PAGE.216「サマータイム・ミッション(その4)」


 孤島到着一日目、夜。


「……んで、結局夜になるまで付き合わされたと」

「その通りだナ……」

 彼等が訪れた孤島には本拠地となるアトリエが存在した。この島はソージ達賞金稼ぎ同盟のカルボナーラが安息の地として、王都から許可も取らずにテリトリーとして使用しているらしい。

 

 アトリエハウスのリビングにてラチェットは疲れ切ったのかソファーで伸びている。


 完全に仕事の存在を忘れていたのか、少年少女達の海遊びはヒートアップしていた。

 コーテナに色んな所に引っ張りまわされるわ、アタリスに何か飲み物を買ってくるようにコキ使われるわ、アクセルとビーチフラッグやらビーチサイドのスポーツの勝負に付き合わされるわで中々解放されず、気が付けば夕方。


 少年少女達も我に返って、仕事の存在を思い出す。全員の見事なリアクションのかぶり様には明らかにわざとだと言いたくなりそうになった。


 これだけ遊んだ後に仕事となれば支障が出る。今日はゆっくり休んで後日肝心な仕事に取り掛かることにするとソージから提案されることとなった。


 魂が抜けたかのように真っ白になっているラチェット。海でのエンジョイがここまでハードなものだとは思わなかったようである。

 ちなみにコーテナ達は上の階の寝室にて枕投げをやっている。完全に旅行に来た学生気分で注意する気も失せてしまう。


「まぁ、ひとまずお疲れさん」

「ああ……」

 用意されたトロピカルジュースが汗ばんだ体にしみる。のどごし最高のひんやりジュースにラチェットはオヤジ臭い唸りを上げた。


「……援軍がこんなんじゃ後先が不安ね」

 眼鏡をくいっとあげた後に指を鳴らす音。

「全くだ」

 小柄な少年らしい声であるが、その主は実は二十代を余裕で超えている。


 一足先にこの島へやってきていたというエージェント。

 それは王都学会のメンバーであるステラに、魔物狩りのスペシャリストの一人・シアル。見慣れたメンバーがアトリエでくつろいでいるラチェットに呆れた返事を返す。


「ごめんなさい……」

 実をいうと、スカルもその後、せっかく海に来たのだからと少年少女達に混じって遊んでいたのである。

 こちらのリラックスタイムが終わるまで待っておくとステラ達は空気を呼んだらしいが……一向にやってこないために、ここアトリエでキリキリと苛立っていたようだ。


「仕事だということをわかってほしいものね」

「全くだ」

 仰る通り。返す言葉もありませんとスカルにラチェットは頭を下げる。

 

「……まあ、かくいう私達も一日目は海で時間潰したわけだけど」

 ミシェルヴァリーがボソッと一言余計な言葉を漏らす。

「「……」」

 それを口にされた途端に二人揃ってそっぽを向いてしまった。

 この二人も誘惑に負けたようだ。二人は収入からして海に行ける費用は持ってはいるものの、王都のエージェントという立場上、バカンスという存在にはもちろん、休暇にすら恵まれない現状である。

 

 それはそれは仕事で疲れた体を海で癒しまくったのだろう。

枷を外して大はしゃぎしていたであろうエージェント達の姿が目に浮かぶ。


「とにかく! 明日から本格的に調査を始める! よろしいかしら!」

 指を鳴らして誤魔化すステラ。

「勿論ですよっと」

 これ以上、エージェントの足を引っ張る真似をしたら何でも屋の評判に傷がつく。せっかくのチャンスは不意に致しませんとスカルは両手を上げてそれに応えた。


「はっはっは、愉快な援軍が来たもんだ」

 お互い恥をかきながらもスムーズに話を進める一同の会話を聞きつけたのか、カルボナーラのメンバーであるマーキュリーとロイブラントがやってくる。

 喉が渇いたのか例のフルーツジュースを取りに来たようだ。コップ一杯に大量のロックアイスとドリンクを放り込むと、素晴らしい飲みっぷりで一気飲みをする。


「明日の調査は少しばかりハードだからな。遊ぶのも大概にしとくように注意しとくんだぞ?」

「わかってるヨ……」

 枕投げ大会も頃合いを見て止めに行かなくては。これで明日全員遅刻とかジョークにもならないオチになったら後日が怖い。


 明日の仕事。

 これだけの人数が搔き集められる程だ。万全の状態で仕事に取り掛かれるよう、ラチェットも今のうちに体を休ませていた。


「それと一つ。お前のとこの女、ソージから狙われなかったか?」

「ああ、船での注意ってやっぱりそういう意味カ……」

 ソージと初対面した時、ビーチではしゃいでいる女の子たちを前に何やら怪しい言葉を吐いていた。カルボナーラのメンバーと思われる少女に対しても平気で嫁発言をするなど、その見境のなさから嫌な予感はしていた。


「アイツの女好きは異常でな……まあ、あんな軽すぎる奴だから、そう簡単に靡く奴はいないけどよ。一応注意しとけよ? セクハラしてきたら容赦なく殴っていいからな?」

 部下からここまでの言われようだが、どれだけ最低な事をしてきたのだ、あの船長とやら。

 マーキュリーの警告通り、女性陣の手にエロ男の魔の手が迫らない様に気を付けることにしよう。メンバーからお許しが出ているので容赦なくやってくれと今夜寝る前に伝えることにしておく。


 ……アタリスには特に言い聞かせておこう。気に入らない野郎だったら死なない程度に痛めつけておくようにと。死なない程度に。

 大事な事なので二回と言わず数回注意をかけておこう。


「んで、その肝心な女好きの船長さんはどこに?」

「散歩って言ってたが、はて」

 警戒した方がよさそうだ。

 少女達の花園に魔の手が迫らない様に。

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