第124話 七十二時間

「優斗は―――」

「アンドウは―――」


 私のものだ! 


 三島とクロバラ。二つの巨大な力がぶつかった。


***


クロバラはハナビシ・フルールから別の人間へと姿を変えた。その人間は千年前に存在した天才魔法使い。三島とクロバラは最初から巨大な魔法攻撃を相手にぶつけた。結果、大爆発が起き、衝撃で周囲の木々や美しい花達は一瞬で消し飛んだ。ぶつかり合った互いの攻撃魔法は相殺され、消滅する。攻撃魔法が消えたのと同時に仕掛けたのは三島だった。三島は人差し指から『光の弾丸』を放つ。放たれた光の弾丸は、クロバラの肩を貫通した。三島はさらに『光の弾丸』を連射する。頭、腕、腹、足……クロバラの体は『光の弾丸』により、ハチの巣にされていく。ここでクロバラは防御魔法を展開。『光の弾丸』はクロバラの防御魔法により弾かれ防がれる。ハチの巣にされたクロバラの体は数秒も経たない内に再生。次はクロバラが攻撃する。クロバラは三島とは反対に『黒い弾丸』を指先から放った。三島は既に防御魔法を発動済み。クロバラの放った『黒い弾丸』は全て三島の防御魔法に防がれた。クロバラは瞬時に、別の魔法を発動。空から黒い矢を振り注がせる。その魔法も三島の防御魔法が防いだ。クロバラが新たな攻撃魔法を発動する。次の瞬間、三島の足元に巨大な魔物が現れた。その魔物は大きな口で三島の足を食い千切ろうとする。クロバラが発動したのは『魔物を召喚し、使役する魔法』。クロバラが召喚した魔物は普段は土の中に息をひそめ、自分の上に獲物が来ると土から飛び出し、獲物に襲い掛る。クロバラは三島の意識を空からの攻撃に集中させ、留守になったであろう足元を攻撃したのだ。今にも三島の足に食らいつこうとする魔物。だが、三島はクロバラの考えを読んでいた。「『グランド・ウエーブ』」三島が魔法を発動。すると、地面がまるで波のようにグネグネと動き出した。「グオ?」三島に食らいつこうとした魔物は三島の居た位置から遠くに移動させられた。三島に対する攻撃は当然不発となる。さらに地面が波打つと魔物は土の中から空中に放り出された。丸裸になった魔物を三島は難なく『雷の魔法』で消し炭にする。次は三島の攻撃。三島が魔法を発動させると、周囲に雷雲が発生した。発生した雷雲は何百、何千という雷を生み出し、その全てがクロバラに襲い掛かる。クロバラはそれらを全て防御魔法で防いだ。クロバラの意識が雷に向いた時、三島は魔法を発動させる。「『ボトム・スワンプ』」。クロバラの体が消えた。消滅したのではない。クロバラは『地面に沈んだ』のだ。三島が発動した魔法は底なし沼を作る魔法。しかし、通常の底なし沼のようにジワジワと地面に沈んでいくのではなく、ほとんど一瞬で地面の奥底に沈んでしまう。先程、クロバラが三島にやった『上に意識を集中させ、下から攻める』という攻撃方法。三島は意趣返しとばかりに同じやり方でクロバラを攻撃した。地面の中は想像を絶する圧力が掛る。普通の人間では指一本動かせずに圧死する。もちろん、それは『通常の人間』だった場合の話だ。吸血鬼、クロバラは『地面を砕いて』戻ってきた。その姿は先程までの魔法使いではなく、筋肉が異様に発達している人間の男になっていた。ダーズ・バルディアス。千年以上前、『人類最強の筋肉を持つ男』と呼ばれた人物。魔法は一切使えなかったにも拘わらず、そのパワーは魔法以上の威力を発揮したと文献に残されている。しかし、文献に記されているダーズ・バルディアスのパワーがあまりに桁違いであったため、創作ではないのか?と疑われていた。その存在を疑われていた人物が今、三島の前に立っている。「グッハハハハッ」ダーズ・バルディアスに姿を変えたクロバラは、三島に強烈な一撃を放つ。三島は風魔法を使い、自分の体を巻き上げた。ダーズ・バルディアスに姿を変えたクロバラの攻撃は地面に直撃する。その瞬間、大森林全体が揺れる程の衝撃が地面に加わった。「グハッグハハハハハハ!」ダーズ・バルディアスの肉体となったクロバラは滅茶苦茶に拳を振り回す。その一撃一撃が致命傷だ。三島は光る剣……『浄化剣』でダーズ・バルディアスとなったクロバラの腕を切断する。「グワアアアアアア!」クロバラは叫び三島から距離を取る。斬り飛ばされた腕は直ぐに再生した。クロバラはダーズ・バルディアスからまたしても姿を変える。クロバラが次に変身したのはドラゴンだった。絶滅種『アイス・ドラゴン』。かつてこの世界に生息していたドラゴン。口から吐きだされるブレスはあらゆる物体から熱エネルギーを奪い、凍らせる。たとえ超高温のマグマでも、『アイス・ドラゴン』にブレスを掛けられれば、一瞬で凍り付いてしまう。クロバラが変身出来るのは人間だけではない。血を吸った相手ならば、どんな生物にだって変身出来る。「クオオオオ!」咆哮を上げ、『アイス・ドラゴン』に変身したクロバラが三島にブレスを放つ。三島は『アイス・ドラゴン』のブレスに覆われた。防御魔法により、三島本人は無事だが、防御魔法を解いた瞬間、三島は凍り付いてしまう。三島は『熱保存』の魔法を発動した。物体から熱エネルギーを奪う『アイス・ドラゴン』のブレス。三島は物質から熱エネルギーが逃げるのを阻害する魔法、『熱保存』によって『アイス・ドラゴン』のブレスの効果を打ち消したのだ。三島はそのまま攻勢に出る。三島は物質に熱エネルギーを大量に発生させる魔法『ヒート・ランナウェイ』を『アイス・ドラゴン』に変身したクロバラを対象に発動させた。『アイス・ドラゴン』となったクロバラの体の熱が急上昇する。やがて体は燃え出すが、さらに熱は上昇。『アイス・ドラゴン』の体はドロドロに溶けた。しかし、そんなダメージをもろともせず、クロバラは瞬時に再生し、起き上がった。再生したクロバラは、紅い髪の少年の姿をしている。「じゃあ、今度はこうだ」クロバラは別の魔物に姿を変える。今度クロバラが姿を変えたのは『炎の魔人』。常に三千度を超える炎を身に纏っており、近づくもの全て燃やす。さらに手からは高温の火球も発射できる。『炎の魔人』に姿を変えたクロバラは三島に突撃する。対して三島は『竜炎』の魔法を発動。竜の姿をした炎が『炎の魔人』となったクロバラを包む。三島が生み出した『竜炎』の温度は五千度以上。『炎の魔人』すら燃やし尽くす。クロバラはあっという間に燃え尽き、灰となった。その灰が煙に変わる。煙は一か所に集まり、紅い髪の姿の少年になった。少年姿のクロバラに三島は『デス・トルネード』を発動。竜巻が発生し、クロバラの体を空中に舞い上げる。竜巻の中には何万という小さな刃も一緒に舞っており、その刃がクロバラの体を切り刻んでいく。数秒後、竜巻が消えた。空中を舞っていたクロバラの体が地面に叩きつけられる。クロバラの体はズタズタに引き裂かれていた。普通の人間であれば致命傷だが、クロバラはあっさりと立ち上がる。傷は既に再生され、消えていた。クロバラはまた姿を変える。次にクロバラが姿を変えたのは老人だった。老人の名は「シニアル・ジョイ」。またの名を『毒の支配者』。「シニアル・ジョイ」は現代に存在した連続殺人犯だ。発覚しているだけでも数十名。見つかっていない被害者も含めるとその数は百に届くのではないかと言われている。「シニアル・ジョイ」は最初、解毒専門の魔法使いだった。彼は数多くの解毒薬やオリジナルの解毒魔法を開発し、毒に苦しむ多くの人々を救った。だが、彼はいつしか『毒』そのものに魅了されていった。解毒の知識はそのまま毒の生成に使える。彼は『毒薬』やオリジナルの『毒魔法』を開発し、多くの人々の命を救う陰で、多くの人間の命を奪った。犯行が発覚したシニアル・ジョイは逃亡。指名手配されている。そのシニアル・ジョイ。実は吸血鬼に捕獲されていた。シニアル・ジョイの持つ毒の知識に興味を持ったクロバラは彼の血を吸い、その知識を得た。血を吸い尽くされたシニアル・ジョイ本人はそのまま絶命した。シニアル・ジョイに姿を変えたクロバラは『毒魔法』を発動する。最初に発動したのは霧状の毒魔法。周囲に毒の霧を発生させ、一息でも吸い込んだ者を殺す。三島は即座に風魔法を発動し、霧状の毒魔法を全て消し飛ばした。クロバラが次に発動したのは、『マーシィ・ポイズン』。この毒が少しでも皮膚に触れた生き物は眠るように死に至る。痛みも感じず苦しむ事もない『慈悲の毒薬』。この毒魔法は密かに『安楽死』に使われているのではないかと言う噂がある。クロバラは三島に向かって『マーシィ・ポイズン』を放つ。『マーシィ・ポイズン』は無色透明、無臭で一見して水と見分けが付かない。水と誤認すれば命取りとなる。しかし、三島は誤認などしない。油断せず、無色透明で無臭の毒を弾き飛ばした。「うへへへへ」シニアル・ジョイに変身したクロバラは不気味な声を上げる。三島の足にはいつの間にか目に見えない程小さな針が刺さっていた。その針には魔法で作り出した猛毒が塗ってある。『マーシィ・ポイズン』とは違い、長く苦しんだ果てに死に至る毒薬だ。三島の命もあと少し……となるはずだったが、そうはならなかった。三島はその場で毒の成分を分析、毒に対応した『解毒魔法』を創り出す。毒を解毒した三島は即反撃する。三島が発動したのは『土から疑似生命を創り出す魔法』。三島は土から大量に人型魔物を創り出す。生み出された千を超える人型の疑似生命は一斉にクロバラに襲い掛かった。「グゴッ」「グガッ」「グアアア」。疑似生命達は獲物に群がるカンディルのようにシニアル・ジョイに姿を変えたクロバラを食い尽くしていく。クロバラの肉体があと一欠片となった時、バンという音と共に疑似生命達が全て吹き飛んだ。バラバラになった疑似生命達は土に戻る。クロバラは肉片の一つから復活し、元に戻った。三島はクロバラが再生した瞬間、『重力魔法』を発動する。倍になった重力がクロバラを襲う。クロバラはよろめいた。三倍、四倍、五倍、六倍、七倍、八倍、九倍、十倍……三島はどんどん重力を強くしていく。重力は百倍を超え、ついに千倍となった。地面が大きく凹む。クロバラが姿を変えた。クロバラが変身したのは重力魔法が得意な魔法使い。クロバラは『重力を反転させる魔法』を発動し、三島の重力魔法を相殺した。三島はもう一度クロバラに魔法を放つ。三島が使用した魔法は『ナイトメア』。『スリープ』の魔法と同じく相手を眠らせる効果を持つ。だが、『ナイトメア』は相手を眠らせた上で、現実そっくりの悪夢を見せる。この悪夢は何度も繰り返される。目覚めたと思ったらまだ悪夢の中。目覚めたらまた悪夢の中……これが繰り返される。そうする内に『ナイトメア』を受けた者は夢と現実が分からなくなり、やがて精神が崩壊するのだ。『ナイトメア』の魔法を受けたクロバラは一瞬、眠りについたが直ぐに目を覚ます。この一瞬の内にクロバラは何百、何千と言う悪夢を見たはずだ。しかし、クロバラの精神はそのまま。『ナイトメア』は確実にクロバラに効果を及ぼしたはずだが、クロバラは精神的なダメージを全く受けていない。「素敵な夢をありがとう」そんな事を言う余裕すらある。次はクロバラが攻撃する番だ。クロバラは念動力を発動する。周囲の小石が浮き上がり、三島に向かって襲い掛る。小石のスピードは音速を超えている。しかし、小石は三島の防御魔法を突破する事は出来なかった。三島は無傷のまま『雨を降らせる魔法』を発動する。大森林に豪雨が降り注いだ。三島は次に『水を操る魔法』を発動する。三島の周囲の水がクロバラに猛スピードで向かった。高速の水は金属すらもたやすく切断する。クロバラの体はバラバラに切断された。バラバラにされたクロバラは一瞬で再生すると、三島と同じく『水を操る魔法』を発動させた。水を刀のように切り刻む武器として使用した三島に対して、クロバラは水を三島を溺れさせるために使う事にした。五十メートルプール十倍分もの水が三島に向かう。三島は高温の火球を四方に放った。大量の水と火球が触れた瞬間、水蒸気爆発が発生。防御魔法を張った三島とクロバラ以外を吹き飛ばす。立ち込める蒸気と煙の中で、クロバラは新たな魔法を発動。大量の蝙蝠が三島に向かっていく。三島は飛んでくる蝙蝠をまとめて吹き飛ばした。クロバラは攻撃を続ける。クロバラは『超音波』の魔法で殺人音波を発生させた。普通の人間がこの音波を聞くと、脳が破壊され、目、鼻、耳、口から血を吹き出し、絶命する。三島はクロバラの『超音波』と逆位相の音波を魔法により発生させた。これによりクロバラの『超音波』は打ち消され、無効化される。次は三島の攻撃。三島は『拘束魔法』を発動。クロバラの動きを止めようとする。しかし、クロバラは拘束をあっさり突破し、三島に同じく『拘束魔法』を発動した。クロバラが発動した『拘束魔法』は三島の防御魔法により防御される。それを見たクロバラは、女性の姿に変身した。女性の名は「ナタリー・エンド」。髪の毛を操る魔法『ビューティー・ヘアー』を得意とする。クロバラは『ビューティー・ヘアー』を発動。急激に伸びた髪の毛が三島を襲う。三島はカウンターで『炎の魔法』を発動。「ナタリー・エンド」の姿をしたクロバラの髪を焼き払う。クロバラは「ナタリー・エンド」から魔物に姿を変えた。クロバラが変身した魔物は『メデューサ』。目が合った者を石に変えてしまう魔物だ。メデューサに姿を変えたクロバラはカッと目を見開き『相手を石に変える魔法』を発動させた。その瞬間、三島は鏡を創り出す。『相手を石に変える魔法』には弱点がある。それは鏡などを見て、自分と目が合ってしまった場合、自分が石になってしまう事だ。メデューサになったクロバラは一瞬にして石になる。石になってしまったメデューサが元に戻る事は無い。しかし、クロバラは石化を解いて人間の女性に姿を変えた。クロバラが姿を変えた女性の名は「キャリー・スノー」。彼女はハナビシ・フルールの師匠であり、ハナビシに『肉体強化魔法』を教えた人物。ハナビシが失踪した後、キャリーはハナビシを探して各方面を回っていた。ある日、彼女が吸血鬼に捕らえられたという話を聞いたキャリーは、ハナビシを救うために、単身でこの大森林にやって来ていた。しかし、クロバラの圧倒的な力には歯が立たず、キャリーは返り討ちに遭う。「死ぬ前に弟子に一目会いたい」というキャリーの願いをクロバラは聞き入れず、血を全て飲み干した。目と鼻の先にも居たにも拘わらず、師匠と弟子が再会する事は無かった。キャリーに変身したクロバラは魔法を発動させる。『肉体強化……千倍』。キャリーに変身したクロバラの身体能力が千倍となる。普通の人間が肉体を千倍まで強化すれば、その瞬間、筋肉は裂け、骨は砕け、血管は裂け死に至る。だが、クロバラには再生能力がある。クロバラの今の肉体は「キャリー・スノー」であるが、再生能力はそのままだ。肉体にダメージを受けても即座に再生する。千倍に強化したキャリー・スノーの体でクロバラは三島に殴り掛かる。千倍に強化された一撃は三島の防御魔法に激しい衝撃を与えた。三島は再び土から疑似生命を創り出す。三島が次に創り出した疑似生命は『蟲』。大量の蟲を生み出し、キャリー・スノーの姿をしたクロバラを襲わせる。キャリー・スノーの肉体は蟲達に貪られ、消えた。「キイイイイ!」疑似生命の蟲達が苦しみ出す。肉片が蟲達の腹を突き破り、一か所に集まった。集まった肉片はやがて、青い髪をした男「マッセル・バッド」の姿をしたクロバラになる。「マッセル・バッド」が得意な魔法は『幻覚魔法』。「マッセル・バッド」が開発した『幻覚魔法』は死の体験を何度も何度も何度もさせる。幻覚と言っても、痛みや苦しみは現実と変わらない。それは尋常ではないストレスを人に与え、体を蝕む。長く『死の幻覚』を見せられた者は現実の世界でもショックで死んでしまう。「マッセル・バッド」となったクロバラは三島に『死の幻覚』を見せる。しかし、三島は戦いが始まる前から『反幻覚魔法』を自分の体に掛けていたため『死の幻覚』は無効化された。三島もクロバラに幻覚魔法を発動。『愛する者に罵倒される魔法』を見せる。愛する者に罵倒されれば、誰しもが精神的にダメージを受け、一瞬思考が停止する。その隙を付き、相手に攻撃する事を目的とした魔法だ。クロバラの目の前には沢山の安藤優斗が現れ、一斉にクロバラを罵倒する。だが、クロバラはニヤリと嗤い、安藤優斗の幻覚を全て消し飛ばした。幻覚、幻聴の類の魔法は吸血鬼であるクロバラには効果がほとんどない。しかし、そんな事三島は先刻承知。クロバラが幻覚に気を取られている内に魔法で姿を消す。そして、クロバラの背後から球状のエネルギー弾を叩きこんだ。クロバラの上半身が吹き飛ぶ。クロバラの上半身は直ぐに回復するが、またしても死角からエネルギー弾を叩きこまれた。その後も何度も死角からエネルギー弾を叩きこまれる。クロバラは体の中心に魔力を集中させ、レーザー光線のような黒い光を全方向に発射した。黒い光線は遠くの木々や魔物を切断する。だが、一か所だけ光線が途中で消えている箇所がある。三島の防御魔法により防がれたのだ。三島由香里はそこに居る。クロバラは『姿を消す魔法』を打ち消す魔法を発動。何もない場所から三島が姿を現した。クロバラの攻撃。クロバラは目に見えない程の黒く細い糸を魔法で創り出す。『操り人形の糸』と呼ばれるその糸に少しでも触れてしまえば、文字通り術者の『操り人形』となってしまう。防御魔法に阻まれないようクロバラは黒い糸を地面の下を通して三島に触れさせようとした。だが、地面からの攻撃は先程見ている。三島は地上だけでなく、地下まで防御魔法を既に展開していた。黒い糸は三島の防御魔法に振れ、消滅した。今度は三島の攻撃。三島はクロバラに対象を小さくする魔法『リトル・ワールド』を掛けた。この魔法に掛った者は大きさが百分の一になる。クロバラは現在、身長百八十センチの人間の姿をしている。魔法に掛ったクロバラは一瞬にして大きさが一センチ八ミリとなった。体が小さくなったクロバラに三島は『浄化剣』を飛ばした。闇属性のクロバラに浄化魔法を剣状にした『浄化剣』は大ダメージを与える。面積が小さくなったクロバラの全身を『浄化剣』は吹き飛ばした。完全に消滅したかに見えたが、クロバラはそこからも再生。全身がダイヤモンドで出来た『ダイヤモンド・ゴーレム』となり、三島に強烈な一撃を食らわせた。三島の防御魔法はダイヤモンドよりも硬い。三島は難なく攻撃を防ぐと、転がっていた石を魔法でダイヤモンドに変える。そのダイヤモンドを飛ばし、『ダイヤモンド・ドラゴン』の体を粉々にした。再生したクロバラは老人に姿を変える。この老人の名は「モーリー・ドワイス」。『細菌魔法』を使う。空気中や土の中に居る無害な細菌を変質させ、凶悪な細菌に姿を変えるのだ。「モーリー・ドワイス」は若い時から数々の戦争やテロに参加。『歩く細菌兵器』と呼ばれ、恐れられた。「モーリー・ドワイス」に姿を変えたクロバラは空中に漂う細菌を凶悪な細菌にする。一息でも吸えば、命が危ない。三島は一目見ただけでクロバラが発動した魔法を看破。『酸の魔法』を発動する。三島の周囲に強力な酸の霧が発生した。三島が前に居た世界には『王水』と呼ばれる金をも溶かす酸があるが、この霧は『王水』よりも酸性が強い。凶悪な姿に変えられた細菌は強力な酸で死に、「モーリー・ドワイス」の姿をしたクロバラもドロドロに溶ける。再生したクロバラは闇のエネルギーを球状に凝縮したものを三島に向けて放つ。触れればあらゆるものを消滅させる黒い球体。三島は防御魔法を切り替え、その黒エネルギーの塊を反射させた。反射した黒いエネルギーの塊がクロバラの体を直撃する。しかし、黒いエネルギーの球体は『闇魔法』であるため、闇属性の魔物であるクロバラには効果が薄い。クロバラの体はほとんどダメージを受けなかった。クロバラはそのまま魔法を発動。五十センチ程の黒い人形達が三島の周りを囲む。黒い人形達は「ケタケタ」「クスクス」と不気味な笑い声を上げた。しかし、三島は人形達を攻撃しない。やがて黒い人形達は煙のようにフッと消えた。クロバラが発動したのは『黒人形』と呼ばれる魔法。現れた人形を攻撃した者は、人形が受けたダメージと同じダメージを受ける。そのダメージは防御魔法で防ぐ事が出来ない。強力な攻撃を人形にすればする程、自分が受けるダメージは大きくなる。人形は一定時間経過すると消えるため、何もしなければ問題ない。しかし、もし何も知らず人形に攻撃していたら、たちまち人形に攻撃したダメージを自分が食らう事になる。『黒人形』は知っていれば害のない魔法、知らなければ死に至る魔法。三島は『黒人形』の魔法を知っていたため、助かったのだ。人形が消えたのと同時に三島は『時の魔法』を発動。三島の背後に巨大な砂時計が出現した。出現した砂時計の中に入っている砂が下から上へと昇っていく。すると、クロバラの時間が逆行し始めた。『時の魔法』は砂時計の半径五十メートルに存在する任意の相手の時間を進めるか、もしくは逆行させるか選ぶ事が出来る。三島は『時の魔法』の対象にクロバラを指定。クロバラの時間を『逆行』させていく。三島がクロバラの時間を逆行させるのを選んだのには理由がある。相手は吸血鬼。寿命があとどれぐらいあるのか分からない。もし、吸血鬼に『老化』や『寿命』と言った概念が無ければ『時の魔法』の効果は無意味なものとなる。だから、三島は時間を逆行させた。生まれる寸前の姿に戻し、そこを叩くつもりだ。クロバラの体が変化していく。何年、何十年、何百年と遡り、ついにクロバラは『黒いスライムのような生物』に戻った。三島は『黒いスライムのような生物』に戻ったクロバラに『炎の魔法』を叩きこんだ。超高温により、クロバラの体は燃え尽きる。しかし、『黒いスライムのような生物』に戻ってもクロバラの再生能力は衰えていなかった。クロバラはまたしても再生し、復活する。復活したクロバラの背後に巨大な砂時計が出現した。三島が使ったのと同じ『時の魔法』だ。三島は『時の魔法』の効果を防ぐ防御魔法を展開。これで三島は『時の魔法』の効果を受けない。しかし、クロバラは『時の魔法』を三島ではなく自分自身に発動した。砂時計がぐるりと回転し、逆さまになる。砂時計が上から下へ落ちると共にクロバラの体が元の時間へと戻る。再生したクロバラは三島に対し『因果逆転の魔法』を発動。この世界は『原因があるから結果がある』という因果律により成り立っている。『因果逆転の魔法』は因果律を逆転させる魔法。結果が先に現れ、その後に原因が生まれる。まさに、宇宙の法則を超越した魔法。クロバラは『三島の死』という結果を出現させた。これにより三島の『死』は確定したはずだった。しかし、三島は既に『調律の魔法』を発動し、『因果逆転の魔法』で捻じ曲げられた因果律を正しく元に戻した。これにより確定したはずの『三島の死』という結果を消し去った。「ゲフッ」クロバラが血を吐く。『因果逆転の魔法』は因果律を捻じ曲げる禁忌の魔法。使ってタダで済むはずが無い。クロバラの全身は空間がねじ曲がったかのようにグネグネ動き、破裂した。人間であれば即死。だが、クロバラは吸血鬼。『因果逆転の魔法』の代償で四方に飛び散った肉体はあっという間に一か所に集まり再生した。三島は観測と確率の魔法『量子魔法』を発動。クロバラの存在そのものを消し去ろうとする。クロバラは三島が発動した『量子魔法』を否定する魔法『神はサイコロを振らない』を発動して三島の『量子魔法』を無効化した。


 三島が魔法で攻撃すれば、クロバラは即座に再生。

 クロバラが魔法で攻撃すれば、三島は即座に防御する。

 三島が再生出来ない程の超絶魔法を放てば、クロバラはその魔法の効果を打ち消す魔法を発動。

 クロバラが防御魔法では防げない魔法で三島を攻撃すれば、三島はその魔法を看破し、瞬時に対策を練る。


 攻守が目まぐるしく入れ替わる。

 二人の戦いに巻き込まれ、大森林の植物や動物、魔物達の命が奪われていく。


 日が暮れ夜になっても、二人の戦いは終わらない。

 日が昇り朝になっても、二人の戦いは終わらない。


 日が落ち、昇る。日が落ち、また昇る……。

 三島とクロバラの戦いは、七十二時間にも及ぼうとしていた。

「くっ……」

 突然、戦っていた両者の内、片方が膝を付いた。

 七十二時間の激戦の果てに膝を付いたのは……。


 三島由香里だった。


「はぁ……はぁ……」

 膝を付いた三島は肩で息をする。残りの魔力が少ない証拠だ。

 想像を絶する莫大な魔力を持っている三島。その三島の魔力が吸血鬼との戦いで尽きようとしている。


 そんな三島を見下ろし、吸血鬼クロバラは嗤った。

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