第11話 創造魔法

「グオオオオオオオ!」

 オリハルコン・ゴーレムは咆哮と共に起き上がると、自分を吹き飛ばした元凶を睨みつけた。


 その視線の先には2体のオリハルコン・ゴーレムがいる。


 突然、目の前に現れた同類。だが、殴り飛ばされたオリハルコン・ゴーレムは一瞬たりとも迷うことはなかった。

「グガアアアアア!」

 耳を劈く程の雄叫を上げながら、オリハルコン・ゴーレムは逆襲を開始した。


 だが……。


「グガァ!」

 殴り掛かったオリハルコン・ゴーレムは逆に殴り返された。

 よろめいた所を背後に回り込んだ1体に羽交い絞めにされ、もう1体に何度も何度も殴られる。

「グガ、ゴガ、ゴガアアア!」

 どんな攻撃を受けても傷一つ付かなかったオリハルコン・ゴーレムの体が殴られる度に欠けていく。


「なんだ、あれ?」

「俺は……夢でも見てるのか?」


 あまりの光景に、周囲の兵士達も動揺を隠せない。


『どうです先輩!私の力は?』

 安藤の頭の中で菱谷の声がした。安藤はその声に応答する。

「菱谷……お前なのか?」

『はい。“テレパシー”で先輩の頭の中に直接話し掛けています』

「……テレパシー」

 元いた世界では、漫画や映画など、空想上の物語の中だけでしか使われることのない単語。

 それがこちらの世界は、魔法という形で現実に存在している。


「どうかされましたか?」

 独りで何事か呟く安藤の様子を不審に思った部隊長が話し掛けてきた。

「あ、いえ、その、今テ、テレパシーで菱谷と話を……」

「ヒシタニ様とですか!?」

 部隊長が大声で叫ぶ。周りの兵士達も一斉に安藤に視線を向けた。

「ああ……ええ……」

「安藤、俺の名前は安藤と言います」

「アン……ドウ様ですね。失礼しました」

 若干発音し辛らそうに部隊長は安藤の名前を呼ぶ。

「アンドウ様、ヒシタニ様に聞いて頂きたいことがあります」

「な、何でしょう?」

「あの2体のオリハルコン・ゴーレムは何なのでしょうか?ヒシタニ様が召喚されたのでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待ってください。菱谷」

『聞こえていましたよ。先輩』

 不機嫌げな声で菱谷は応えた。安藤との会話を邪魔されたのが不満なのだろう。

『あれは、“創造魔法”です』

「そう……?」

『“創造魔法”です。そのまま伝えてください。それで伝わります』

「わ、分かった」

「アンドウ様、ヒシタニ様は何と?」

「あれは“創造魔法”だそうです」

 安藤は菱谷に聞いた言葉をそのまま伝える。

 一瞬、皆が黙り込んだ。そして……。


「「「「「「創造魔法!?」」」」」」」


 皆が一斉に驚きの声を上げる。特に兵士の中にいる魔法使い達が驚いている。


「創造魔法……ヒシタニ様は、オリハルコン・ゴーレムを創造されたのだというのですか!?」

「えっと……」

『そうです。と、お伝えください』

「そ、そうらしいです」

「まさか……そんなことが!?」

 部隊長の顔が蒼ざめる。

「媒体は!?何を媒体にして……?」

 今度は、魔法使いと思われる兵士の一人が話し掛けてきた。

『空気……正確には窒素元素を媒介にしています。と、お伝えください』

「ち、窒素?を媒介にしているそうです」


「「「「窒素!?」」」」


 兵士達が一層ざわめき立つ。


「窒素を媒介にして、オリハルコン・ゴーレムを創造!?」

「だって、それって、窒素原子をオリハルコン原子に……」

「それは、もう……錬金ですら……」

「まさか……」

「これは、大変なことだぞ」

「オリハルコンの多量生産が可能に……」

「経済が……」

「価値が……」

「暴落……」

「歴史が変わる……」

「この魔法は最早、人の領域では……」

「か、神……」


 事態が飲み込めない安藤だったが、皆の驚き具合で、菱谷がとんでもないことをしていることは理解できた。

 

 ドオオンンと巨大な音が辺りに響いた。


 安藤は音の方を見る。

 その目に飛び込んできたのは、佇む菱谷と2体のオリハルコン・ゴーレム。


 そして、体中が欠け、ひび割れ倒れているオリハルコン・ゴーレムの姿だった。


                ***


「流石、魔女様だ!」

「やはり、魔女様は凄い!」

「俺は最初から信じていたぞ!」


 兵士の半数が沸き上がる。残りの半分は騒ぎはしないものの、明らかに驚きを隠せないでいた。


 兵士達皆が、倒れたオリハルコン・ゴーレムの元に向かう。安藤も急いで菱谷の元に駆け寄った。


「菱谷……」

「先輩!」

 菱谷は安藤の胸の中に飛び込む。

「どうでしたか?私の活躍。見ててくださいましたか?」

 胸の中で菱谷はニコリとほほ笑む。

「あ、ああ。見てた」

「そうですか!ああ、嬉しい!」

 菱谷はまるで猫のように頬ずりをしてくる。

 普段の安藤なら菱谷を突き飛ばそうとしていただろうが、今は、驚きの方が勝ってそれどころではない。

「なぁ……こいつらは大丈夫なのか?」

 菱谷の近くには2体のオリハルコン・ゴーレムが佇んでいる。

「はい、この子達は私の命令に従いますので、襲ってくることはありませんよ」

「そ、そうか」

 とは言っても怖いものは怖い。安藤は倒れているオリハルコン・ゴーレムの方に視線を移す。

 倒れているオリハルコン・ゴーレムの周りには兵士達が死体に群がるアリのように集まっている。

「なぁ、あっちは……」

「ああ、向こうには近づかないでください」

「え?」


「ゴオオオオオオオオオ!」


 咆哮と共に今まで倒れていたオリハルコン・ゴーレムが起き上がった。

「うわああああ!」

「きゃああああ!」

 倒れていたオリハルコン・ゴーレムの周りにいた兵士達は叫び声を上げながら、逃げ惑う。


「ヒ、ヒシタニ様!」

 部隊長が慌てて菱谷の元に走ってくる。

「オ、オリハルコン・ゴーレムが!」

「危険ですから近づかない方がいいですよ」

 菱谷は安藤の胸に顔を埋めながら呟く。


「まだ生きていますから」



 





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