第104話 伝説の剣、あっさり抜いちゃいました

 ホーリーに案内された安藤は、とある場所に到着した。


 その場所には、安藤の膝ぐらいの高さの岩が置いてあった。

 岩には剣が一本刺さっている。


 剣が刺さった岩の前には、行列が出来ていた。人々は一列に並び、自分の順番が来ると剣を引き抜こうとする。

 だが、誰一人その剣を抜く事が出来ずにいた。


「では、ユウト様。あの剣を抜いて来てください」

「え、お、俺が……ですか?」

「はい」

「いや、無理ですよ!」

 相当深く岩に突き刺さっているのか、どんな屈強そうな人間がチャレンジしても、剣は微動だにしない。

「挑戦している皆さんは俺よりも絶対に力があります。俺なんかが抜けるはずが……」

「いいえ、異世界から来た方は必ず挑戦しなければなりません。それは決まりなのです」

「決まり……ですか」

「はい」

「……分かりました」

 安藤は頷く。


「俺もチャレンジします」 


***


 剣を抜くための列に並んでいると、安藤を見てヒソヒソと話す声が聞こえてくる。


「なんだ。こいつ」

「こんなヒョロヒョロの奴が剣を抜けるかよ」

「無理無理」

「そうだ。俺でさえ無理だったんだ」

「あんなひ弱な奴に抜けるわけがねぇ」

「冷やかしはやめてほしいよな」

 周囲の人間は安藤を見てクスクス笑う。


 まぁ、その通りだな。と、安藤は思った。


 そして、ついに安藤の番がやって来る。

 安藤の前の男は剣を引き抜こうとした時、あまりにも力を入れ過ぎたため、両肩を脱臼してしまった。哀れ。

 安藤は、心の中で思う。

 しょうがない。怪我をしないようにしよう。ホーリーさんだって、一生懸命やってダメだったら諦めてくれるだろう。多分。


「良し、次はお前だ。始めろ」

「……はい」

 安藤は剣の柄を握ると、軽く力を込めた。


 剣は驚くほど、あっさり抜けた。 


「あっ、抜けた」

「「「「「「ええええええええええええええええええ!?」」」」」」 

 周囲のギャラリーが悲鳴のような声を上げる。 

「おいおい、嘘だろ?」

「ありえない!」

「なんなんだ!あいつ」

 周囲の安藤を見る目が一気に変わった。皆が安藤と安藤が引き抜いた剣を見ている。


(えっ、なんで?えっ?????)


 安藤は慌ててホーリーに駆け寄った。

「ホーリーさん。この剣は何なんですか?」

「これは、『クドラの剣』です」

「『クドラの剣』?」


『クドラの剣』の伝説。 

 協会が古くから人々に伝えている物語だ。


 かつて、世界はブラックドラゴンが支配していた。ブラックドラゴンは人間を喰い、人々を恐怖のどん底に落としていた。

 そんな時、一人の英雄が立ち上がる。英雄の名はアザー。

 アザーは、ブラックドラゴンの住処に乗り込み、そこにいたブラックドラゴンのボス『クドラ』に対して一対一の戦いを申し込んだ。『クドラ』はアザーの提案を受け入れ、両者は戦うことになった。

 戦いは熾烈を極め、三日三晩続いたという。


 そして、三日目。ついにアザーは『クドラ』を討ち取った。


 ボスである『クドラ』を討たれたブラックドラゴン達は人間を恐れ、聖なる山の奥深くにある洞窟に隠れた。

 しかし、アザーも『クドラ』との戦いで深い傷を負っていた。

 自らの死期が近いことを悟ったアザーは討ち取った『クドラ』の骨から、あらゆる魔を払う『クドラの剣』を作った。

 そして、『クドラの剣』を岩に突き刺し、自身の遺言を人々に叫んだ。


『この岩から剣を抜くことが出来た者が、次の英雄になる』


「つまり、この剣を抜いたユウト様は、次の英雄に選ばれたのです」

「え、英雄!?」

 

 大変な事になってしまったと、安藤は両手で頭を抱えた。

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