PAGE.377「破滅の砂蟲」
再び巨大生物の活動が確認された。
既に門の前に配置されていた騎士と魔法使い達は迎撃へと向かっている。別動隊も次々と戦場へと派遣され、例の作戦を開始する為に各エージェント部隊の配置も決行される。
「よし、行くよ! 二人とも!」
集落にて一匹のドラゴンを呼び寄せるロアド。三人を軽々乗せられるドラゴンへとまたがったロアドの口笛に合わせ、コヨイとアクセルもドラゴンへと飛び乗っていく。
「といっても、私に何が出来るかって話ですけどね。刀一つ向かってあんなのに飛び込むなんて『餌にしてくれ』って言ってるものですよ」
「とか言いつつも囮を買って出て毎回生き残ってるじゃないの。お前のしぶとさは男の俺から見て異常だぞ」
ホウセンから教わった刀捌き。そして元より高い運動能力と逃げ足の速さのおかげでワームの猛攻から逃げきれている。それどころか、ワームの集中と削ぐという目的すらも果たしているために戦場へ投下されるようだ。
本人としては死に物狂いであるために勘弁してほしいと愚痴を吐いているようだが。
「まあ、安心しなって! 餌になりそうだったら空から助けてやるからよ!」
「そう言って制御を怠って自ら地面に刺さって餌になるような真似はやめてくださいね」
「そう何度もミスってたまるか! こっちも必死やってんだ!?」
コヨイからの軽口に対しても爽快な返し。三人は出撃前の緊張ほぐしが終わると、空へと飛び立ち始める。
「アクセルー! ロアドにコヨイー!!」
「おっ、コーテナちゃんじゃないの」
出発前に駆け付けたラチェットとコーテナ。既にドラゴンは空に飛び立っているが、彼女の手を振る姿と元気な声は高所からでもしっかりと聞こえるし見えている。
「んじゃ、行ってくるー! お前達の方も頑張れよー!」
ロアド、アクセル、コヨイの三人を乗せたドラゴンは戦場に向かって飛び去って行った。
「……おット」
アクセル達が移動を開始した途端、王都で軽い地響きが起こる。
あの怪物が暴れまわってる為に起きている地響きとは違うようだ。これは近くで巨大な何かが起動を始めた音。
「あれがアルスマグナの粛清兵器の模造品……」
学会の塔に装着された魔道砲のチャージが開始された合図だった。
学会には数百万冊の魔導書が保存されている。精霊皇が使用する殲滅兵器の波動砲に届くかは分からないが、怪物一体を消し炭にするエネルギーの充填する料としては申し分ないくらいだ。
「相当なエネルギーだナ……だが持つのカ? 世界の存続を左右するパワーを、その世界の一つでしかない建造物ガ……」
あの怪物とやらの息の根をとめるのは今日。エージェント部隊が多く駆り出されているのも今日で決着をつけるためである。
数百万冊にも及ぶ魔導書から収拾されていくエネルギー。学会が総じて作り上げた殲滅兵器の作動もそう遠くはない。
「まぁ王都自慢の天才達が作ったんだからその心配はいらねぇカ……だがそれ以上に気になるのはヨ」
集落にて二人ぼっちになっていたラチェット達の元へ。
「その“他の魔族”って奴」
一人の精霊騎士がやってくる。
「ごめん。待ってた?」
____イベル。
「……待ってたヨ。心の準備はまだだったがナ」
彼女がここへやってきたということは、何かしら不穏な報せが精霊騎士から運んできたという事。外で暴れまわる巨大生物よりも厄介な嵐の予感にラチェットはドっと息を吐いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
王都の門の外。狂い果てる大地で暴れまわる巨大ワーム。
その名は“地の闘士・クーガー”。
魔王復活直後に空いていた地の座に選ばれた魔族の戦士の一人。その忠誠は紛れもなく本物であり……人間という存在を確実に抹消し、大地を手に入れると宣言までしてみせたという強者であった。
しかし、クーガーは魔王により異常な量の魔力を体に注ぎ込まれ暴走。以前のような姿は一切見受けられず、破壊への本能だけで暴れまわるだけの怪物へと変貌。姿形も以前のそれとは全く違うものへと生まれ変わってしまったようである。
【goincoeiifdoijgoicuibdrgfs…!!!】
クーガーは次々と排除のため集ってくる蟻のような人間達を次々と薙ぎ払い、押しつぶし食らい尽くす。チンケな魔法なども彼にとっては小雨程度のシャワーのようにしか感じられない。数で押そうにもその頑丈さを前に圧倒されていく。
【doinpoidoigaudfpondaidu__!!!!!!】
まさしく、地の闘士と呼ばれるに相応しい大地の支配者。瞬く間に、送り込まれた騎士達も甲冑ごと粉々に打ち砕いていく。
【____oiefdoiッ!?】
シャワー程度にしか感じられなかった頑丈な装甲。その巨大な体を吹っ飛ばす光の魔術が数発連続でクーガーへと襲い掛かる。
「ミシェル! 無理はしすぎるな! 奴を撃つのは後方の波動砲だ……俺達は奴の気を引くことだけということを忘れるな!」
「わかってる」
後方にはシアルが得意の魔導書の魔法によって連続攻撃。あの巨大な体を怯ませる威力を誇るレーザー光線を次々と発砲し、クーガーを押し戻していく。
それに合わせ、レーザー光線に紛れてミシェルヴァリーが大剣片手に突っ込んでくる。
「わかってる割には前線に出過ぎてるって言ってるんだ! コッチが手を付けて礼を言いたくなるほど助かっているのも事実ではあるけれど!!」
その小柄な体からは想像も出来ない馬鹿力。大地に穴をあける腕力により放たれた一振りはクーガーの顔面に直撃すると、その巨大な体を数メートル先まで吹っ飛ばしてしまう。
「ここから先は通さない」
そこへ追撃を入れるのは精霊騎士のディジー。
「尊き地に、お前のような邪悪を通すわけには行かない……!」
その巨人の体と精霊の力から放たれる一振りは勿論の事、ミシェルヴァリーに後れを取らないどころか、倍以上のパワーを与える。
【odiahoiad!! Ihighoid!! Oihdoaigdoiadoiamdpoifpoid!!!!】
「黙れ」
地面を転がったクーガーに対し、ハルバードをハンマーのように叩きこむ。
大地が鳴く。周囲の地響きは立っていた騎士と魔法使いから自由を奪っていく。ヒビ割れ多少の崩れを見せ始める大地の戦慄に身震いを起こす。
「……浅い!!」
ディジーは一言言い放つと、慌ててクーガーから距離を取る。
【_______!!!!!!!】
……クーガーは大きな呻き声をあげて再び起き上がった。
大したダメージは一切受けていない。破壊のひと時を邪魔されたクーガーの叫び声は怪鳥の鳴き声とも竜の咆哮とも違う。崩れていく大地の悲鳴そのものであった。
「……アイツ、また固くなってない?」
「気のせいって思いたいですよね!」
ドラゴンにまたがり現場へと現れた一同。ロアドの嫌な予感満載の言葉に対して、自信がなくなるからこれ以上は言わないでほしいとコヨイは頭を片手で抱える。
「何はともあれ、やってやろうじゃないの!」
アクセルは合図と共に飛び降りると、得意のジェットにて空へと舞い上がる。以前とは違い相当練習したのか安定した飛行で空を舞っている。
「「言われなくても!」」
ロアドもコヨイを一度地面におろす為に、混沌極まる大地の戦場へとドラゴンを急降下させた。
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