第102話 可愛い幼馴染と美人な後輩に告白される

「じゃあ、お兄ちゃん。また放課後ね」

「……おう」


 校門の所で妹と別れた安藤はそのまま教室に向かう。

 いつも通りの授業、いつも通りの部活。 

 しかし、その日の放課後はいつもの放課後ではなかった。 


 放課後、安藤は人がほとんど来ない体育館裏に呼び出された。


 安藤を呼び出したのは二人。

一人は幼馴染で、もう一人は部活の後輩だった。


 二人に呼び出された安藤は、こう言われた。


「先輩、私が付き合ってあげても良いですよ!」

「優斗、どうしても私と付き合いたいのなら、付き合ってあげるよ」


 安藤は女性二人に同時に告白されるという、漫画やアニメの主人でなければあり得ない状況に置かれた。

 安藤の後輩、菱谷忍寄はギロリと安藤の幼馴染、三島由香里を睨む。 

「ちょっと、何ですか貴方?先輩とはどんな関係ですか?」

「私は、唯の幼馴染だよ。そういう君は?」

「私は先輩の後輩です」

「それだけ?」

「それだけです」

「今、優斗に告白したのに?」


「あ、あれは告白じゃありません!」


 菱谷は、顔を紅くしながら目を怒鳴る。

「先輩、彼女居ないって聞いて……可哀そうだから私が付き合ってあげようかなって……」

「好きでもない人と付き合うのかい?」

「―――ッ!そ、そいう貴方はどうなんですか?先輩の事好きなんですよね?」

「……別に」

「だって、さっき告白したじゃないですか!」

「……してない。あれは告白じゃない。優斗はずっと彼女が居ないんだ。可哀そうだから、付き合ってあげようかなって思っただけさ」

「私と同じ事言ってるじゃないですか!」


 菱谷と三島はバチバチと言い争う。


「あの……二人とも」

「何ですか?」

「何?」

 こちらを振り向く菱谷と三島の形相に怯えながらも、安藤は言った。


「二人って……そんな性格だっけ?」


 菱谷と三島はキョトンとする。

「何言ってるんですか?寝ぼけてるんですか?」

「脳を寄生虫にでも食われたかい?」

「い、いや……そんな事はないけど……」

 安藤は首を傾げる。はて、二人はこんなに自分に当たりが強かっただろうか?

 喉に小魚の骨が引っ掛かったような違和感を覚える。

「で、どうなんですか?先輩!」

「な、何が?」

「はぁ?話聞いてたんですか?」

 顔を近づけながら、菱谷は言う。


「私とこの人。どちらを選ぶんですか?」


「どっ、どっちて……」

「勿論、私ですよね?先輩!」

「勿論、私だよね。優斗」

 菱谷に続き、三島も顔を近づける。


「優斗は昔から私の事が好きだったものね。私と付き合いたいよね?」

「は?何を言ってるんですか?先輩が好きなのは私です。先輩、部活でいつも私の事見てるんですよ?私の顔や胸や足をねっとりと、じっくりと見てるんですから!」

「い、いや……お、俺はそんな事……」

「嘘です。見てます。いやらしい目で!」

 安藤が菱谷の言葉を否定しようとするが、その前に三島が言った。

「自意識過剰だね」

「はっ?」

「優斗が君の体なんて見るはずがない。優斗がいつも見てるのは私だよ。優斗は私が世界で一番好きなんだから」

「違います。先輩がこの世で一番好きなのは私なんです!」

「違うね。優斗が好きなのは私だよ」


 菱谷と三島は、互いに一歩も引かない。

 すると、再び矛先が安藤に向いた。

「で、先輩は……」

「どっちと付き合うんだい?」

「え……えーと……」


 菱谷と三島の凄まじい迫力に、安藤は体中から汗を流した。


***


「あの、二人とも……」

「何?優斗」

「何ですか?先輩」

「もう少し、離れて歩かない?」


 今、安藤の左腕は菱谷に、右腕は三島に抱き付かれている。

 まさに両手に花状態だ。


「なんだ、あれ?」

「モテモテじゃん」

「おい、あれ三島由香里じゃないか?」

「本当だ!隣に居るのは菱谷忍寄だぞ!」

「我が高校の五大美女の二人じゃないか!」

「わぁ、菱谷さん綺麗……三島さんはとっても可愛い!」

「ちくしょう。なんであんな普通の奴が!」


(ひいいいい!)

同じ高校の生徒の視線と言葉がズブズブと刺さる。


「ねぇ、二人とも。お願いだから離れて……」

「先輩は、私から離れたいって言うんですか?」

「優斗は私から離れたいのかい?」

 菱谷は鋭く、三島は冷ややかに安藤を睨む。


「いやそういう訳じゃないけど……あの……その……あんまりくっ付かれると……その……色々と当たって……」


「あっ、いやらしい。先輩、今変な事考えたでしょう?」

「そ、そんな事は……」

 菱谷に心の中を当てられ、安藤は狼狽する。実は、さっきから菱谷と三島の大きな胸が腕に押し付けられているのだ。

 安藤は普通の人間だ。美女ふたりの大きな胸を押し付けられて平静でいろと言う方が無理な話だ。

「先輩のエッチ、すけべ、変態!」

「ううっ……」 

 菱谷の罵詈雑言に安藤の心が折れそうになる。

 すると、横から三島が口を挟んだ。 

「菱谷さんだっけ?そんなに嫌なら、優斗から離れれば良いじゃないか」

「……うっ」

 菱谷は明らかに狼狽する。

「私は……その……そう!先輩が事故に遭わないようにくっ付いてあげてるんです!先輩、おっちょこちょいで間抜けだから!」

「へぇ……」

「何ですか。その目!そう言う貴方こそ、何で先輩にくっ付いてるんですか?」

「……悪い虫から優斗を守るためだよ。私は別に優斗の事なんてこれっぽっちも興味はないけど、一応幼馴染だからね」

「本当ですか?本当は先輩に抱き付きたいだけでしょ?」

「それは、君なんじゃないか?」

「違うって言ってるじゃないですか!」

「私も違うと言っている!」

「ちょっ……二人とも!」

 言い合いをする二人を安藤は止めようとする。

 その時、菱谷がバランスを崩した。

「えっ!」

「ッ!」

「わっ!」

 倒れる菱谷に押されるような形で、安藤と三島も歩道に倒れた。


 すると、そこに猛烈な勢いでトラックが走ってくるのが見えた。


「危ない!」

 安藤は咄嗟に菱谷と三島を歩道の方に付き飛ばそうとする。

 しかし、それよりも早く菱谷と三島が早く動いた。

「先輩!」

「優斗!」

 二人は安藤を守ろうと覆い被さる。しかし、これは明らかな判断ミスだった。

 普段の二人なら、人が覆いかぶさった程度でスピードの出ているトラックの衝撃を防げない事など、すぐに理解できたはず。

 だが、目の前に迫る安藤の危機に、菱谷と三島は咄嗟の選択を誤ってしまったのだ。

 

 大型トラックは容赦なく三人を吹き飛ばし、その命を奪った。

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