第113話 嘘の終わり

「どうだったアンドウ?」

「えっと……」

 安藤は首を傾げる。


「俺が今まで見てたのって……全部夢だったの?」


「うん」

「リームが見せてたの?」

「うん……」

 安藤に尋ねられたサキュバスのリームは、申し訳なさそうな顔をする。


「毎年四月一日は夢魔の魔力が安定しなくて……滅茶苦茶な夢を相手に見せちゃうんだ。ごめんね」


 リームは手を合わせて謝る。

「いいよ。別に怒ってないから」

 申し訳なさそうにするリームに、安藤は微笑んだ。

「……それにしても、変な夢だったな」

 安藤は『最弱剣士』ではなく『最強剣士』になっていたし、他の皆は『ツンデレ』になっていた。

 つくづく変な夢だった。と安藤は思う。

「あのね。アンドウ。もしかしたら……なんだけど」

 リームは、自信なさそうに言う。


「もしかしたら、あの夢は別の世界の出来事かもしれないんだ」


「別の世界?」

 安藤は思わず目を大きく見開く。

「どういう事?」


「夢魔の魔力が四月一日に安定しないのは、四月一日に別の世界からのエネルギーが流れて来てるんじゃないかって説があるの」


「別の世界って、俺が元々居た世界の事?」

「ううん。もっと別の世界」

「つまり、俺が居た世界にも別の世界があるって事?」

「……かもしれない」

 リームは首を横に振る。


「今の所、この世界で観測されているのはアンドウが元々居た世界だけ。でも、それだけじゃなくて、世界はもっと……無限に広がっているんじゃないかって説もあるの」


「……その考えは、俺も聞いたことがあるな」


 パラレルワールド。

 世界は一つではなく、様々な世界が並行に存在するという説だ。


 この世界のように魔法のある世界だけではなく、現実世界と途中まで同じ歴史を辿っていたが、途中から別の歴史を辿った世界など、世界はまさに無限に存在する。という考えだ。


「四月一日になると無数にある世界の一つからエネルギーが漏れる。そのエネルギーに充てられたサキュバスが夢として、別の世界の光景を見せてしまう。って夢魔の間では言われている」

「と、言う事はさっき俺が見た夢も、実際にある世界かもしれない……?」

「あくまで可能性だけどね」

「そっか……」


 自分が『最強剣士』になっている世界。

 そして、皆がツンデレになった世界。


 そんな世界がどこかにあるかもしれない。


 安藤が元居た世界では、四月一日はエイプリルフールと呼ばれ、嘘を付いても良い日とされている。

 エイプリルフールには様々な嘘が溢れる。


 しかし、その嘘が現実に存在する世界も、もしかしたらあるのかもしれない。


「それとね。アンドウが今回見た夢なんだけど……」

「うん」

「今回の夢は特殊だから、目を覚ませば忘れてしまうの。私とこうして話している事もアンドウは忘れてしまう」 

「……そっか」

 少しだけ残念だと安藤は思った。


「時間だね。じゃあ、また」


 リームの姿が薄くなり、消える。


 同時に安藤は目を覚ました。

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