年前、吸血鬼は『聖女』の魔法により封印された。

 吸血鬼を封印した魔法が具体的にどのようなものであったのかは不明だが、今の『聖女』であるホーリー・ニグセイヤも先祖と同じく、吸血鬼を封印する魔法を使える可能性が高い。

 吸血鬼となった今、早急に『聖女』が使った『封印魔法』の対策を立てなければならなくなった。

 しかし、その前に……。


「―――優斗」

 ようやくだ。ようやく優斗に逢える。


 サキュバスに安藤を攫われて以来、三島は安藤を探し続けていた。ずっと、安藤との再会を願っていた。その願いが、今日やっと叶う。

 安藤の居る場所は、吸血鬼の記憶を見て知っている。此処からそう遠くない場所に安藤は居る。

 

「待っていて優斗。今、逢いに行―――――」


 ザザッ……。


 その時、三島の頭の中にノイズのような雑音が響いた。


 ザザッ。

 ザザッ。

 ザザッ。


 ノイズはどんどん広がっていく。


 ズキン、と頭痛がした。三島は頭を押さえる。

「……これは!」


「久しぶり三島由香里。さっきぶりだね」


 三島の口が勝手に動き、言葉を発する。三島の口から出た言葉。それは吸血鬼クロバラの言葉だった。

「何故―――!?」

 クロバラの記憶と意識は三島が完全に乗っ取った。なのに、何故?


「血を吸って君の記憶を見た時は驚いたよ。まさか私の『意識の核』を乗っ取るつもりだったなんてね。本当に


「対策?まさか―――」

「そうだよ」

 三島の声で、クロバラは言う。


「私は『意識の核』が乗っ取られた場合に備えて、それに対処する魔法―――『リカバリー』を既に創っていたんだ」


「―――なッ!?」

「この魔法の存在は、私の『意識の核』から切り離している。だから、私の記憶を奪っても、君はこの魔法の存在に気付けなかったんだ」

 三島は大きく目を見開く。

「……そんな魔法―――いつから?」


「千二百年ぐらい前だったかな?私はね。前にも『記憶操作の魔法』が使える人間と戦った事があるんだよ」


 クロバラは語り始める。

「まぁ、その人間は君よりも遥かに格下の魔法使いだったけどね。私の記憶を操作しようとしたけど、私の持つ膨大な記憶量に対処出来ず、魔力切れを起こして死んだ。その魔法使いは君と違って『意識の核』の存在にすら気付かなかったよ」

「……」

「その魔法使いと戦った後、思ったんだ。『意識の核』の存在にさえ気付かれなければ、『記憶操作の魔法』は膨大な記憶を持つ私には通用しないと。だけど、もし私の『意識の核』の存在に気付き、『意識の核』を消したり、乗っ取ったり出来る魔法使いが現れた場合、『私』という存在は死ぬ事になる。肉体は不死でも記憶と意識が無くなれば、それは屍と同じだからね」


 だから、万一に備えクロバラは『リカバリー』を創り出した。 


「正直、この魔法を使う事は永久に無いと思っていたよ。『記憶操作の魔法』を使える魔法使いなんて数百年に一人出てくれば良い方だし、ましてや私の『意識の核』に手出し出来る魔法使いなんて、これからも生まれる事は無いと思っていたからね。君は本当に凄い魔法使いだよ」

「くっ……」

「さて、三島由香里。君ならもう分かっているだろう。私の創り出した『リカバリー』がどんな魔法なのか……」

 激しい頭痛が三島を襲った。 


「私の創り出した魔法『リカバリー』は、


「がっ……!」

 三島の『ソウル・テイクオーバー』がクロバラの魔法『リカバリー』により消去されていく。


 奪ったはずの吸血鬼の体が、奪い返されていく。


「ぐっ……ぐっ……ああっ!ま、まだだ……」

 激しい頭痛に耐えながら、三島は叫ぶ。 

「まだ……私は……」

『無駄だよ』

「ぐあああっ……!」

 さらに激しい頭痛が三島を襲った。あまりの痛みに三島はその場に倒れる。

「君の魔法の才能はずば抜けている。もし、あらかじめ君が『リカバリー』の存在に気付けていたら、この魔法を無効に出来る魔法を創れていたかもしれない。だけど、既に『リカバリー』の魔法に掛っている君に、この魔法を無効にする魔法を創る事は出来ない」

「がっ……ぐっ……!」

「新しい魔法を創るには、膨大な計算力と凄まじい集中力。そして、時間が必要だ。今の君にはその全てが足りない」 

「あっ……あああ……」

 頭を押さえ、三島は地面を転がる。

「残念だったね。もし、私が前に『記憶操作の魔法』が使える魔法使いと戦っていなければ、私は『意識の核』を君に乗っ取られ、死んでいた。私と君の勝敗を分けたもの。それは『経験』と『運』だよ」

「ああああああああああああああっ!」


 記憶と意識が消えていく。


 三島の肉体は、クロバラに血を吸い尽くされ死んでいる。

 その上、記憶と意識が消されれば、三島は『完全に死ぬ』。 


「死ねない……私は……死ねないんだ!」

 三島は叫ぶ。

「私が死ねば優斗が悲しむ。私が死ねば優斗は苦しむ……優斗には私が……私が必要なんだ!」

「君が死んでも優斗は悲しまない。君が死んでも優斗は苦しまない。何故なら―――」

 クロバラは囁くように言う。


「これからは、私が三島由香里になるからだ」


「―――ッッッ!」

「君の記憶操作によって、ケーブ国の人間が再び大森林に攻めて来た。ケーブ国は今まで国のメンツを守るために他国へ協力を要請しなかったけど、これからは積極的に協力を要請するだろう。この世界にある全ての国を相手にするのは、少々面倒だ。私は優斗を連れて大森林を出る事にしたよ」

「ぐっ……」

『君の記憶と意識が消滅した後、私は優斗に『三島由香里』として会いに行く。助けに来たと言ってね。それから優斗と大森林を出て、どこか落ち着ける場所で一緒に暮らすよ』

「そんな事させ……がっ……!」


「君は此処で死ぬ。だけど、優斗はそれを知らない。


 死んだ男の姿で生まれたスワンプマン。

 男が死んだ事を知らなければ、男の家族や知人にとってスワンプマンは死んだ男そのもの。


 三島由香里の血を飲み、彼女の姿と記憶を得たクロバラは『三島由香里そのもの』になる事が出来る。


『だから、安心して死ぬと良いよ』

「あああああああああああ……!」


 これまでにない頭の痛みが、三島を襲った。


***


 気が付くと、三島は何も無い真っ白な空間に居た。 


 木も、石も、空も……此処には何も無い。


「由香里」

 誰かが三島の名を呼んだ。三島はハッとする。聞き間違えじゃない。その声を聞き間違えるはずが無い。

 何故なら、その声は三島が最も愛する男性の声だからだ。

「優斗……」


 いつの間にか、三島の目の前に安藤優斗が居た。


「由香里」

 安藤は優しく微笑み、大きく両腕を広げる。

「優斗!」

 三島は満面の笑みで、安藤の胸の中に飛び込もうとした。


 しかし、三島が抱きしめる直前、

 安藤はまるで煙のように、三島の前から消えた。


「優斗?……優斗!」

 三島は安藤を呼ぶ。しかし、返事は無い。

「優斗……どこ?優斗、優斗!」

 三島の周囲を闇が包み始める。

「優斗、優斗、優斗!」

 三島は走った。

 しかし、どれだけ走ろうと、どこにも安藤は居ない。

「あっ!」

 足をもつれさせ、三島は転んだ。直ぐに立ち上がろうとするが、立てない。


 三島の足は、膝から下が消えていた。


「優斗、優斗……」

 三島は腕を使い地面を這う。すると、今度は両腕が消えた。

「優斗、優斗………優斗!」


 そして、三島由香里が消え始める。


「優斗……優斗……」

 消えていく。

 三島の中から安藤優斗が消えていく。


 初めて会話した時の記憶も、

 告白された時の喜びも、

 前の世界で安藤を失った時の悲しみも、

 異世界で再会した時の喜びも、

 一緒に暮らした日々も、

 魔女や聖女と安藤を巡って戦った事も……。

 

 消えていく。


 三島由香里から安藤優斗の記憶が消えていく。

 安藤を愛する三島由香里の意識が消えていく。


「優斗、優斗……」

 三島は叫ぶ。

「優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗、優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗ゆうと優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗ユウト優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗ゆうと優斗優斗優斗優斗優斗優斗ゆうと優斗優斗優斗ゆうとユウト優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗ユウトユウトゆうとユウト優斗優斗ユウト優斗優斗優斗ゆうとユウトゆうと優斗優斗ゆうと優斗ゆうと優斗ゆうと優斗ユウト優斗ゆうとユウトゆうとゆうと優斗優斗優斗優斗優斗ユウト優斗ユウト優斗優斗優斗優斗優斗優斗ゆうとユウト優斗優斗ユウト優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗優斗ゆうとユウト優斗ゆうと、ゆうと優斗ゆうとユウトユウトゆうううとユウトゆううとユウウウウト優斗ユウト優斗ゆうとゆうとゆうとゆうとユウトユウト優斗ゆうとゆうとゆうとゆうとユウト優斗ゆうとゆうとゆうとゆうとおおゆうとユウト優斗ユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆううとゆうとゆうとゆうううとユウト優とユウトと斗ユウト優斗ゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウウウウトゆうとユウト優斗ユウトユウ斗優ウト優ゆうううとトゆうトユウとゆウトユウトゆうとユウとユウウウウウウウウウウトゆうとゆうとユウトゆうとゆううとゆうううううとユウトゆう斗ゆう斗ユウトゆうとユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトユウトユウトユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうと…ユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとゆうとゆうとゆううと…ゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとゆうとユウトゆうとゆううとユウトユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトユウトゆううとユウトユウトゆうとユウトユウトユウトゆうとゆうとゆうとユウトゆうとユウトゆうとゆううとユウトユウトゆうとゆううとユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆうとユウトゆうとユウトユウトゆう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 三島由香里の記憶と意識―――魂―――が消滅した。


 三島由香里は死んだ。 


 血を全て吸い尽くされた肉体は『死体』となり、記憶と意識の集合である『魂』は消滅した。

 生体反応が消えた肉体。消滅した魂。

 

 それは、『完全な死』を意味している。


 もう一度記そう。


 三島由香里は―――死んだ。


***


 そして吸血鬼の肉体は、元の持ち主であるクロバラへと戻った。


 自分の肉体を取り戻した吸血鬼クロバラは、『三島由香里』の姿になる。

 吸血鬼は静かに目を閉じると、『三島由香里』の記憶をゆっくりと『思い出し』始めた。


 三島由香里。

 九年前、安藤の『特殊能力』によって彼に引き寄せられて以来、三島は安藤を深く愛した。

 三島は安藤の『特殊能力』に引き寄せられた者の中で唯一、安藤の方が先に好きになった人間である。


 安藤と出会ってから、三島由香里の世界は常に安藤優斗を中心に回っていた。安藤の後を追って異世界に来た後も、それは変わらない。


「優斗とずっと一緒に居られますように」

 それが、彼女の願いだった。


「心配しなくて良いよ『私』」

 吸血鬼はゆっくりと目を開ける。

「『私』の願いは【私】が引き継ぐから」

 三島由香里の顔で吸血鬼は微笑み、安藤が居る場所に向かって歩き出そうとする。


 その時―――。

 

『動くな』


 突然、背後から声が聞こえた。

 その瞬間、三島由香里の姿となった吸血鬼は動けなくなる。


「これは……!」

 吸血鬼は魔法を発動しようとした。だが、その前にまたしても声が聞こえた。

『魔法を使うな』

 その声を聞いた瞬間、三島の姿をした吸血鬼は魔法を発動する事が出来なくなった。

 声はさらに続く。


『抵抗するな』

『私を攻撃するな』


 吸血鬼は抵抗する事も、声の主を攻撃する事も出来なくなった。

 どんなに動こうとしても、その声に逆らう事が出来ない。


 言霊の魔法。

 それは相手を思い通りに操る言葉の魔法。  


「【勝負は勝ったと思った時が一番危ない】。私が好きだった小説のセリフだ」

 背後から聞こえるのは、女性の声だった。


「三島由香里は私の『言霊の魔法』を防ぐ対抗魔法を創り出していた。その対抗魔法がある限り、三島由香里に私の『言霊の魔法』は効かない。お前は血を吸った相手になるだけでなく、血を吸った相手の魔法も使えるようになるらしいな。三島由香里の血を吸ったお前は『言霊の魔法』の対抗魔法が使えるようになったはずだ。『三島由香里となったお前』にも通常なら『言霊の魔法』は通じない。だが、

 女性の声が足音と共に近づいて来る。

「対抗魔法が発動する前なら、『言霊の魔法』で操る事が出来る。お前は本物の三島由香里を殺した事で油断していた。おかげで対抗魔法を使われる前に、お前を支配する事が出来たよ」


(何故……こいつが此処に?)

 吸血鬼はこの声の主と会うのは初めてだ。だが、三島由香里は何度も彼女に会っている。

 三島由香里となった吸血鬼は、背後に居る彼女の名前を心の中で叫んだ。


(菱谷忍寄!)


 凄惨に、残酷に、唇の端を歪め―――菱谷忍寄は嗤った。

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