短編集

謎の岩

　私の住んでいるアパートはベランダから富士山が見えるが売り文句だった。

　その言葉通り天気の良い日にはベランダから富士山を一望することが出来た。

　その日の朝もいつもと変わらぬ富士山を見ながらいつもと同じモーニングコーヒーを飲むはずだった。

「なにあれ……」

　私は思わず持っていたマグカップを床に落としてしまった。

　その光景はまさに異様、富士山の火口にすっぽりと巨大な楕円形の岩のような物体が収まっていた。

　外では既に騒ぎになっており、慌ててテレビを点けると各局こぞってこの珍ニュースを取り上げていた。

『富士火口に突如として巨大物体が出現！！』

　あれが一体全体何なのか、ネット上でも様々な憶測が飛び交っていた。

「巨大隕石、ＵＦＯ……海外じゃフェイクニュースなんて噂も流れてるのね」

　新作映画のプロモーション映像では等という記事も流れて来たが、そんなものでは私のこの眼前に広がる光景の説明はつかない。

　第一たった一夜でこれ程の巨大物体を造れる企業がどこにあるのか。

「見に行ってみようかな……」

　私は早速車を走らせた。

　富士山の麓に着くと当然のごとく見物人で溢れかえっていた。

　どうやら交通規制によりこれ以上先には進めないようだ。

　今頃はどこぞの研究チームがあの物体の調査でも行っているんだろう。

「諦めて帰るか」

　翌日のニュースも例の巨大物体の話題で持ちきりだった。

　もしもあの大きさの巨大隕石が降ってきたらどうなるか、ＣＧを駆使した検証番組では私の住んでる一帯も落下の衝撃で焦土になっていた。

　そもそももし隕石であれば天文台や衛星から観測されててもおかしくないだろう。

「結局何なわけあなたは……」

　正体不明な物体は今日も変わらず富士山の上に鎮座している。

　ニュースによるとあの物体の撤去は現状不可能らしい。

　季節は夏、もうしばらくすれば富士山頂には雪が降る。

「そういえば最近少し冷えてきたなぁ」

　私は今日も変わらず富士山を眺めながら早朝のコーヒーを飲むのだ。