第57話 ブラッディ・ウエディング⑥
「さて……」
三島は探知魔法を発動させた。
対象は『この式場の中に居る生きた人間』。
探知魔法により、三島はこの式場の中に今、生きている人間が二人居ることを知った。
今、式場の中に居る生きた人間は『安藤優斗』と『三島由香里』の二人だけだ。
式場の中に居た大勢の人間は外に逃げたか、もしくは死んだ。
「これで邪魔者は居なくなった」
三島は満足そうに笑い、安藤に視線を向ける。
「さぁ、帰ろう優斗。私と一緒に……」
ミケルドの姿をした三島は手を伸ばしながら、安藤に近づく。その時―――。
「―――ッ!」
突然、三島が後ろに跳ね、安藤から距離を取った。
いや、違う。三島が距離を取ったのは安藤からではない。
三島が距離を取ったのは聖女の死体からだった。
床一面に広がっていた『聖女』の血が、空中に舞い上がった。
舞い上がった血は、床に倒れている『聖女』の死体の頭に空いた穴から彼女の体内に戻っていく。
そして、血は、一滴残らず『聖女』の体の中に全て戻った。
血が全て戻ると、今度は『聖女』の頭に空いた穴がふさがり始めた。頭に空いた穴は、数秒もしない内に完全に塞がる。
明らかに異常な事象が『聖女』の死体に起きていた。
しかし、三島はこの異常な事象を唯見ているほど愚かではない。
三島は人差し指を『聖女』の死体に向けると、指先から光の弾丸を撃った。
だが、空間が歪み、光の弾丸は『聖女』の死体から大きく逸らされた。何発光の弾丸を撃っても結果は同じだ。
光の弾丸は一発も『聖女』の死体に当たらない。
「……」
三島は人差し指を下げる。
もっと威力の大きな魔法を使えば、空間の歪みを超えて『聖女』の死体に攻撃が届くかもしれない。
だが、それだと『聖女』の死体の近くに居る安藤が巻き込まれる可能性がある。
それだけは出来ない。
たとえ、目の前で聖女の死体が起き上がったとしても。
『死者を蘇らせる魔法は存在しない』、『死んだ者は二度と蘇らない』。
それが、この世界の常識だ。
だが、その常識を嘲笑うかのように『聖女』は立ち上がった。
頭を撃ち抜かれ、即死したはずの『聖女』が立ち上がったのだ。
立ち上がった『聖女』は周囲を見回した後、三島に視線を向ける。
「直接話すのは初めてですね『大魔法使い』。私はホーリー・ニグセイヤ。協会の『聖女』です」
ホーリーは優雅な動作で一礼をする。
その体には傷一つない。血で赤く染まったはずのウエディングドレスも元の純白に戻っていた。
「そして、私は……」
ホーリーは近くに居た安藤を自分の元へと引き寄せ、強く抱きしめる。
そしてそのまま、ホーリーは安藤にキスをした。
「―――ッ!」
安藤は目を大きく見開く。
十秒程のキスの後、ホーリーは安藤の唇から自分の唇を離した。
ホーリーは安藤を抱きしめながら、笑顔で三島を見る。
「アンドウ・ユウト様の妻です」
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