PAGE.403「フレーズ ミスト・フリーズ(後編)」

 

 霧の大地の真ん中で見つけた謎の階段。

 アタリスの直感。怪しい霧の中で発見された遺跡。


 アタリスが感じた何かを頼りに一同は遺跡の階段を降りていく。

「真っ暗だナ。明かりの用意が出来てるカ?」

地下遺跡の探索を開始する。真っ暗闇のこの遺跡、誰かが手を出したような形跡は一切なく、明かりとして使用される松明の跡も燭台も何も見つからない。

「勿論!」

 コーテナは腕に火をと灯し、同時に二冊の魔導書を取り出した。

『おうよ!』『私達を誰だと思ってるんだい!』

 喋った。二冊の魔導書が。二冊の魔導書は光り輝くと辺り一面を照らし出し、コーテナの手から離れ蝶のように舞い始める。


 例のテレパシー魔導書。その中でもかなり上位互換と言える代物!

 王都学会で開発された最新作! まだ数冊しか完成していないという最先端アイテムを彼等は託されたのだ!

 言葉を伝えるだけじゃない!何と、魔導書を通じてその風景を眺めることが出来る!艇でお留守番中の二人も参加できるというわけだ!


 遺跡となれば二人の助けも必要だ。大人たちの助け舟に感謝を告げる。

「手馴れてるね、皆……」

『俺達は遺跡とは着いて離れられない関係だからな。マイスターって奴よぉ』

 スカルは胸を張っているのだろう。その魔導書の向こうで。

 実際、この面々で何度遺跡に足を踏み入れただろうか。コーテナとの出会いも遺跡だったし、スカルと交流を深めたのも遺跡。オボロに至っては元トレジャーハンターだ。

 スペシャリスト勢ぞろいとはこのことである。ただ一人、付き合いの長いアタリスは当然のように松明の準備を他に任せているのが気にかかるところだが。

『このタイプの遺跡……王都の地下にもあったな』

 一直線に続くこの遺跡。このようなタイプの遺跡は一度だけ探索経験がある。王都のすぐ真下に隠れていたワタリヨの壁画の遺跡である。

『となれば、奥にとんでもない何かが隠れてると考えてもいいかもねぇ!』

『その分、罠もヤベぇだろうな。全員気を引き締めろよ』

 元トレジャーハンターのオボロと、こういった局面には何度も立ち会ったスカルは一同に警告をする。松明を持っていない面々は持っているメンツへと擦り寄っていく。

 何か罠がないかどうか。慎重に一同は進んでいく。

 構造自体は例の遺跡と確かに変わりない。今のところ罠の気配は一つもなく、一同を出迎えるかのように静まり返っている。

「何があるっていうんだヨ。こんな霧の大地の中に」

『これだけ薄汚れた感じを見るにまだ誰も足を踏み入れていない未開の遺跡ではあるだろうねぇ。くううーーッ! 本当だったらこんな場所に入ったら不法侵入で追われる身になるってのに、今の私は英雄の一味みたいなもんだから堂々と出来るは嬉しいことだねェ!』

「職権乱用じゃねーカ。騎士団にいいつけるゾ」

 ラチェットはオボロに警告する。その当の騎士であり、その中でもトップの権力を持つ精霊騎士の一人がすぐ近くにいるのだが。

「ふっふっふ」

 当のフリジオ本人はラチェットの警告を笑って聞き流している。軽いジョーク程度にとらえているのだろう。意地の悪い性格である。

「匂い、か。鼻で感じるモノはないが……肌身に何か纏わりつくような感覚はある。不思議な気分になるヨ。この洞窟はナ」

 ……妙な気配を感じる。

 ガ・ミューラとアタリスの言う何かが間違いなくこの奥にいる。直感が危機としてラチェットにそう告げていた。

「不発じゃなければいいがな」

「不発だったら、あの霧の中をまた皆で探し回ればいいだけダ」

「それが嫌だって言ってんだクソ野郎が」

 クロの毒がこだまする。

 特に怪しいものは見当たらない。罠らしきものも見当たらない。


 特に異常はない。

 今、この現地点では___


「……止まれ」

 先頭を歩いていたアタリスが一同を止める。

「……姿を現わしたらどうだ」

 松明の明かりが届いていない暗闇の先。

 その先に……アタリスは只ならぬ気配を感じ取る。




『よく気が付いたな。人間』

 暗闇の中より、その姿は現れる。

『……どうやって、ここへ足を踏み入れたのかは知らないが』

 毛むくじゃらの前足。先端には一メートル級の爪。

 四つ足で歩くは通常の数百倍以上の大きさはある巨大な壁。


 揺れる耳。明かりに反射して光る瞳。ワイヤーのように鋭い髭。

 ギロリと睨みつけてくるその巨大な何かは……“黒猫”だ。


『我からの返答は一つ』

 突然現れた超巨大な黒猫が進路方向を塞いでいる。

 

 アタリスの直感。そして、ガ・ミューラの予感。

 二人の言葉通り……そこにいたのは見るも圧巻の巨大な“ケモノ”の姿だった。

 

『早々に立ち去れ!!』


 ___霧が立ち込める。そして一同を包み込む。



 瞬間、体に痺れ。

 宙を浮いていた魔導書は……跡形もなく燃え散ってしまった。

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