第54話 ブラッディ・ウエディング③

「では、二人とも『誓いのキス』を!」


 祭師は式場に響き渡るほどの、大きな声で言った。

 ホーリーはゆっくりと目を閉じる。

 安藤は顔を紅くしながら、ホーリーの肩に優しく手を置き、彼女の唇に自分の唇を近づけた。


「ホーリー様……ぐすっ」

 最前列の椅子に座り、その光景を見ていたミケルドは大粒の涙を流す。

 ウエディングドレスを着たホーリーが式場に入ってきた時から、ミケルドの涙は止まらなかった。

(良かった。本当に良かった……)

 これで『誓いのキス』をすれば、ホーリーと安藤は正式に夫婦となる。

 小さい頃から仕えてきたホーリーがもうすぐ、結婚するのだ。

(ぐすっ。ホーリー様……ぐすっ)

 感動の涙が目から流れ続ける。ミケルドは目をハンカチで何度も何度も拭った。

 そして顔を上げ、ウエディングドレス姿のホーリーを見た。


(ホーリー様、どうか幸せになってください!)

 ミケルドは心の底から、そう願った。


 ザザッ。


(ホーリー様、どうか幸せに……なってください!)

 ミケルドは心の底から……そう願った。


 ザザッ。


(ホーリー……様……どうか……幸せ……になって……ください!)

 ミケルドは……心の底から……そう願った。


 ザザッ。


(ホーリー……様……どう……か幸せ……になって……ください!)

 ミケルド……は……心の底から……そう願った。


 ザザッ。


(ホーリー……さささままま……どどうううかかかしししししあわせ……になってててて……くだだだださいいいいいい!!!!!)

 ミミケケケルルルド……はははは……心ののののの底かららららら……そそそそそううううう願ったたたたたった。


 ザザッ。


(ホホホーーーリリリリーーー……ささささささまままままま……しどどどどどどどううううううううかかかかしししししししあああわわわせせせ……にににななっっってててて……くくくくくだだだださいいいいいい!!!!!)

 ミミケケケルルルド……はははは……心ののののの底かららららら……そそそそそううううう願ったたたたたった。


 ザザッ。


(ホホホホホホーーーーーーーリリリリリリーーーーー……さまさまさまさまさまさま……どどどどどどどどどどどうううううかかかかかかかかかかしししししああああわわわわせせせせせ……ににいいいいなってええええ……くくくくくだだだださささささいいいいいいいいいい!!!!!!!)

 ミミミミケケケケケルルルルルルドドドドドドドドドド……はははははは……こころろろろろろろろののののののそそそこここここかかかかかららららら……そそそそそそそうううううねがねがああああああああたたたたたたたたあああああああ。


 プツン。


 ミケルドは、すっと立ち上がった。

 隣に座っている人間や後ろに座っている人間が「何だ?」とミケルドを見る。


「ゴアアアアアアア!」

 今まで、式場の隅で静かにしていた『トゥルードラゴン』が突然、激しく吠えた。

『トゥルードラゴン』の視線の先には、ミケルドがいる。


 ミケルドは自分の人差し指を

 ミケルドの人差し指から、光の弾丸が発射される。


 光の弾丸はまっすぐ飛んでいき、ホーリーの頭を貫いた。


***


 ドン、と何かが床に倒れる音がした。

『誓いのキス』をしようとしていた安藤は、驚いて目を開ける。

 下に目を向けると、


 ホーリーが目を開けたまま倒れていた。

 頭から大量の血を流しながら。


「……ホーリーさん?」

 名前を呼んでも、ホーリーはピクリとも動かない。

 安藤は倒れているホーリーの頭にそっと触れた。安藤の手におびただしい量の血がビッシリとこびりつく。

 ホーリーの頭から流れる血は床に広がり、純白のウエディングドレスを赤く染めた。


「きゃあああああ!」


 参列者の一人が大声で叫んだ。

「うわあああああ!」

「いやあああああ!」

 恐怖が伝播していき、式場はパニックに陥った。


 しかし、安藤の耳に人々の悲鳴は入っていない。

「ホーリーさん……」

 安藤は呆然と倒れているホーリーを見続けた。

 普通なら、式場に医者か回復魔法が使える魔法使いが居ないか探すだろう。

 だが、安藤は動かなかった。動いても無駄だと、脳が自然に判断を下していた。


 倒れているホーリーは明らかに、一考の余地もなく、


 唖然とする安藤。

 そんな安藤に、ホーリーの頭に光の弾丸を撃ち込んだミケルドが声を掛けた。



 ミケルドは笑っていた。

 安藤は、ミケルドを知らない。だが、ミケルドの笑顔には見覚えがあった。

 口から自然とその笑顔の持ち主の名前が出る。


「由香里?」


 安藤が名前を呼ぶとミケルドは、


「久しぶりだね。優斗!」

 ミケルドは、さらに


「迎えに来たよ!」

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