PAGE.263「獄門岳 デスマウンテン」


 地図に表記された名は”地獄への入り口”。

 その地がデスマウンテンと呼ばれている由縁を知っているだろうか?

 

 その名の通りだ。

 その山は数多くの死を呼んだ大地……数多くの戦士が葬られた死の山。


 魔族界戦争時。全ての悲劇の始まりとなった地。

 古代人と魔族との戦争。その全ての戦いが始まった瞬間。全ての元凶ともいえる大いなる現象が今も尚のこる。地獄の入り口であるのだ。


 かつて、魔族界側の何者かが開いたとされている魔族界ホール。

 その本丸が発生した大地とだけあり、デスマウンテンは魔法世界クロヌスの中でも歴史的には一番の被害を受け、千年たった今でも、その地は魔族界側の所有物と言われても何も過言ではなかった。


 この地にて数多くの戦士が魔族界に挑んだ。だが、その圧倒的な質量を前に葬られた。精霊皇が戦いを終えたその瞬間まで、その死人の数は今となっては記録に残す事すら出来ない数であった。


 残っているとしても、名高い戦士の名前だけ。それ以外の戦士たちは歴史の闇に、名もなき墓石へと葬られている。


 戦争が終わって数百年近くの年月が経っても、この山には魔族が潜み続け、どの時代を迎えようと“死の山”という呼び名は変わらないままだった。



 その大地にて再び門は開く。

 迎える為。新たなる魔王の存在を送り込むために。


 予言よりも一年早いこの刻に……魔族界は牙を剥いたのだ。


「ここが、デスマウンテン……」


 地図や写真で見るよりも随分と迫力の違う山。

 死の山と言われているだけあり、その山には森や湖など自然の恵みは一切ない。殺風景な荒地に渓谷、そして地面のあちこちから排出されている不気味な色のガス。


 人が好き好んで足を踏み入れるような大地ではなかった。

 地図でしか見たことないために、初めて足を踏み入れた一同はそのあまりにも殺伐とした風景により一層緊張感が高まっていく。


 おふざけ感覚で足を踏み入れることは許されない。

 しかし、ここにいる一同はただの興味本位でこの地に来たわけではない。


 息を吐く。コーテナの居場所を探れるのは、世界の脅威である“魔物”の存在の察知が出来るラチェットだけが頼りである。


 デスマウンテンまで移動中、休んでこそいたが結局仮眠一つ取らなかったラチェットは仮面にそっと手を伸ばしている。


 ___魔王は山頂を目指している。

 ___魔族界は魔王の復活を心から望んでいるようだ。


 微かに聞こえる精霊皇の声。

 ラチェットが追い出した英雄の囁きが頭の中で響いている。余計な情報以外が頭の中に流さないよう、慎重に察知を進めていく。


「……!!」


 瞬間。頭の中に突如現れる警告。


「ロアド! 避けろッ! “下から来るぞッ”!!」

「!?」

 即座に騎手へ指示。しかし、ロアドはそれに反応するのがあまりに遅かった。


「くっ!?」

 

 遅すぎた故に、奇襲を許す。

 

 地上からの連続砲撃。胴体そして羽、双方まともに砲撃を浴びてしまったドラゴンは悲鳴を上げながらデスマウンテンの地へ降り立っていく。


「全員捕まって!」

 振り落とされない様にとロアドは指示をする。

 彼女は幼い頃から竜を操ってきたドラゴンライダーだ。親に仕事を任されるほどに腕の立つ一面をこの場で限りなく発揮する。


 着地前、ドラゴンに致命傷を与えない様に手綱を引いて、ドラゴンの意識を集中させる。

 墜落だけは免れる様に鞭を入れたのだ。ドラゴンは寸前で意識を取り戻し、ギリギリまで安全な着陸を行おうとする。


 ……着陸。いや、四分の一近くは結果として墜落と言った方がいいだろうか。

 着陸と同時にドラゴンに乗っていた一同が振り落とされてしまう。少年少女達は背中から地面に落ちてしまい痛める。


 アタリスだけは着陸の失敗を予見していたのか、その前よりもドラゴンから飛び降りていたようだ。一人だけ棒立ちしている。


「……手荒な歓迎だな」


 アタリスの視線の先。

 思った以上に早すぎる……いや、むしろ到着して直ぐにやってきたもおかしくはなかったのか。


 始まる。

 世界の命運をかけた……死の戦争が。

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