第108話 背の低い女性と背の高い女性に出会う。あっさり倒したら惚れられた
「イチャイチャしてる!そこのカップル、止まりな」
魔王城へと向かう道中、安藤とホーリー(ホーリーは相変わらず安藤にピタリとくっ付いている)の目の前に、突如二人組の女性が現れた。
「私の名前はハナビシ・フルール!盗賊だ!」
「わ、私の名前はアイビー・フラワーです。あの……私も盗賊です」
「金目の物を置いて、去りな!バカップル!」
二人の盗賊を見て安藤は思った。
何故、ワザワザ名乗ったのだろうと。
「カップル……カップル……」
「ホーリーさん?」
「別にカップルと呼ばれて嬉しいわけではありません。ええ、嬉しいわけではありません」
ホーリーはポストのように顔を紅くしてツンと安藤から顔を逸らした。
「おら!イチャイチャしてんじゃねえ!さっさと金を置いて消えな!」
ハナビシと名乗る盗賊は叫ぶ。
「あの……ハナビシさん。アイビーさん。質問しても良いですか?」
「なんだ!」
「な、なんでしょう?」
「二人とも、どこかで俺と会った事はありませんか?」
「ああ?私とお前は初対面だ」
「わ、私も初対面……です」
「そうですか……」
アイビーとハナビシ。二人の名前もどこかで聞いた事があるような気がしたが、気のせいだったか。
「ほら!とっとと金をよこせ!」
「……すみません。それは出来ません」
「ああっ?」
「俺達の所持金は沢山ありますが、力で人の物を奪おうとする人間に渡すお金はありません!」
「はぁ、そうかよ……」
ハナビシは大きなため息を付く。
「だったら死にな!肉体強化……『百倍』!」
ハナビシは強化した肉体で安藤に殴り掛かった。
その拳を安藤は片手で受け止める。
「な、何いいい!?」
ハナビシは目が飛び出しそうになるくらい驚いた。
「お、お前……何をした」
「普通に受け止めただけです」
ブルー・ドラゴンやオリハルコン・ゴーレムをあっさり倒した事で、最初は信じられなかった安藤も、今は確信している。
この世界に来て、自分は強くなったのだと。
ハッキリ言って、ハナビシでは安藤に遠く及ばない。
「もう、やめませんか?」
「う、うるせえ!」
ハナビシは安藤から距離を取ると、再び肉体強化魔法を発動した。
「肉体強化『二百ば……」
「それは……させません!」
「なっ!」
安藤はハナビシとの距離を一気に詰め、その足を払った。
宙に舞ったハナビシの体を、安藤は優しく抱き留める。
俗に言う『お姫様抱っこ』状態となった。
「お、お前……一体、何のつもりだ!」
「二百倍まで肉体を強化したら、体に凄まじい負担が掛かるはずです。そんな事はさせません」
「な、なんでだよ!私は敵だぞ!」
「関係ありません」
安藤はハナビシに顔を近づける。
「たとえ敵でも、俺は貴方に傷付いて欲しくないんです」
「ふ、ふにゃあ」
ハナビシの顔がまるでトマトのように紅くなる。全身の骨が消えたかのように、ハナビシはフニャフニになった。
安藤は次にアイビーに視線を移す。
「貴方はどうしますか?まだ戦うというのなら……」
「か、カッコいい!」
「……えっ?」
アイビーは太陽のように顔を紅くし、キラキラした目で安藤を見ていた。
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