廃工場のジーニアス
世界は知らないことに満ちている。
こんな世界だからなおさらだ。それはミューもまた同じ。
「足立さん! もっと早く!」
「ぜぇ……うる、せえ!! これでも全力だ!」
知らないという事は危険なこと、なんてことをミューが前に言っていた。
だが巨大でおんぼろで、錆びついたロボットが俺達を追ってくる理由なんて知るわけない!
「うわわわ?! 腕! 腕が!」
後ろをドシンドシンと思わず飛び上がってしまいそうなくらいの足音を立てながら追ってくるロボットが、俺達に向かって部品をポロポロ散らかしながら腕を振り下ろす。
その腕は全然違う方へと振り下ろされたがそれでも追いかける足を止めようとしない。
速度はそこまでじゃない。だが俺の体力がいつまで持つか。
「ああクソッ! なんでこんなことに! 俺が何かしたってのか?!」
こうなった経緯は全然大したことではない。
俺達は旅の途中、廃工場を見つけ、ミューの足の代用品があるんじゃないかと中へ入った。
工場内は出口が分からないほど複雑で鉄臭かった。
あちこち錆びがあり、鉄橋やパイプ、遠くまで続いていそうな果ての無い広さの工場を構成している物が壊れていた。
そんな工場内を探索していた時だった。
突然ゴオン……と音がし、かと思うと俺達の前にいきなり巨大なロボットが現れ、片目しかない赤い目をボォン……と光らせる。
そして俺達はわけもわからないままいきなり襲われ、追われる身になり現在に至る。
「ボオオオォォォォ……」
ロボットが鳴き声のように音を出した。
見る余裕なんて無い。ちょっとでも止まれば踏みつぶされる。
幸い今の俺達は工場の外にある開けた場所を走っているが、ここもいつまで続くのやら。
また中へと入ってしまったらあのロボットは強引に工場を踏みつぶしながら追ってくるだろう。
そうなれば俺達は瓦礫の下かロボットの足の下だ。
「どうするんですか足立さん?! このままだと死んでしまいますよ?!」
「分かってる! 分かってるけど銃も効かねえんだしどうしようもねえだろ?!」
だからって何もしないと死ぬ。
どうする? どうすればいい?
俺は走りながら考えを巡らせる。だがふと俺は考えるのを止めた。
突然、ロボットが歩くのを止めたからだ。
「……は? なんで突然――」
「うわッ?!」
ロボットの方を向いていた俺の背中にミューの驚きの声が響く。
「どうしたミュー?」
「あれは? 誰ですか?」
意味が分からず振り向く。
前には誰もいない。するとミューが斜め上の鉄橋を見ろと言うのでそこを見た。
俺はミューが驚いた理由を理解し、よくあんなところに人間(いや、アンドロイドかもしれない)がいるのを見つけたなと感心した。
「なんだあいつ? また宇宙人とかそういうよく分からないやつか?」
鉄橋の上のそいつは顔のほとんどを何かで覆っていてよく分からない。
ミューがいうにはガスマスクというものらしい。
するとそいつは背中から煙を吹きながらゆっくりと俺達の前へ降り、大きく両腕を開いた。
「フッフッフ……。ここに迷い込んだが運の尽き……」
そいつの声は子供のものだった。
それに背も俺より低く、服も黒ずくめのよく分からない重たそうな格好だ。
まるでこう……見てくれといってるようなそんな感じ。
「お前達にはあいつの鉄さびになってもらう」
するとそいつは片手をあげながら宙へと飛んだ。
同時にロボットが再び動き出し右腕を高く上げる。
こんなわけわからないやつに殺されるのか?
馬鹿げてる!
「やれ!!」
そいつが腕を振り下ろした。
もう終わりだ。そう思った直後、いきなりロボットから気の抜けるような音が響いてくる。
「あ……ロボットが」
目の光が消えたロボットは体から次々と部品を落としながら後ろへと倒れていった。
「ああああああ?! 俺達のロボット!! じゃなかった、ニックー!! 大丈夫かー?!」
そいつは空中で慌てていたが、急にジタバタとしながら倒れたロボットに向かって飛んでいく。
しかも勢い余ってカーン! とロボットに体を思いきりぶつけて……。
「……なんだあれ?」
「……さあ? なんでしょうか?」
俺達がボーッと成り行きを見守っていると、壊れたロボットの中からゲホゲホと咳き込みながら人間が二人出てきた。
一人はガスマスクのやつ。もう一人はヨレヨレのシャツを着ている汚れた少年だった。
「俺以外にも人間がいたのか……」
「そう、みたいですね……。でもあんな巨大なロボットを操っているなんて……彼らは一体?」
疑問で一杯の俺らの方に向かってガスマスクの子供に肩を貸しながら少年が歩いてくる。
「もうー! 長引かせすぎだよ兄ちゃん! なんであそこまでもったいぶるのさ?」
「だってさ。そうした方がほら、なんかいいじゃん?」
「知らないよもう! そもそも人間を見つけたからって襲ってみようってのがそもそもおかしいんだ」
そんな理由で俺達は殺されかけたのか……。
「でもニックだって乗り気だったじゃん?」
「それはほら。二人で作ったこれを試せると思ったから……」
「ほーらな? だから同罪だ」
「うう……ごめん」
「謝ってほしいのは俺達の方だ」
俺はこいつらにピシャリと言ってやったがどうも反省した様子をみせない。
まったくなんて奴らだ。
「はあー……。ミュー、お前からも何か言ってやれ」
「そうですね。こういう時にはガツンと言わないとです!」
俺はミューを抱きかかえ二人の正面に向ける。
二人は足の無いミューに一瞬驚くが、すぐに興味深そうに見つめだす。
が、ミューはそれをものともせずフンッ! と腰に手を当てた。
「いいですかお二人とも、お二人は私達を危うく殺そうとしたんですよ? 本当なら謝るだけじゃすみませんよ? 分かってるんですか?」
「でもそれは法律がある時の話だよね?」
ニックと呼ばれたぼさぼさの茶髪少年が、弱弱しい見た目とは裏腹にえらく堂々と主張する。
「そーだそーだ。実験台になってくれたことに感謝はするけど謝る気なんて無いよ。それに謝ったら俺達が悪いみたいじゃん」
「むぅ~!! 悪いみたいじゃなくて悪いんです!!」
ごもっとも。
「それはそっちが勝手に決めつけてることだ。だから知ったことじゃない」
教育目的のアンドロイドを除いて、普通は人間に対してこうも怒ったりしないらしいが今のミューは珍しく頬を膨らませてプンプンと怒ってる。
そりゃそうだ。俺なんか怒りを通り越して呆れかえってるくらいだからな。
「ところでおじさん、お腹空いてない?」
「は? なんだいきなり?」
「ちょッ?! まだ話は終わってませんよ?!」
「説教なんて時間と労力の無駄。で、おじさん。お腹空いてる? 飯があるから食べていってよ。それにさっき言っただろ? 謝らないけど感謝はしてるって。そのお礼」
なんだろうな……。随分ひん曲がったガキだな。ガスマスクをしてるせいか? いや関係ないか。
ガスマスクの少年が歩きだすと「早く早く。ついでに工場内も見せてあげるから。すごいんだよ?」とニックが無邪気な笑みを浮かべ少年の後を追った。
「足立さん。本当に行くんですか?」
「ん~。腹減ってるのは事実だしな。それに感謝してるらしいし大丈夫だろ」
「身の危険よりも食欲ですか……。分かりました。私も彼らが何者か気になりますので」
♢
俺達は工場内に設置されたボロボロのテントへと案内された。
ここに来るまでの道のりは目が回りそうなほど複雑だったがよく迷わずに来れるものだ。
「じゃあご飯取ってくるから待ってて」
そう言ってニックが走って行った。
残された俺とミューはガスマスクの少年の放つ好奇心一杯の視線をあびる。
「ねえ、二人の名前は? どういう関係?」
「俺は――」
「そっちから名乗るのが礼儀です」
えらく反抗的なミューの態度に俺は驚いた。
そんなにこいつのことが嫌いなのか?
「……アハハハハ!!」
ガスマスクの少年が急に足をジタバタさせながら笑いだす。
「アンドロイドなのにこんなにも子供っぽく反抗するなんて! おじさんよりも人間くさいね!」
ミューがまた怒り、少年は余計にケラケラ笑う。
俺からみればどっちも子供だ。
「はあー面白い……。じゃあお望み通り自己紹介を」
少年はご機嫌な様子で自己紹介を始めた。
少年の名前はアイク。
茶髪の髪をあげ、無邪気さのある鋭い青い目をしている。そして何よりの特徴は口元を覆う黒いガスマスクが特徴的。
なぜガスマスクかというと深い意味も無くただの趣味らしい。
本人がいうには生きてきた中で一番いかした拾い物だとか。
俺にはその考えがよく分からない。
「兄ちゃん、何の話してるの?」
ちょうどアイクが自己紹介を終えたところで焼き魚を数匹と飲み物を持ってニックが戻ってきた。
アイクがニックにこれまでの経緯をおかしそうに説明すると、ニックはアイクほどではないがおかしそうに笑い自己紹介を始める。
ニックはアイクとは対照的に見た目は大人しそうな少年だ。
髪も目にかかりそうなほどおろしていて少し長い。
青い目も丸くとがった感じのアイクとは違い穏やかな印象。
それに細身のせいなのかなよなよとしている。
だが性格はアイクと似ているようでこいつもよく笑い、明るい。
アイクが眩しすぎるって感じで、ニックはちょうどいいくらいだ。
「俺達兄弟はずっとここで暮らしてるんだ」
「そしてこの工場まるまる僕達の基地! すごいでしょ?!」
ニックがキラキラと目を輝かせながら訴えてくる。
気持ちは分かるがうざい。
「……すごいです」
素直なミューだからつい言葉に出てしまったんだろう。
すぐにハッとすると恥ずかしさとさっきまでのイライラが残ってるせいか顔を赤くして目をそらす。
それを見て兄弟は揃って嬉しそうに笑った。
♢
それから俺は飯をごちそうになりながら俺達の事や旅の間に起きた事を話した。
最初は俺ばっかりが話をしててミューは少しすねた様子だったが、アイク達が何を話しても興味津々で聞いているうちにミューもつられて色々話すようになった。
そしてミューは次第に元気になり、気づくと俺以上にこいつらと気が合うようになっていた。
結果……うるさいのが三人になってしまう。まあ、すねてるよりはマシか……。
「ところでお二人は人間なんですか?」
「そうだよー」
「それも才能が有り余ってるほどのな」
その自信はどこからって言いたいところだがあんなロボットを見せつけられたら否定できない。
動作テストって言ってたしあいつらが修理したか作ったかしたんだろう。
ん? ロボットを修理したのなら……。
「なあアイク。お前らはあのロボットを修理したんだよな?」
「うん。でも修理というか作り直しって感じだったな。大変だったよな~ニック」
アイクがそう言うとニックは頷き二人があれやこれやと話し出す。
このままだといつ話が終わるか分からない。
俺は割り込む形で強引に話をぶった切る。
「あーそうなのか。それでよ、聞きたいことがあるんだ。お前達のその腕を使ってミューの足をどうにかできないか?」
アイク達は首をかしげながらミューに近づき足回りをジッと見つめる。
その間ミューは何だか恥ずかしそうにしていた。
少し罪悪感があるが仕方ないだろ……。
「うーん……俺達には無理」
「才能が有り余ってるんじゃなかったのか?」
「そりゃそうだけどないものねだりは無理。アンドロイドは確か特殊な部品とかが必要でそう簡単に直せるもんじゃないよ。足まるまるなんてなおさら」
「ごめんね。力になれなくて」
ニックが謝るとアイクも続いて謝った。
失礼だが俺は落胆以上にこいつらが素直に謝ったことに感心してしまう。
「いえ、いいんですよ。それに急いでるわけではありませんので」
「でも足が無いと不便じゃない?」
「たしかにそうです。でも足が無くてもいいことはありますよ」
アイク達が「例えば?」と揃って首をかしげる。
「足立さんに背負われながら旅ができます。つまり楽ができるってわけです!」
ドーン! と自信満々に言い放ったミューに共感するようにアイク達が「おおー!」と歓声をあげる。
ていうか「おおー!」じゃねえよ。
俺はそう思いながら最後の一切れを口に入れる。
「飯、ありがとな。それじゃ俺達はそろそろ――」
「待ってよおじさん」
ミューを背負おうとした俺はニックに呼び止められる。
「まだ行っちゃダメ」
「は? なんで?」
「だってまだここを案内してないんだもん」
そーだそーだ! とアイクも続く。
そんな必死になってまでしたいことなのか?
「どうするミュー?」
「私は別に問題ありませんよ」
ま、俺もだが。聞くだけ無駄だったな。
でも案内されるだけされてさようならってのは疲れるし無駄だな。何より腹が減る。
「分かった。ただし食い物をくれるってのが条件だ」
ちょっと意地悪だったか?
なんて思いはあっけなく覆され、兄弟は揃って「そんなの余裕余裕!」と笑った。
そして俺の手を引っ張るなり元気に歩きだした。
「っておい待て! まだミューを背負ってない!」
謝る兄弟をよそに俺はミューを抱える。
「まるでおもちゃを見せたがる子供みたいですねえ……」
そう言ったミューの姿が、いつもより少し大人びた感じに見えた。
♢
どれくらい工場の中を歩いたのだろう。
普段の旅で足腰には自信はあるはずだが悲鳴をあげている。
いや、これは俺の体力が無いからじゃない。
アイク達とミューがうるさいからだ……。
こいつらは工場内の機械やらを熱心に、それだけでなく俺の知らない話で盛り上がる。
そのせいか時々歩く速度も速くなる。
それについて行くのが精いっぱいなのに右へ左へ、上へ下へと俺は振り回された。
「な、なあ……。これいつまでやるんだ?」
「えーおじさん。もう疲れたの? それじゃこの世界やっていけないよ?」
「兄ちゃんの言う通りだよ?」
「そうですよ足立さん! アイクさんの言う通りです!」
ほぼ同時にニックとミューが文句を言う。
うるせえ。お前らが元気すぎるんだ……。
そう言いたくて仕方ないがそれを言う元気もない。
「うーん。でも十分堪能できましたしそろそろ終わりますか? お二人とも、それでいいですか?」
「僕はいいけど兄ちゃんは?」
「そうだな。俺も……」
アイクは穴がぽっかり空いた壊れた天井を見上げたまま黙る。
そこからは赤くなっていく空が見えた。
「じゃあ最後にとっておきの場所を見せてあげる」
ニックはアイクがどこに連れて行こうか理解したのか嬉しそうに笑った。
♢
「そういえばお前らはここに二人で住んでるのか?」
斜め上に向いた長くて錆びついた鉄橋の上で俺はなんとなく聞いた。
カン……と音がするとニックが頷く。
「ずっとか?」
「ずっとじゃないよ。ここ数年くらい」
「じゃあ前は誰かといたのか?」
「うん。お父さんとお母さんと一緒だった。でもお父さんもお母さんも俺達を置いて死んじゃった」
あー……。まあ、こんな世界だと生きるので精いっぱいだもんな。
辛いだろうけどそれは仕方ないことだ。
「そっか。悪かったな」
「ううん、全然。だってお父さんとお母さんが近いうちに死ぬのは分かってたから」
アイクの言葉に違和感を覚えた俺はついどういうことか聞いてしまった。
すると鉄橋を渡り終えたニックが錆びついた梯子に手をかけたところで「二人とも自殺したんだ」と冷静な声で言った。
表情は分からない。だが悲しんでいないということが声だけで分かった。
「普通だったけど変な感じがしたんだ。それでどうしたんだろうって思ってたら自殺してた。でも全然悲しくも無かったし当然だろうって思ったんだ。不思議だよね」
俺は何も言えなかった。
いや、何か分からない薄気味悪さのせいで口が開かなかった。
「聞かせてください。それはどうしてですか?」
ミューが冷静に聞くと先頭を行くアイクが梯子を上りながら少し語ってくれた。
アイク達の親も、その親も、さらにその親もどういうわけか全員が自殺しているらしい。
なぜかは分からない。本当に何も分からないそうだ。
ただ分かることは一つだけ。
「俺達は
ミューはそれが何か分からない俺に簡単に説明してくれた。
最初は生命倫理とやらで問題が起きていたがそれでもそれなりの数の子供が生み出され、しかも若くしてすごい功績をあげたとか。
そうするうちに人類の進化だとか貢献に大いに期待できるという考えが広まり禁止されなかった。
だがどういうわけか、彼らの多くは自殺の道を選んだ。
その割合は通常の4~5倍。
「それが問題になる頃に戦争が起きました」
ミューが口を閉じると暗い空気が辺りに流れる。
アイク達もそのせいか黙ってしまう。
「……ねえミュー。それが本当なら俺達もそうなるのかな?」
アイクの口調は重かった。
ニックも黙ってはいるがミューの返事を待っているのが痛いほどわかる。
それだけ不安なんだろう。
「『そんなことありません』と言いたいところですが、最終的にはお二人次第です」
ちょうどその時、梯子を登り終えた。
暗い鉄の道、数歩横に歩いてしまうと下へと真っ逆さまに落ちそうなくらい狭い。
その道の先にある重たそうな扉へ向かって俺達は歩きだす。
「今日出会ったばかりの私が言うのもなんですが、本当に理解できる方がいればそんなことは起きないと思います。そしてそういう方とはお二人それぞれです」
アイク達が互いに顔を見る。
「それはなんとなく分かるけど、具体的にどうするの?」
「そうですね。簡潔に言えば一緒にいたり、色々話をしたり、とにかく心を開く事ですね。難しいと思いますが少しずつ信頼し合えるようにするのが方法の一つです」
二人は目を少し大きくしたままこっちを見ている。
そしてしばらくして、また二人は互いを見た。
「なんだ、そんなことか」
「僕達がいつもしてることじゃん」
さっきまで暗かった空気が一転、アイク達の表情が明るくなり二人は扉に向かって走り出した。
そして扉を開けると、そこには夕焼けに染まる世界が広がっていた。
屋上に出た俺達はしばらく目の前に広がる景色を眺めていた。
工場の遠く向こう側には自然と同化しつつある廃墟が並ぶ。
見慣れた景色のはずなのになぜか綺麗だ。初めて見たような、そんな感じ。
「ねえ、おじさんたちはどこから来たの?」
しばらく景色を楽しんでいるとニックが声をかけてきた。
「あー多分、あっち」
適当に指さしたから実際のところ分からない。
「じゃあこれからどこに向かうの?」
「ん? 多分あっち」
また適当に指さす。アイク達は俺のいい加減さに笑ってしまう。
自分がしたことなのに俺まで笑いそうだ。
「ねえねえ、旅って楽しい?」
「んなことない。しんどいぞ」
「えー足立さん! 楽しくないのですか?!」
お前がそれを言うか。
「とにかく、旅なんかしても疲れるし飯は手に入るか分からないしろくなことがない」
「でも俺達に出会えた。それもろくなこと?」
なんでそう自信満々に……。
「……答えに困る」
俺がそう答えた時、二人は嬉しそうだった。
♢
テントへ戻った頃には夜になり、結局俺達はアイク達のテントで一夜を明かした。
そして翌日、荷物の整理をし終えアイク達に案内され廃工場の外まで出た。
「じゃあな。色々世話になった。ありがとな」
「ううん。こっちこそありがと」
「おじさん、また会った時はよろしく。俺達もそのうち旅に出ると思うから」
ちょっと驚いた。ここにいる方が安全だと思うしわざわざ危険を冒す理由なんて――
「驚いたって感じだね」
心を読まれてた。
「顔にそう書いてるよ」
ミューが見れるわけないのに俺の顔を見ようとジタバタ動く。
俺はミューの頭を軽く押さえて落ち着かせる。
「なんで危険を冒してまで旅をする気なんだ? 俺達と違ってお前らには旅をする理由が無いだろ」
「無かったら旅をしちゃいけないの?」
「いや、べつに」
「ねえおじさん。俺達がなんでロボットを作ったか分かる?」
俺は首を横に振る。見当がつかない。
だがミューは違った。
「
正解! とアイク達が俺達に指さす。
「だから旅も同じ」
「うん。僕達が楽しそうだなって思ったら旅に出る。それだけだよ」
寂れた廃工場を背に元気に笑う二人の姿がなぜか目に焼き付いた。
「そっか。ま、もしそうなら頑張れよ」
「平気だよおじさん」
「おじさんにミューがいるように、俺には弟がいる。理解してくれる頼もしい弟がいる。だからへっちゃらだ」
ドーン! と腕を組んだまま自信たっぷりなアイクの横でニックも無邪気な笑顔を見せている。
こんな世界なのに、終わった世界のはずなのに、こいつらは明るい。
こいつらなら、きっとどんな場所でも生きていけるんだろう。
まだこの世界に、そんなやつがいたなんてな。
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