PAGE.426「カルチャー・イーター(前編)」
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クロヌスの北東地域に突如現れた“黒い雨”。
その雨はすべての人類を溶かし、生きた痕跡を殺し。
“人間の文明全てを食らいつくす”。
その被害は“人間に味方する魔族であれ”同等だ。
クロヌスという世界から逸脱しているはずのフォドラにさえ毒牙にかけている状況だった。
「うわぁあッ!?」
体を咄嗟に硬化させるスカル。
しかしその行動は全くの無意味である。すべての生命に終わりを告げる黒の災厄より生まれたモンスターに“人間が行う自衛本能”は全く意味がない。
武具の全てを飲みこみ、素手で触れるものなら、骨の欠片も血の一滴も、皮の一剥ぎであろうと残すことなく飲み込んでしまう。
故に、スカルの命運は尽きている。
「……ッ!」
本来であれば、そのはずだった。
油断したが故の始末。彼はその運命を受け入れなくてはいけないはずだった。
「迂闊だぞ。来訪者」
突如、周辺に現れたのは“霧”だった。
次第に“破壊する側であるはずの生物が逆にその生命に破砕されていく”という不可思議な現象がスカルの頭上で繰り広げられる。
「なっ!?」
スカルは硬化を解き、慌ててその場から立ち去っていく。
……黒のスライムを溶かした霧が次第に集まっていく。
人の形。何度もこの目にした“甲冑の騎士”へと姿を変えていく。
「……一度城へ向かう」
霧の騎士・ナーヴァ。
謎に包まれた彼の力が今、その場で披露された。
「何が起きたのかを調べさせてもらう」
有無を言わさずにナーヴァは城の方へと向かっていく。
街のこの現状。楽しそうに彼を出迎えていた騎士が死も目前のように苦しみ、街も以前のような静かな賑わいを失っている。
カルナとロードの理想郷。その楽園が今、悲嘆の地へと変わっている。
それを黙って見過ごせるナーヴァのはずがない。声が自然と怒りに奮え、今までと違い冷静さを失ったかのように城へと走り出す。
「待って! ボクたちも行く!」
コーテナ達も当然、この街で何が起きたのかをナーヴァと共に探りに行く。
例の黒いスライムがまだ隠れているかもしれない。各自、あのスライムの生態がどのようなものなのか分からない以上、慎重にあたりを警戒しつつ、ナーヴァを追いかけた。
「あっ! ちょっと待って! あ、あ、あと助けてくれてありがとうございやしたァっ!」
死も目前だったが故に心臓が跳ね、落ち着かせるのに必死だった。ようやく落ち着いたスカルは言い損ねたお礼を何とか告げようと全速力で追いかけ始めた。
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城へ足を踏み入れると、街ほど被害は及んではいない。
しかし、中庭や管制塔の砦付近などの状況は悲惨なものだった。
外壁の一部は蒸散し崩れだしており、騎士たちも雨を浴びたせいで纏っていた鉄と共に皮膚が解け、苦しんでいる。
「何なんだよ! あの黒いスライムは!?」
「気味が悪いィ……近寄るんじゃねぇッ!!」
当然、例のスライムも。中庭はおろか、城内にまで足を踏み入れている個体がいた。
どれだけ反撃しようとも黒いスライムは魔力を飲み込み、放つ魔術全てを無効化してしまう。
「助けられないのかよッ! クソがッ!!」
黒いスライムが人間の体に張り付き溶かしている光景も何度もこの目で見た。ものの数時間で地獄絵図となったフォドラの被害に心を蝕まれながらも、一同は玉座の間へと向かう。
「ロード!」
玉座の間の門を開き、堂々と足を踏み入れる。
「おお、ナーヴァよ。戻ったか」
玉座の間には以前と同様に険しい表情を浮かべているロードの姿と、彼の招集にこたえ集められた数名の甲冑騎士。
……どうやら、ロードにまでは被害は及ばなかったようだ。
不謹慎であるかもしれない。だが、ナーヴァは安堵の息を吐き落とした。
「良かった! 無事だったんだ!!」
ナーヴァに続き、コーテナ達もたどり着く。
無限の地獄絵図、それをもたらした黒の災厄の壁を越え、ようやく追いついた。
「王よ、これは一体」
「分からぬ……何が起きたのか」
今、街で何が起きているのか。その現状を確かめるべく、騎士たちより報告を受けている最中だったようだ。
「……さっきの“黒い雨”か?」
分かった情報は“黒い雨”が関係している事。
ナーヴァもまた、勘づいているようだった。
「黒い雨?」
「ここへ来る途中降っていただろう」
現在、騎士たちによって回収されている被害者の大半が“雨を浴びた”者である。そして雨に濡れた建物や大地、食物も蝕まれている。
黒い雨と共に生み出された“黒いスライム”。
あれこそが一番の最悪の権化。数名の住民達があのスライムによって飲み込まれてしまった。
……あの黒い雨は何だったのか。
現状、その情報を整理していることをナーヴァに告げた。
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