番外編、IFストーリー
第77話 もしも菱谷、三島、ホーリーが五歳だったら
ここは、『最弱剣士保育園』。
今日も元気な子供達の声が聞こえる。保育士さん達は、元気な子供達の世話で毎日、天手古舞だ。
保育士の皆さん、いつもご苦労様です。
安藤優斗は、この保育園で働く保育士の一人だ。
彼は子供にとても人気がある。
さっそく菱谷という女の子が安藤に声を掛けてきた。
「せんぱい、抱っこしてください!」
「いいよ。よいしょ」
「わーい!ありがとうございます。せんぱい」
「菱谷さん。俺の事は『せんぱい』じゃなくて、『先生』って呼んでね」
「せんぱい。良い匂いがします」
菱谷は安藤の首筋の匂いを嗅ぐ。
「せんぱい。ハァハァ。せんぱい……」
「ちょっ、菱谷さん?」
菱谷の様子に困惑していると、三島という女の子が近寄ってきた。
「ゆうと。私も抱っこして!」
「由香里さんも俺のことは『先生』って呼んでね。分かった。じゃあ、菱谷さんは降りて……」
「え、嫌です」
菱谷の声のトーンが変わった。
甘えた声は消え、とても低い声となる。
「で、でも菱谷さんが降りてくれないと、先生、由香里さんを抱っこできないから……」
「ぜったい嫌です」
菱谷は五歳とは思えない力で安藤にしがみついた。
『絶対に離れない』という強い執着を感じる。
「どうして、私がせんぱいと離れないといけないんですか?私とせんぱいは、愛し合っているんですよ?なのに、どうして離れないといけないんですか?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?」
「め、目が怖い!え~と……」
「ゆうと」
「ご、ごめんね。由香里さん。ちょっと待って……」
謝罪する安藤に、三島はニコリと笑った。
「気にしないで、ゆうと。私は『おっと』を困らせるようなことはしないから」
「……はっ?」
三島の言葉に、菱谷がピクリと反応した。
「お前、今なんて言った?」
「私は『おっと』を困らせるようなことはしない。って言ったの」
「きさま……」
安藤から降りた菱谷は、三島の目と鼻の先まで顔を近づけた。
「とり消せ。せんぱいとけっこんするのは私だ」
「私だよ。私とゆうとは運命でむすばれている」
「消すぞ」
「やれるもんなら、どうぞ」
菱谷と三島から殺気が溢れ出す。
「ひっ!」
あまりの殺気に、安藤は腰が引けた。
「怖い!とても子供が出す殺気じゃない!だ、だけど止めないと!」
そう。安藤は保育士。どんなに怖くとも子供の喧嘩を見過ごすことは出来ない。
「ちょ、二人とも……」
「ユウトさま」
安藤が菱谷と三島の喧嘩を止めようとした時、また別の女の子が安藤に声を掛けた。
ホーリーという女の子だ。
「何?ホーリーさん。悪いけど俺、二人の喧嘩(喧嘩って言うより殺し合いをしそうだけど)を止めないと!あと、君も俺のことは『先生』って……」
「二人の喧嘩を止める良い方法があります」
「―――ッ!?」
安藤は目を大きくする。
「何?教えて!」
「お耳を近くに」
「うん」
言われた通りに、安藤はホーリーに耳を近づける。
「チュッ」
安藤の唇に柔らかいものが触れた。
「ちょ、ホ、ホーリーさん?」
「私のファーストキス。ユウト様に差し上げてしまいました。キャッ!」
「あの、ホーリーさん?だめだよ。そんなことしたら……」
「おい、お前……」
「いま、ゆうとに何したの?」
完全に表情が消えた菱谷と三島がこちらを見ていた。
「や、やっぱり!ホーリーさん!君、二人の喧嘩を止めるって……」
「はい、ユウトさま。これで『二人の喧嘩』は止まります」
「えっ?」
困惑する安藤にホーリーは微笑む。
「私も加わりますので、『三人の喧嘩』になります」
「えええええっ!!!???」
ホーリーは無表情でこちらを見てくる菱谷と三島の元へ、全く怯える様子なく歩いた。
五歳の少女三人が睨み合う。
「ちょ、三人とも!やめ……」
「せんぱい、心配しないでください。害虫はすぐに駆除しますから」
「ゆうと、大丈夫。ゆうとに付きまとう女はすぐに排除するから」
「ユウトさま、ご安心ください。ユウトさまは私が守ります」
「ひいいいい!」
三人から立ち昇る殺気は最早、安藤一人では止めることは出来ない。
安藤は他の保育士に助けてもらおうと周りを見る。
しかし、こんな時に限って、ここには安藤しか居ない。
「死ね」
「消えて」
「お覚悟を」
三人の少女がぶつかり合う。
たった五歳の少女三人の争いは、機動隊が出動するまでに発展し、テレビや新聞でも取り扱われるほどの大きな事件となった。
この事件は後に「ブラッディ・ナーサリー」と呼ばれ、広く知られることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます