PAGE.224「殲滅戦空(その2)」

 黒い軍勢。

 飛行機のような何かと、人の形をした軍隊の群れ。


 再び、一同に向かって牙をむく。


「ったく! 面倒様々だなッ!」

 ソージは誰よりも先に刀を鞘から抜くと、こちらへ迫ってくる群れへの対処を開始する。

「皆さんは逃げてください!!」

 シルファーもソージに続いて、両手に風の刃を形成し、空から迫りくる黒の軍勢相手に攻撃を開始する。


 とてもじゃないが生徒相手にどうにかなる相手ではない。

 

「逃げられる状況じゃないだろっ! これはっ!」

 これだけの数だ。司令塔である飛行艇を止めない限りは逃げ切れる状況ではない。

「なんで、人類側の兵器が人類に攻撃してんだよッ!?」

 アクセルは逃げも隠れもしない。自分でも倒せる限りの敵は足止めするとその場で戦闘態勢に入る。


「クロ! 離れないようにね!」

「……!!」

 足を震えさせながらもルノアはこの中でも一番戦闘慣れしていないクロを庇う様に、背中のキャリバー・ヴォルフを構える。

 ルノア自身もはっきり言って戦闘慣れしていない。だが、この場に残る皆を残して逃げるわけにはいかないと彼女自身も覚悟を決める。


「はぁっ!!」

 コヨイはただ一人。

 黒の軍勢の中へと突っ込んでいく。


「コヨイッ!?」

「……ミシェル。頼む」

 一心不乱。闇雲に黒の大群へと刀片手に突っ込んでいくコヨイを見兼ねてシアルが相棒のミシェルヴァリーへと援護の要請をする。


 ソージが近くにいるとはいえ、あれだけの数だ。彼女をカバーするには人員が限りなく足りない状況であると判断した。


 ……最も、それ以前の問題もあるわけだが。


「了解」

 ミシェルヴァリーは大剣を片手にコヨイの援護へと向かう。

 王都に所属するエージェントの中でも数えきれない数の修羅場を踏んだ戦士の一人だ。コヨイの背中は彼女に任せれば問題はないだろう。


「ステラ、俺を乗せろ。空から艇を撃ってみる」

「……魔法は効いてないようだったけど、それでもいいの?」

「試せる限りはやってみる……これだけの数、急いで手を打たないと“全滅”するぞ」

「……わかったわ」

 眼鏡の位置を正位置に戻し、指を鳴らすステラ。


「あまり無理はしないようにね。貴方、体はあまり丈夫じゃないんだから」

「言われなくても……それくらい制御する」

 白衣の胸ポケットから三枚の金属板を取り出す。三枚を合成し、即座の錬金によって彼女の最高傑作のひとつである怪鳥のゴーレムが出来上がる。


 怪鳥に乗ったステラとシアルは大空へと羽ばたく。艇の破壊が無理だとしても、空から迫りくる黒の大群を撃ち落とすくらいはやっておかなくてはならない。


 この艇の大群を止める方法……それを探さなくては。


「ラチェット! 動けるか!?」

 未だに苦しみから解き放たれないラチェットの体をスカルは揺する。


「スカル! ボクがここを守るから、ラチェットをお願い!」

「やれやれ……楽しむ余裕を持つのは、少しばかり厳しいか……!」

 コーテナとアタリスは立ち上がる。

 ラチェットが動けるようになるまでの時間稼ぎ。こちらに迫り寄る黒の軍勢を相手に堂々と立ちはだかる。

 

 華奢な指先。可憐な瞳。

 それぞれが標的を捕らえ、照準を定めていく。


「しかしどうする、コーテナよ。これは骨が折れると言っても過言ではないぞ」

「どうにかするよ! ラチェットには指一本触れさせない! それに……」

 コーテナはそっとアタリスへと視線を向ける。


「アタリスも手伝ってくれるんだ。きっとどうにかなる……アタリス、『骨が折れる』としか言わなかったよね? それってつまり、この状況を耐えきるのは容易いことって意味でしょ?」

「……あっはっはッ! どこぞの小僧と同じ軽口を叩くとは……たくましいなッ!」


 人間とは影響される生き物だ。

 この少女も強くあの少年に感化されている……危なっかしい一面こそ変わらないが、その愉快気な言葉にはアタリスも大笑いする。


「友からの期待に応えなくてはなッ!」

「頼りにしてるよ! アタリス!!」

 黒の軍勢を前。コーテナとアタリスが覚悟を決める。


「……む?」

 その最中。

 その二人を前に、三人の戦士が現れる。


「……どういう風の吹き回しだ?」

 その戦士は何れも見慣れた面々。


「この男はお前達にとっては脅威でしかないと言ったはずだ。それを“庇う”真似をするとはな」


 光の剣。

 目には見えない透明な刃。

 その二人の背後にて、複数の魔導書を構える男。


 フェイト達が、ラチェットを守るように黒の軍勢を前に立ちはだかる。


「“脅威”ではない。“監視対象”だ」

 アタリスの問いにフェイトが黙々と答える。

 振り向きはしない。黒の軍勢にのみ、その光の刃を突きつける。


「私達の任務はその男の素性が分かるまで監視をすること……そして、危険が及べば守れとも言われている。その男は騎士団長のご友人であると聞いているのでな」

「そういうこと。確かに彼を危険視はしているけど……魔王であるかどうかが分かるまでは大事な学園の仲間なんだ。それに」

 コーネリウスは振り向くとそっと笑みを浮かべる。


「彼の活躍で王都が一度救われているからね。その恩はしっかりと果たす。報われてやらないと」


 フェイトとコーネリウスは互いの背を任せるように黒の軍勢へと突っ込んでいった。


「お前達は出来る限りその男から離れるな……荷物を抱えながらの援護など足手まといだ」

 フェイトとコーネリウスのコンビネーション。そこへ横槍を入れんとする邪魔者相手にエドワードも的確な援護を入れていく。

 

 これが学園のトップに躍り出る面々の活躍。その能力。

 卒業後にはエージェント入りが確定しているという実力は見事なものである。その力を前にコーテナは圧倒される。


「全く。空気が読めぬのは相変わらずか」

「……ありがとう!」

 コーテナは三人の気遣いに感謝し、アタリスと共にラチェットの護衛に回る。




 ……防戦一方。

 エージェントやアクセル達の活躍により黒の軍勢は減ってこそいるが。



 無限に産み落とされる黒の軍勢。

 やはり、あの艇をどうにかしない限りは無尽蔵に敵が湧き上がってくる。



「はっ……!」

 コーテナは気づく。



 まただ。また、あの砲筒が光っている。

 しかもその銃口は……ラチェットのいる方向へと向けられている。



 感づく。

 その場にいた全員が閃光の存在に感づく。



「止めろーーーーッ!!」

 シアルは空中から可能な限りの魔法を撃ち放つ。


 その場にいた面々も遠距離射撃が出来るメンツは一斉に砲筒に目掛けて発砲を繰り返し、アタリスのその距離から再度連続爆破を試みる。



 ……魔法を何一つ通さない障壁。

 砲筒にて、特大レベルの魔力のチャージが完了されていく。



(まずい……)

 コーテナは固唾を呑む。


(このままじゃ……!!)

 後ろで震えるラチェットを背に。


 コーテナはこの上ない恐怖に蝕まれた。

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