第121話 どうして
時間は再び、現在に戻る。
「アイビー・フラワー。君はそこのハナビシ・フルールと一緒になって優斗に色々としたようだね」
三島の目が暗くなる。
「でも君は、吸血鬼に血を吸われた優斗に回復魔法を掛けて、ずっと看病してくれた。そのお礼に、一度だけ君の事を見逃そう」
カール・ユニグスが見たものや聞いた事を、三島は全て知っている。
「アイビー・フラワー。そこを退いて。そうすれば命は助けて―――」
「嘘を付くな!」
アイビーは三島の言葉を否定する。
「そう言って、アンドウ君から離れた所を殺すつもりだろう?」
「……」
「その位置から私を攻撃すれば、アンドウ君も巻き込んでしまう。アンドウ君を巻き込まないために、お前は私を攻撃出来ないんだ。私がアンドウ君から離れたら、お前は迷わず私を殺そうとするに決まってる!そして、私達からアンドウ君を奪うつもりだろ!」
アイビーは、血まみれで倒れているハナビシに一瞬だけ視線を向けた。
「渡さない!アンドウ君は絶対に渡さない!お前なんかに渡すものか!」
「……君の言う通りだよ」
三島は、ため息を付く。
「私は君を騙そうとした。優斗を巻き込まないようにね。君は優斗を看病してくれたけど、ハナビシ・フルールと一緒になって『私の優斗』を汚した。優斗を看病してくれた事を差し引いても、それは絶対に許されない罪だ」
三島の手に魔力が集中する。
「優斗から離れないと言うのなら、仕方ない。優斗が傷付かないように、直接君に触れて殺す事にするよ」
「―――ッ!」
三島がアイビーに近づく。アイビーは三島を迎え撃つために構えた。
しかし、二人の力の差は絶望的だ。万に一つもアイビーに勝ち目はない。
「やめろ、由香里!」
アイビーの後ろに居た安藤は、彼女の前に回り込む。
先程までとは逆に、今度は安藤がアイビーを守るように両腕を広げた。
「優斗……」
「頼む!由香里。アイビーさんを殺さないでくれ!」
「……自分を襲った人間を庇うなんて、優斗はやっぱり優しいね」
三島は穏やかな表情を安藤に送る。
「だけど、優斗に手を出した人間はやっぱり許せない」
「―――ッ。由香里……」
安藤はグッと歯を食いしばる。
「……なんでもする」
「ん?」
「もし、由香里がアイビーさんを助けてくれるのなら……俺は何でもする!」
安藤は三島に頭を下げた。
「だから、頼む!アイビーさんを殺さないでくれ!」
「アンドウ君……」
自分を庇う安藤の姿に、アイビーは強く心を打たれた。
「なんでも……か」
三島は「フッ」と微笑む。
「なら、優斗。私と結婚してくれる?」
三島は安藤に手を伸ばす。
「病める時も健やかなる時も私を……私だけを愛すると誓う?」
「誓うよ」
安藤は即答した。
「どんな時でも、由香里を愛する。一生……いや、たとえ死んだとしても由香里だけを愛するって誓うよ!」
「本当?」
「本当だよ」
「……そう」
三島はニコリと笑みを深めた。
「分かった。優斗が私と結婚してくれるって言うのなら、
「由香里!」
「さぁ、優斗。こっちに来て。私と一緒に行こう!」
三島は安藤に手を伸ばす。安藤は一歩、前に踏み出した。
「行かないで!アンドウ君!」
アイビーが後ろから安藤を抱きしめる。
「行かないで、アンドウ君!お願い!」
「アイビーさん……」
「お願い、行かないで!」
アイビーは安藤を抱きしめる腕に力を込めた。
「ごめん、アイビーさん」
自分を抱きしめるアイビーの腕をそっと外し、安藤は彼女と向き合う。
「俺は由香里と行くよ」
「嫌!行かないで!嫌、いや!」
「ごめん」
安藤はアイビーを軽く押した。
「じゃあね。アイビーさん。どうかお幸せに」
「アンドウ君!!」
アイビーは膝から崩れ落ちる。
「うっ……うっ……ううっ……」
両手で顔を覆い、大粒の涙を流すアイビー。そんな彼女に背を向け、安藤は三島の元へと歩く。
安藤と三島、二人の距離はあと数歩の所まで近づいた。
「優斗」
「由香里」
三島が安藤に手を伸ばす。
安藤もそれに応え、右腕を三島へ伸ばした。
次の瞬間、安藤の右腕は斬り飛ばされた。
斬り飛ばされた右腕が、ボトリと地面に落ちる。
「えっ?」
安藤は下を向く。自分の右腕が地面に転がっているのが見えた。
「うっ、うあああああああああああああああ!」
安藤は絶叫する。右腕は肘の部分から切断されており、そこからおびただしい量の血が噴き出していた。
「アンドウ君!」
その光景を見ていたアイビーも、絶望の声を上げる。
「いやあああああああああああああああ!アンドウ君!アンドウ君!」
「どうして……」
安藤は、自分の右腕を斬り飛ばした人物に問う。
「由香里、どうして!?」
三島の手には、いつの間にか『光る剣』が握られていた。
その『光る剣』で、三島は安藤の右腕を斬り飛ばしたのだ。
驚愕と苦痛に顔を歪める安藤。
その姿を、三島はじっと見つめている。
「……」
三島は無言で『光の剣』を振り上げた。
そして、そのまま安藤に『光の剣』を振り下ろす。
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