PAGE.233「神秘なれ、王都遺跡探検隊(その3)」


「……んで、遺跡の謎の解析に名乗りを上げたのはいいんだけどヨ」

 学会の地下深くに眠る地下遺跡。

 その壁画にて見られた謎の変化。そして、その壁画の先に何かあるという言葉を受け、その前代未聞の謎解きに名乗りを上げたのは、元トレジャーハンターのオボロ。


 その自信、いつものオボロとは違う。

 何処か気合の溢れる彼女に一同は全てを託したのである。


 だが、しかしだ。


「さーてと、火薬はこれくらいでいいかねぇ」

「「結局、爆破かよッ!!」」

 

 何が謎解きだ。何が自信ありますだ。


 ___初っ端から思考を放棄しやがった。

 数多くの山岳を爆破してきたオボロ。それはハッキリいって汚名ではあるのだが、数多くの絶景を吹き飛ばしてきたその威力は確かに筋金入り……この頑丈な壁画を吹っ飛ばすのは余裕であるとは思われる。


「……なぁ、王都の中でも一番の組織が保護してきた遺跡をドカンと一発やる気だゾ。本当に大丈夫なのかヨ」

「可能な限り調べましたが、この遺跡には隠し扉のような仕掛けは何一つありませんでした。となれば破壊するしかありません。数多くの遺跡を回ったという彼女の勘とやらを信じましょう」

 何という器の広さだろうか。

 精霊騎士団の騎士団長、もとい姫君の側近という立場の男。大物になる人間は器量に底がないと聞くがまさにその通りだ。


 一同は息を呑む。

 果たして、彼女はうまい具合に爆薬を調整することが出来るのだろうか。


「……ちなみにだが、失敗して大惨事になったらどうなル?」

 万が一、爆発力の調整にしくじって、ここにいるメンバーが全員生き埋めにならずに生き残った場合。

 この遺跡に大きな傷跡を残しただけの場合、彼女にはどういった結末が待っているのかを念のため聞いてみる。


「打ち首ですね」

「晒し首だろうな」

「処刑、この場で処断、する」


 ___誰もかしこも穏やかじゃない返答が返ってきた!!

 精霊騎士団とエージェントから返ってきた言葉は何れも残酷な罰であった。


「ちょっと! いきなりハードルをあげるのは勘弁してくれないかい!?」


 オボロは青ざめた表情でこちらに振り返ってきた。

 当然だろう。こんな土壇場で緊張を高めるような脅しをさせられたら弱音も吐きたくなる。ただ、この場に対しては『失敗しないためにも前を向け』としか言いようがない。


「ふぅ……まぁ、失敗する気は更々ないんだけどねぇ」


 いや、しかしそれは妥当なのかもしれない。オボロもそういった返答が戻ってくるのは前もって理解している。ここはそれだけ神聖な場所で数百年守り続けてきた貴重な聖域。わかってもいなければ、あんなに力強く名乗りを上げるはずもない。


「それくらい、どうってことはないよ」


 堂々とした表情で、仕掛けを施した。



「ここに爆破を一点集中、調整完了……よしっ!」

 速攻で作り上げた爆弾を壁画の真ん中へと設置する。

「全員離れな!」

 オボロが爆弾に触れ、自動的に爆発するよう魔法を発動した後に全速力で壁画から離れていく。

 あの爆弾はきっとダイナマイトに匹敵する火力に調整されたのだろう。吹っ飛ばされないうちにとラチェットにエーデルワイス達も壁画の間から一度離れていく。


「3、2、1……はいっ!!」


 爆破。

 シャレにならない音が遺跡内部で鳴り響く。


 ……この爆破のせいで外に軽く地震が起きていないか心配だ。少なくとも、大災害には及んでいないことを祈ろう。


「どれどれ……」

 爆破し終えた壁画の間へと一同は戻っていく。

 爆発による轟音こそ激しいモノであったが、遺跡全体に轟くまでの火力はなく、遺跡が崩れるような事もなかった。


 だが、今の爆発で間違いなく壁画は吹っ飛んだだろう。

 道は開けているのか、それだけを祈りつつ煙が消えてなくなるのを待っていく。


「それ、パタパタっと」


 手うちわで扇ぐような動作をとるオボロ。

 火薬による焦げ臭い香りの混じった煙が徐々に晴れていくと、最早壁画としての面影すらなくなってしまった、抉れた壁が徐々に姿を現していく。


 そして、同時に現れる。

 壁画の向こう……その先へと続く、大きな“抜け道”が。


「よっしゃぁ! 大成功!」

 これにはオボロもガッツポーズ。

 触れたものにエネルギーを送り込んで爆破させる、もしくは爆発の威力を高めるという能力を器用に活かした技術。この技術を生かして数多くの遺跡を探索してきたという武勇伝は伊達ではなかったということである。


「……行きましょう」

 ここから先は誰も足を踏み入れたことがない未知の領域だ。

 一同は喜びに耽る間もなく気合を入れ直す。未知の世界を前に呼吸が落ち着きを失っていく。



 一歩ずつ、松明片手に慎重に歩いていく。

 右左、しっかりと確認は大事。上下にも何かトラップがないかと安全確認を怠らず、曲がり角一つ出てくることのない真っ直ぐな道を進んでいく。




「ここが……」


 そして、一同は到着する。

 広間。先程訪れた壁画の間と同じような……内装及び壁の造り、何もかもがずれることなく酷似している壁画の間。


 唯一違う個所があるとすれば……その空間に飾られた壁画であろうか。

 

 それは何かのメッセージが刻まれた壁画ではなく。

 ステラが数カ月に渡って張り込みで調査を調べていたものと“全く同じような壁絵画”がその広間に飾られていた。


「この絵は……」

 オーブァムは壁画の間に飾られた大きな絵を眺めている。


 羽の生えた少年らしき人物が太陽と並ぶように佇んでいる。

 その少年の周りにはいろんな生物が円を描くように並んでおり、何れも統率のないポーズを取っている。


 喧嘩、仲良し、そして合体。

 生物という存在。そのシステムを描いた円の中にいる孤独な少年。


 またも独創的な絵が大きく壁一面を飾っていた。


「これは、精霊皇ってやつの絵なのか……?」

 スカルが壁絵画を見上げる。

 羽の生えた人間。確かにこの人物は人間というよりは、ステラが調査している壁絵画に描かれていた精霊という存在の方が近いかもしれない。


「いや、違うね」

 しかし、その考察をオボロは否定する。


「あまりに幼いよ。見て目がさ」


 ……確かに何か違う。

 あの壁絵画に描かれていた天使はこんなに幼くなかったし、顔つきや体つきも中性的な大人の男性であった。ここに描かれている少年は精霊皇とは違う。


「これは……“ワタリヨ”だね」

 オボロは生き物の観覧車の中に描かれている天使の少年の名を口にした。

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