PAGE.424「死して尚、芽吹く命。(後編)」
フレスキア平原を離れた一同は、王都へ戻る前に一度フォドラへ戻っていた。
友であるカルナの武器の行方。その闘いを見届けたナーヴァを帰すためだ。目的を終えた彼がもうこれ以上外のいざこざに巻き込まれる理由はない。
争いのない世界を望む者達を守る義務へと戻るため、フォドラへと帰るのだ。
戦闘が終わってすぐ、ラチェットは駆けつけたコーテナ達によって回収された。
気を失ってこそいたが呼吸はしている。体に無理をさせ過ぎたのか、全体が筋肉痛に打撲と酷い傷を負っていた。
とはいえ、この程度の傷であれば精霊皇の加護による再生で二日と立たずに回復する事だろう。今は彼の回復を待つために、一人静かに寝室で眠らせていた。
「……」
彼が眠っている間、一同は食事をとっていた。
用意されたのは船に補充されていたパンと目玉焼き。誰でも作れる軽食だ。
目玉焼きの乗せられた食パン。皿の上で香ばしい香りを漂わせる食事を前に、ナーヴァは甲冑をつけたまま見下ろし続けている。
「「「「じーーーっ」」」」
コーテナにクロ、そしてルノアとガ・ミューラと、子供達がナーヴァから目を離そうとしない。
「「じーーーっ」」
厨房からもエプロンをつけたままのスカル、そして自分の分の食事を待つフリジオも食事を眺め続ける彼から目を離そうとしない。
「……ふむ」
視線に目もくれず、ナーヴァは食事に手を伸ばす。
途端。
“シャッターが開くような音”が食堂に響く。
甲冑の口の部分だけが開き、ナーヴァはそこへ食べやすいサイズに千切った食パンを放り込んだ。
「「「「おおぉ……」」」」
甲冑の下はどうなっているのか見れるチャンスだと思ったが見事に裏切られた。コーテナ達はちょっと残念そうに項垂れる。
「なんつー、ギミック」
「ははは、これは面白い」
王都の騎士の甲冑にも存在しない仕掛けを前に面白そうに笑うフリジオ。そうまでして顔を見せたくないのかとスカルは一方で呆れていたが。
「……」
そんなくだらないことで多少の盛り上がりを見せる中。
アタリスは窓から、すっかり見えなくなったフレスキア平原へと視線を向ける。
「……人が変わったようであったな、小僧」
武人。まるで剣士。
ラチェットらしからぬ戦闘は、今も彼女の脳裏に焼き付いている。
「いや、人が変わったというより……誰かが、小僧に乗り移ったような」
あれは本当に彼だったのか。
真意を確かめるよりも先に気を失ったが故、その答えは謎のままだ。
「あの戦い」
真後ろで呟いていたアタリスの独り言が聞こえたのか、それに応えるようにナーヴァも食事を飲み込み、口を開く。
「……紛れもなく、カルナのものだった」
「そうか」
あの戦い方はカルナそのものだった。
しかしラチェットはカルナの戦い方なんて知るはずもない。それを何故、微塵もズレることなく再現できたのか……同じ疑問をナーヴァも抱いていた。
「雨が降って来たな」
窓に小粒の雫が叩きつけられる。
どよめいた空気の中、食事は続いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クロヌスの大地の真ん中。
一人、戯れの神は立つ。
「少年は精霊皇との約束を順調に果たしている。炎、土、鋼の闘士を鎮め、これで残すは魔王と五人の闘士……あぁ、いや。氷は結構前に倒されてたんだっけ。訂正、残り四人だ」
ワタリヨは現状を確認する。
絶望的かと思われていた勝利を何度も飾っている。
精霊皇の力。そしてクロヌスの戦士達の力。ラチェットの心。
その全てが繋がり、こうして世界を繋いでいる。
「……務めを果たしている。既に力は馴染んだようだけど」
アルス・マグナの力を、ラチェットは上手く使いこなし始めているようだ。
「”あの力は何だ”?」
だが、ワタリヨは思う。
肌身を通して感じた違和感。明らかな矛盾。想定外のイレギュラー。
「僕は知らないよ。アレは一体……」
ワタリヨは困惑を覚えている。
「……アルス・マグナがいるのなら、是非とも聞いておきたいよ」
戯れの神は再び姿を消していく。
観測。世界の監視へと戻るために。
「これは全て、君が描いた未来通りの展開なのかい?」
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