PAGE.404「霧と黒猫(前編)」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「のぉおおおッ!? あっつッ! あっつぅううッ!! 燃えるウぅうう! 俺の体が燃えちまうぅうーーーーーーッ!?!?!?」
「いや、燃えたのは本でアンタじゃないでしょうが」
飛空艇ガルドの食堂でスカルの悲鳴がこだまする。
二人が手にしていた魔導書の映像が途端に炎に包まれた。瞬間、それと連動するかのように飛空艇側の魔導書まで燃えてなくなってしまう。
「一瞬暗闇の中から何か現れたのが見えたけど……タダごとじゃないのは間違いないねぇ」
連絡手段用の魔導書が破壊されてしまった。
遺跡の奥にいた何か。魔導書はおそらく、その何かに破壊された。
向こう側で何者かにラチェット達が襲われた。オボロはテーブルの上の茶菓子を口にしながら呟いている。
「助けに行くか!?」
「誰がここの留守番をやるんだい。そこの狼のあんちゃんに任せるわけにもいかないだろうに」
分かり切った質問に分かり切った解答。
「待つしかないよ。赤い目のお嬢ちゃんに精霊騎士まで一緒なんだ。そう易々とやられやしないよ。信じて留守番しておこうじゃないか」
オボロは告げる。自分たちの仕事に専念するべきだと。
仮に一同が無事だったとして、この艇が不在であったとき。もし何者かに艇を奪われたり破壊されていたらどうするのか。責任をとれるはずもない。
「……助け、いかないのか。仲間、なのに?」
ガ・ミューラは心を落ち着けた大人組に対し問う。
「……仲間だから待つんだよ」
”信じている”。それがオボロの回答であった。
「ところでこの魔導書、まさか弁償とかしないといけないってないよねぇ……?」
同時、テーブルの上で燃えカスとなった新型魔導書を前に青ざめてもいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遺跡の先。待ち構えていたのは巨大な黒猫だった。
それは魔物なのか新種の野生動物なのか。獣は魔物のような獰猛さを持ち合わせ、その一方で人間らしい理性もチラつかせる。
侵入者。あの生物にとってラチェット達はそのような括りだ。
それ以上先へ進んでみるものならば……その爪は少年の身を切り裂き、その牙は骨ごと人間一人を噛み砕き飲み込むことだろう。
「……その先に、何かあるんだナ?」
『外の人間が知る事ではない』
否定はしない。しかし、その正体までは知らせない。
『この先にはお前達にとって地獄でしかない。引き返すのが賢明だ』
まだ誰も足を踏み入れていないであろう未明の遺跡というからには宝の山が眠っている可能性もある。しかし、この猫が守っているものは財宝なのだろうか。
その何か。それに触れることは“禁忌”であるかのように猫はそこから先へと進ませようとしない。まるで守護者のような立ち振る舞いだ。
「俺は、あるものを探してイル。三本目の“精霊皇の剣”だ。それは俺達にとっても、この世界にとっても必要なもの……この地の何処かにそれがアル」
この猫はラチェット達に向かってこう言った。
“外の人間”であると。余所者だとハッキリ言った。
その言葉に何処か特別な意味をラチェットは感じ取った。
「俺達は盗人でも何でもナイ」
この猫が何者なのか分からない。だが、ラチェットは話す。
「“ワタリヨ”からそう告げられて、ここまで来た」
戯れ神に導かれてこの場所へやってきた、と。
ワタリヨの言葉の真意がその先にあるのかもしれない。剣への答えをつないでくれた気ままな観測者……その名前を猫に告げる。
『ワタリヨ、だと?』
ワタリヨの名前を出したその時、猫の顔色に若干の変化があった。
その表情には紛れもない曇りがある。疑惑と敵意、ラチェットが口にした言葉に対し、ただ安易に口にしただけの虚言ではないかと疑いをかけている眼だ。
『……去れ。何度も言わせるな。外の人間がこの場へ来る理由などない』
どうであれ、この先へ進ませてくれる気配はない。
猫の決意はそれほど固く見える。誰一人として人間は勿論、魔物や動物に虫一匹であろうと通すつもりはないらしい。
「……つかぬことをお聞きする」
___会話の途中。
「私は貴公に聞きたいことがある」
深紅の瞳を持つ半魔族の少女。
皆が気を引かれている間、いつの間にかアタリスは一同を置いて進んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます