第12話 サプライズ
「きゃああ!」
「ぐわあああ!」
立ち上がったオリハルコン・ゴーレムに次々と兵士達が潰されていく。
「ヒ、ヒシタニ様。早く、早くトドメを!」
「まだです」
「何故!?」
「それは……」
「グガアアアアア!」
ひとしきり暴れたオリハルコン・ゴーレムの動きが止まった。
オリハルコン・ゴーレムはチラリと、どこかに視線を向けると、その方向とは逆向きに歩き出した。オリハルコン・ゴーレムが歩く度、その体からはオリハルコンの欠片がボロボロと落ちる。
「なるほど、あちらの方向か……」
菱谷はボソリと何かを呟く。その瞬間、菱谷が作り出した2体のオリハルコン・ゴーレムが動き出した。
「グオオオオオ!」
「ギオオオオオ!」
菱谷のオリハルコン・ゴーレム2体が逃げるオリハルコン・ゴーレムに追いつく。
そして、強烈な拳をその頭部に振り下ろした。
「ギャア」
オリハルコン・ゴーレムの頭が半分欠ける。オリハルコン・ゴーレムは短い断末魔を上げ、その場に倒れた。
そして、二度と立ち上がることはなかった。
「終わった……のか?」
恐る恐る安藤は菱谷に尋ねる。しかし、菱谷は首を左右に振った。
「いいえ、先輩。まだ終わっていません」
菱谷は安藤の顔を笑顔で見つめる。
「さぁ、先輩。一緒に行きましょう!」
***
「なぁ、菱谷。どこに行くんだ?」
「もう少しで到着します。楽しみに待っていてください」
菱谷はニコニコしていて上機嫌だった。
「ああ、先輩。見えてきましたよ」
菱谷が指さす方向にあったのは、巨大な洞窟だった。
「これは……!?」
洞窟に入った安藤は目を見開いた。
洞窟の中は宝石で散りばめられていた。
燃えるような紅い宝石、海のように静かな蒼い宝石、空気のようにどこまでも透明な宝石……多種多様な宝石で洞窟は埋め尽くされている。
「こ、此処は?」
「まだ誰にも見付けられていない洞窟ようですね。洞窟内に散らばっている鉱物が互いに干渉し合い、天然の結界魔法を発動させています。おそらく、誰もこの洞窟の事は見えず、近づこうとすら思わないでしょう」
菱谷は得意げに説明する。
「さぁ、先に進みましょう」
安藤と菱谷は洞窟の奥へと進む。すると……。
「グオオオオオオ!」
洞窟の奥から雄叫びが聞こえてきた。
「ひっ!」
安藤は思わず身を竦めた。その手を菱谷の手が優しく包む。
「大丈夫ですよ、先輩。先輩は私が守ります」
菱谷はニコリとほほ笑んだ。安藤の中の恐怖が薄くなっていく。
「さぁ、もう少しですよ」
それから少し歩くと、安藤と菱谷は洞窟の奥にたどり着いた。
そこには、雄叫びを上げている者がいた。
「グアオオオオオオ!」
そこにいたのは、オリハルコン・ゴーレムだった。
しかも、3体もいる。
オリハルコン・ゴーレムは安藤と菱谷に向けて威嚇の雄叫びを上げる。
だが、3体のオリハルコン・ゴーレムを見ても、威嚇の雄叫びを受けても安藤に恐怖はなかった。
それは、菱谷が安藤の手を握っているからだけではない。恐怖よりも驚きの方が勝ったからだ。
安藤の目の前にいる3体のオリハルコン・ゴーレムは小さかった。
その大きさはせいぜい3メートル少し超えている程。先程、菱谷が倒したオリハルコン・ゴーレムと比べると明らかに小さい。
「あれは、もしかして……」
「そうです」
菱谷はニヤリと唇の端を上げる。
「あのオリハルコン・ゴーレムの子供です」
***
「……子供」
その言葉を聞いて安藤は頭を軽く抑えた。
安藤はあのオリハルコン・ゴーレム初めてみた時、巨大な怪物だと思った。倒すべき化物だと……だが、怪物でも化け物でも魔物でも相手は生物。
そして、生物なら子供を育てても、何もおかしくはない。
「菱谷、どうして子供が此処にいるって、分かったんだ?」
「最初にこの依頼が来た時から、もしかしたら、どこかに子供がいる可能性もあると思っていました。滅多に人前に現れないオリハルコン・ゴーレムが現れたのは、
子供を育てるためのエサが不足したせいではないかと。ですから、さっきは、わざと倒さずにオリハルコン・ゴーレムがどのような反応をするのか探りました」
ダメージを負ったオリハルコン・ゴーレムは一度、この辺りに視線を向けた後、別の方向に歩き出した。
「野生動物の親は時として、外敵を子供から遠ざけるために自らを囮にすることがあります。あのオリハルコン・ゴーレムは自らを囮にして私達をこの場所から遠ざけようとしたのでしょう」
「それで、この場所に子供がいるって分かったのか……」
「はい、探索魔法を使って調べた所、案の定此処にいました。天然の結界魔法が発動している洞窟。子育てには打ってつけの場所です」
「でも、結界魔法があるなら、どうやって此処が……」
「あの程度の結界魔法、何でもありませんよ」
長らく人に見つからなかったであろうこの場所を見付けた菱谷は、あっさりとそう言った。
「グオオオオオオ」
オリハルコン・ゴーレムの子供が吠えた。よく見るとこちらに向かって吠えているのは1体だけで、後の2体は吠えている子供の後ろで震えていた。
(ああ、そうか……こいつ)
恐らく、吠えている子供がこの3体の中で一番の年上なのだろう、よく見れば他の2体よりも体が僅かに大きい。
前方で吠えている子供は、後ろにいる年下の兄妹を守っているのだ。
自分も怖いはずなのに。
その姿は、家族を守ろうとする人間となんら変わりがない。
その姿を見た安藤の胸の中に罪悪感が生まれる。
ついさっき、この子達の親は人間の……菱谷の手によって殺された。無論、安藤は何もしていない。ただ見ていただけだ。
だが、菱谷がこの世界に来るきっかけになったのは、安藤が原因だ。
もし、安藤がいなかったら、菱谷はこの世界に来ることはなかっただろう。
そうすれば、この子の親が殺されることはなかった。
安藤の脳裏に、菱谷が殺した人間の姿が浮かぶ。
安藤がいなければ、死ぬことのなかった人間達の姿が。
「なぁ、菱谷。この子たちは……」
安藤が何か言おうとした時、菱谷は何かを呟いた。菱谷の周囲に複数の小さな光の粒が現れる。そして菱谷は、さらに何かを呟く。
すると、光の粒の一つが猛スピードで動き出した。
ボン。
光の粒は、前方で年下の兄妹を必死で守っていたオリハルコン・ゴーレムの子供の頭部に命中した。
そして、子供の頭を粉々に吹き飛ばす。
オリハルコン・ゴーレムの子供は、そのまま前方に倒れた。
「ギャアアアアア」
「ギャアアアアア」
後ろで震えていた他の子供2体が悲鳴を上げる。菱谷はボソリと口を動かした。
「菱谷……やめっ!」
安藤は叫ぶ。だが、もう遅い。菱谷の周りに浮いていた光の粒が残った子供2体に殺到する。
「ギハヤアアアアア!」
「グバアアアアアア!」
光の粒は残った子供2体の体を粉々に砕く。
オリハルコン・ゴーレムの子供2体はバラバラに散らばり、混ざり合った。
「よし、これで仕事終了です!」
菱谷は満足そうに頷く。
「大人のオリハルコン・ゴーレムには魔法が効きにくく、完全に倒すにはこの鉱山ごと吹き飛ばすような強力な魔法を使う必要があります。ですが、それはダメだと依頼されていましたので、オリハルコン・ゴーレムを造り戦わせるという、鉱山にダメージを与えない方法で倒しました。ですが、この3体はまだ子供。体のオリハルコンの密度も薄いので、普通の魔法で倒すことができたのです」
菱谷は、オリハルコン・ゴーレムの残骸に近づくと、その中の一つを拾った。
「はい、先輩。プレゼントです!」
菱谷は、オリハルコン・ゴーレムの子供の欠片を安藤に差し出す。
「街に出かけた時、宝石店に行ったじゃないですか。本当はあの時、先輩に宝石をプレゼントしようとしたんです。でも、出来ずじまいでしたので何か代わりになるものはないか探していました。魔法で造り出したものでは少々趣に欠けますので、出来れば何か、天然の物が良いと考えていました。そこにちょうど、オリハルコン・ゴーレム討伐の依頼が来たので、これは先輩へのプレゼントになるなぁって思ってたんです。大人のオリハルコン・ゴーレムの欠片でも良かったんですが、子供のオリハルコン・ゴーレムの欠片の方が色が綺麗なので、これを先輩にプレゼ
トすることにしました!」
先輩、どうぞ。受け取ってください!
菱谷はサプライズが成功した。という表情で、ニコニコしている。
対する安藤は、菱谷の手の中にあるオリハルコンを絶望の表情で見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます