PAGE.232「神秘なれ、王都遺跡調査隊(その2)」

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 古代文明の記録が残る遺産。

 その大半が古代人の使用していた住居か研究施設とされている。


 彼等は研究する地域、住まう場所は魔族界戦争という状況が故に選んでいる暇がなかった。森の中にあれば海の海岸近く、渓谷の中にもあれば意外にも近所にあったりなど、うまく探せば“見つけること自体”は割と簡単なのだという。


 そして、遺跡の中には他のと比べて異質なものも存在する。


 “地下遺跡”。

 学会などに所属する調査班の活躍によって、クロヌスの大地の地下深くにその存在を発見した者まで現れた。

 魔物からの進撃を防ぐため、魔族界からの災厄から免れるために、他の遺跡とは全く目的の違う施設を地下深くに数か所残したと記録が残っているのだ。


 そして、ここ王都ファルザローブ。

 この王都魔法研究学会の地下深くにも……“その遺跡”は存在するのだ。


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 王都学会には関係者以外立ち入り禁止の秘密のフロアがある。しかも、その関係者の中でも限られた人間か精霊騎士団のみしか立ち入りが認められておらず、学会の中でもトップシークレットの存在となっている。


 ただ、場所が場所なだけあって、噂こそ立ち込めてしまっているようだが。根っからのトレジャーハンターである某一名の耳に入るくらいには。


 今回は精霊騎士団の特例を持って数人のメンバーが立ち入りする。

 精霊騎士団のエーデルワイスにイベル、学会所属のエージェントであるオーブァム、あとは遺跡調査の補助として呼び込みを受けた何でも屋スカルのメンバー数名。


 ラチェット、スカル、そして呼んでもいないオボロの三人だ。

 以上のメンバーで王都学会の地下通路を経由した後に現れる近い遺跡へとつながる階段……地下水道なんかよりもかなり深い位置にある遺跡へと続くその道を一同は松明片手に進んでいく。


 数時間後。

 一同は、足を踏み入れること自体が貴重な経験とされる近い席へと到着した。


「ひゃぁ~! ここが王都の地下遺跡かい……まさか、引退後にこの目で拝める日が来るなんて思いもしなかったよ!」

 元トレジャーハンターだというオボロは初めて足を踏み入れた、王都の地下遺跡に心を躍らせている。玩具を買ってもらった子供のように愉快に体を跳ねさせていた。


「緊張、隔離、お兄様……」


 未知の遺跡を前に心を落ち着かせないといけないはずが、オボロのハイテンションのおかげであっという間に緊張感が抜けてしまったものである。


「あはは……楽しむことは大事ですが、気だけは抜きませんように」

「いやはや、すみません」

 オボロの代わりにスカルが謝罪する。

 まだ彼女が何でも屋スカルに入ってから数日しか立っていないが、スカルは彼女の事を何でも屋のメンバーとして出迎えているようである。すっかり彼女の上司面だ。


「まぁ、無理もないでしょう。王都の地下遺跡に入れるのなんて、学会の一握りのメンバーだけですから。自分だって初めての地下に踊りだしたい気分なんですから」

 オーブァムも学会のメンバーではあるが地下遺跡に入れるほどの権限は持っていない。今回足を踏み入れることが出来たのも、精霊騎士団のメンバーである彼の御指名あればこその話である。


 ここ最近の事件の連続、それもあってエージェントでさえも多忙。手が空いている数名をエーデルワイスが指名。

 彼等がここへ足を踏み入れたのは流れではあった。だからこそ、そのラッキーに選ばれたメンバーの一部は愉快にもなりたくなる。


「……しかし、今までと違って随分と寂しいな、ここハ」

 ここ今まで結構な数の遺跡に足を踏み入れたラチェット。

 しかし、今までと比べると何処か寂しさを覚える。そう思える理由は一つ、この遺跡は歩いて数分で“曲がり角一つない一直線”の道なのである。


 遺跡=何処にお宝が隠されているか分からないトラップ付きの大掛かりな迷路というイメージがあるラチェットにはそう感じてもおかしくはない。


「地下遺跡ってこんなものなのカ?」

「……いえ、地下遺跡も従来の遺跡と変わらないものがほとんどです……しかし、この遺跡だけがこのように一直線。何処か異様なのです」

 エーデルワイスはこの遺跡の事について語りだす。

 ここ数年で発見されている数か所の地下遺跡も他の遺跡とは何も変わりはしない内装となっている。ところがこの遺跡だけが入り組んだ構造になっていないのだ。


「ただ真っ直ぐな道を進んだ先、そこには巨大な壁画が存在するだけ……先代の騎士様が“この遺跡には何かあるかもしれない”と踏んで、このように学会によって隠されるようになったのです」


 学会の主な目的は魔法の研究と遺跡の調査。

 むしろ遺跡の調査がメインとなっており、魔法研究はその合間。魔法学会はこの遺跡を研究する為に設立されたのだ。


「んで、数年かけた調査の結果が?」

「御覧の有様です。お恥ずかしい限り、中々結果が得られません」

 エーデルワイスは申し訳ないように頭を下げる。


「……ですが、この遺跡で変化が起きたんです。エージェント・ステラが調査していた壁絵画と同じような現象が」

「壁絵画の現象、だト?」


 壁絵画に現れたという巨大な文字。

 それは何者が残したのか分からない謎のメッセージ。


 それと似たような現象が、この遺跡にも発生したのだという。


「発見されたのは数日前。私達は準備をした後、調査を行うことにしました」

「よく気づけましたね。ここへ足を踏み入れられるのは年に二度あるかどうかだというのに」

 オーブァムは学会所属であり、遺跡に立ち入りは許されていないものの、エージェントという立場上、上の人間ではあるためにスケジュールについては詳しい。

 

 遺跡の調査は一年に二度あるかどうか。ここ半年は誰も遺跡に足を踏み入れていないというのに、その現象によく立ち会えたとオーブァムは驚いている。


「発見、私がした」

 イベルが元気よく右手を上げる。

 小柄な身長、大きなツインテールが尻尾のように揺れている。


「……成程、イベル様なら発見できる可能性もある。しかし、まさか遺跡の変化にまで敏感だとは」

「なぁ」

 ラチェットはふと気になった事があったため、間に割って入る。

「コーテナも言っていたが……コイツはやけに感が鋭いと聞く。それは生まれながらの直感なのカ? それとも純粋に」




「……ッ! 何かいる!」


 ラチェットの質問は最後まで口にされない。

 

 何かに反応したイベルは会話の途中で、この地下遺跡の通路の先にあるという壁画の間へと突き進んでいく。


「イベル!?」


 それに反応した一同も慌てて追いかける。騎士団の中でもフリジオの次に素早い身のこなしを持つイベルの足の速さにどんどん距離を離されつつも、その背中だけは絶対に見逃さない位置だけはキープする。


 数分。全力疾走で追いかけた一同は壁画の間へ到着。

 鍛えているオーブァムとエーデルワイスは軽く息を荒くしており、その後ろでは突然の全力疾走に満身創痍のラチェット達がいる。


 壁画の間。

 巨大な壁画は光を放っていない。読むことすら難しいくらいに崩れてしまった壁画が大きく壁一面に貼り出されている。


「……索敵」

 イベルは耳を澄ませ、あたりを見渡す。

 しかし、中々標的が見つからないのか、その索敵には結構な時間がかかっている。


「誰もいねぇぞ?」

 他のメンバーも壁画の間を見渡してみるが、やはりそれらしき何かは見当たらない。壁画の間はただ静かなだけで何もない空間である。


「ん?」

 全員があたりを探っている中。

「んん?」

 オボロが何かに気付いたような素振りを見せる。


「どうした、オボロ?」

「なぁ、あそこの壁。あそこだけ作りがおかしくないかい?」

 オボロが指さした位置。

 それは一面の壁画。その真下のど真ん中の位置である。

 

「……確かに」

 崩れまくっているが故に壁画は最早崩されたパズルのような見た目になっている。その散々な見た目故に何処か一つ変でも全くおかしくはないと思う風景。


 ……壁の見た目。

 そこだけ、全く絵柄の違うパズルのピースが埋め込まれたような場所が一つだけ、その壁画に存在する。


「だが、何もないな」

 押してみるが隠し扉というわけでもない。

 近くに何かおかしなギミックがないかと調べてみるが、やはりそれらしきモノが見つかる気配がない。


「おかしいですね」

 ギミックはない、トラップもない。壁には特に変わった様子はないと思われる。

「このような事、前はなかったのに」

 しかし、明らかに壁の作りがおかしい箇所が一か所だけなんて事例。ここ数年の間には一度もなかったのだという。

 数百年にわたって調査され続けた壁画だ。こんなすぐにでも分かるようなものが目に入れば一つは情報が入るはず。


「……反応」

 イベルはその壁に触れる。

「この先に反応、索敵、誰かいる」

 この壁の向こうに誰かいる。その一言に一同は身構える。


「この壁画の向こうに何かあるというのか!?」

 オーブァムは写真でしか見たことがない壁画を前に叫ぶ。


「しかし、この場所には何処か隠し扉のようなものはありませんし、この壁画も何か仕掛けがあるとは……」

「なぁ、騎士様?」

 どうするか迷っているエーデルワイスを前に、一人名乗りを上げる。


「ここはトレジャーハンターの腕を頼っては見ないかい?」

 数多くの遺跡に足を踏み入れたというオボロ。

 この壁画の先にある謎の存在への調査の肩入れを手伝わせてほしいと踏み込んできたのである。

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