PAGE.427「カルチャー・イーター(後編)」
謎の黒い雨。あの雨が何なのか、調査は続く。
「あれ? この街の雨って」
「この街の天気は我々でコントロールしている。次に雨が降るのは先の話のはずだった」
外の世界に隔離されているはずのこの街の天気はどうなっているのか、ルノアはふと気になっていた。
どうやら魔術で用意していたものらしい。しかしこの慌てよう……もしかしなくても、黒い雨はフォドラ特有の天気などではない。
「あの黒い雨は結界の外からやってきたものだ。雨は結界を突き破り、この街へと吹き荒れた……外で何が起きている? こんな恐ろしいものが降り注ぐなど……」
黒い雨。それは結界の外からの来訪者。
原因があるとすれば……今、フォドラの外。魔族界戦争が勃発しているクロヌス側で何かが起きていると考えるのが道理となる。
「そういえば、オボロも言ってたな。雨が降り出した途端にガルドの結界が若干だが弱まったって」
飛空艇ガルドも知らぬ間に黒い雨の襲撃を受けていたのだ。結界装置の不調などではなかったのだ。
「しかし、よくもまぁ墜落しなかったな?」
「そこは精霊皇様の兵器のお力ってワケだろうな」
魔力であろうと溶かす謎の液体。
人間界に降り注ぐ謎の災厄……その正体、たどり着ける一つの地点となれば。
“魔族界側からの襲撃”と捉えるべきか。
「黒い、水……?」
身に覚えも見た事もないパターンの襲撃。
しかし……その不気味な色の液体を一度、その目で見た人間がその場にいる。
「もしや……!」
ルノアとフリジオ。
二人は一度、その黒い液体をその目で見ている……一年前、王都全体を飲み込みかけた“悪夢の濁流”を呼び起こした魔族の事を知っている。
「失礼します! 黒のスライムの撤退を確認! 怪我人達の収容も終わらせました!」
「互いに生き残りがいるかもしれん! 騎士たちは警戒態勢を解くな! 民は発見次第救助、黒の生物は害を及ぼすと判断次第討滅せよ! 何か方法はあるはずだ!!」
「御意!」
報告を告げ、新たな指示を受けた騎士は玉座の間から立ち去る。
どうやら黒い雨の被害を一時的にとはいえ収束することは出来たようだ。とはいえ、神出鬼没に現れる黒いスライムだ。警戒は解かぬよう、逃げ遅れがいないかどうかの確認へと騎士たちは移り始めた。
「もし」
コーテナは空を見上げる。
「もし、また黒い雨が降ったら」
「今は結界を強める以外に方法はないだろう」
彼女の疑問にロードは応える。
「老体故に魔力がどれほど持つかは分からんが……今まで以上の結界をこの地へ張る」
元より日が進むにつれて、ロードの魔力に衰えが見え始めていた。
老体となってはいるものの彼の寿命の関係上、この街はまだ五百年近くは持ちこたえるだろう。だが生きて千年近く。結界をこの玉座の間で張り続けているロードの疲労は底知れない。
「ロード。それ以上の無理は……」
「俺達で王の魔力を紡ぐ」
玉座の間に集いし騎士たちは告げる。
「王の魔力が底を尽きないように、王に負担をかけないために俺達で結界を強めるよう魔力を供給する。それならどうにかなるはずだ」
確かにその方法なら結界はより強まるし、ロードの魔力のガス欠も防げる。
「それなら、私が」
「ナーヴァ」
魔力供給の任を自ら受けようとしたナーヴァの口を塞ぐようにロードは口を開く。
「任を与える。黒い雨の原因を突き止めろ。この街が黒い雨に蝕まれる前に」
「!!」
街の外に出て、黒い雨の調査を引き受ける。
フォドラの外に出すことを許された唯一の騎士。それだけの戦士として見込んでの命令。ナーヴァはその言葉をその身に受け止める。
「……御意のままに」
ナーヴァはその任を受け入れた。
黒い雨の正体を突き止める。そして阻害し、抹消する。このフォドラにこれ以上の被害を与えないよう、口答えも、反論一つ交わすことなく首を縦に降ろした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数分後、一同は城を出た。
これからどうするか。まずは船に戻って話し合う必要がある。
「そういえばナーヴァ。どうやってスライムを倒したの? 魔法はほとんど効かなかったのに」
「分からん。だがスライムの遺体が数体転がっていた。出力次第では倒せるのかもしれない」
何人か、黒いスライムに抵抗できた騎士がいた。
無敵、というわけではないようだ。だがあんな液体生物一体でも上級魔法使いを食いつぶせる災厄……簡単には攻略出来ないか。
「あっ!」
そうしようと考えた矢先の事だった。
「悪いッ! 遅くなっタ!」
誰かが寄ってくる。
巨大なオオカミ。それに跨り、コーテナ達の元へと寄ってくる少年が。
「ラチェット!」
睡眠をとっていたはずのラチェット。そして、彼の運送を引き受けたのは“魔族化したガ・ミューラ”であった。
ラチェットは彼女たちの存在を確認すると、急いでその場までガ・ミューラを走らせる。走っている彼は何処か不機嫌そうではあるが、自身を納得させるように頷くと彼女の元まで向かっていく。
「ラチェット! 実は」
「わかってる」
ガ・ミューラから飛び降りたラチェットはコーテナの言葉を遮る。
「“話は大方、姫さんから聞いた”」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます