第103話 異世界へ、美人な『聖女』と出会う

「目覚めなさい」

「うーん」

「目覚めるのです。アンドウ・ユウト様」

「はっ!」


 安藤が目を覚ますと、そこは豪華な神殿の中だった。

 そして、目の前には白い髪に白い服を着た少女が立っている。


「目覚めましたね。アンドウ・ユウト様」

 白い髪の少女は、安藤をまっすぐ見つめた。

 そのあまりの美しさに、安藤は思わず見惚れる。

「あ、貴方は……」

 安藤が尋ねると、白い髪の少女は口を開いた。


「私の名前は『ホーリー・ニグセイヤ』。協会の『聖女』です」


「……ホーリーさん」

 安藤は不安そうな顔で、ホーリーを見る。

「あの……此処はどこですか?俺は……確かトラックに轢かれて……ハッ!」

安藤は周囲を見渡すが、此処には自分と『ホーリー・ニグセイヤ』しか居ない。


「菱谷と三島は?二人は何処ですか!?」

 

 安藤は、ホーリーに詰め寄る。ホーリーは片手を上げ「落ち着いてください」と言う。

「二人は無事です」

「ほ、本当ですか?」

「本当です。お二人とも怪我はしていません。今は、元気に生活していますよ」

「そ、そうですか……良かった」

 安藤は、ほっと息を付く。そんな安藤をホーリーは不思議そうに見ている。

「貴方は、自分の事より他人の事を心配なさるのですね」

「勿論です!」

 ホーリーの問い掛けに安藤は即答する。

「二人とも、俺の大事な人ですから。怪我をしてなくて本当に良かったです」

 そう言って、安藤はニコリと微笑んだ。


 安藤の笑顔を見たホーリーの顔が、まるでリンゴのように紅く染まる。


「~~~~~―――ッッ!」

「あれ?どうしたんですか?ホーリーさん。顔が紅いですけど……」

「何でもありません」

「でも、なんだか様子が……」

「何でもありません。と、言っています」 

 ホーリーは安藤にナイフのような視線を向ける。その鋭い視線に、安藤は思わず一歩下がり、慌てて謝った。

「す、すみません!」

「良いですか、ユウト様」

 ホーリーはコホンと咳払いをする。 


「私は別にユウト様の笑顔素敵だな。とか、ユウト様とても優しいなぁ。とか、ユウト様に心配してもらえる二人が羨ましい。とか、そんな事は一切考えていませんか。ええ、一切考えていません」


「えっと……」

「理解出来ましたか?出来ませんか?」

「は、はい!理解しました!」

 安藤は壊れたおもちゃのように何度も頷く。

「あの……ホーリーさん。一つ聞いても良いですか?」

「何ですか?」


「ホーリーさんって、そんな人でしたっけ?」 


 ホーリーは不思議そうな目で安藤を見る。

「何を言っているのですか?私と貴方は初対面ではないですか」

「あっ……そ、そうですよね……」


 確かにそうだ。ホーリーと自分は初対面なのに、どうしてそんな事を訊いてしまったのだろう。不思議だ。

 そう言えば、最初にホーリーの名前を聞いた時から引っ掛かっていた。『ホーリー・ニグセイヤ』この名前、どこかで聞いた事があるような……。


 いや、それよりも今は訊かなければいけない事がある。 


「そ、それで……あの此処は一体どこなんですか?」

「貴方が元居た世界から見れば……此処は異世界ですね」

「異世界!?」 

「はい。異世界です。証拠をお見せしますね」

「えっ……わ、わああああああ!」

 安藤の体が浮き上がり始めた。

 どんどん浮んでいく安藤はやがて神殿の天井に頭をぶつけた。

「どうです?信じて頂けましたか?」

「し、信じます。信じますから、早く降ろしてください!」

 安藤が必死に懇願すると、ホーリーはゆっくりと安藤を下した。


「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った……」


 肩で息をする安藤に、ホーリーは言った。。

「では、参りましょうか」

「えっ?どこにです」


「異世界から来た方々には、とある試練を受けて頂くことになっています。今から、そこにご案内します」

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