PAGE.165「パラサイト・クリーチャー(後編)」
(視界から外れたようだが……さて、どうでる)
アタリスは雑木林に隠れた謎の少年を探るべく、耳を澄ませた。
一体どの地点から、どのような攻撃を仕掛けてくるだろうか。そもそも少年はどこに隠れているのだろうか。
木の葉の山の中か、それとも木の後ろか。はたまた地面の中とか予想もしないところから攻撃を仕掛けてくるのだろうか。
目の前で攻撃を放ったところで効果がないと察したローブの少年が次に行いそうな行動。その攻撃の一部を彼女の視界に入れずに攻撃する方法。
「ふっ……!」
アタリスは地面の方を向くと、その瞳を真っ赤に染め上げる。
地面の中で地響きのような音が響く。何かが上に押し上げてきそうな怒号が地面の中から聞こえてくるが、その爆音は次第に耳から遠のいていく。
「……ちっ! 地面もダメなのかい!」
何処かから声が聞こえる。
少年の驚くような声を聴く限り、アタリスの予測攻撃は成功したようである。
目に映らないところからの攻撃。あり得るとしたら地面の中からだ。おそらく、地面の中に先程の巨大ムカデでも仕込んで奇襲をかけようとしたのだろう。
だが無意味だ。
彼女の目に映る世界。障害物の先であろうと燃やし尽くす。
地面という障害だろうと関係ない。地面の入り口を通り越して、地面の中から暴れようとした哀れな蟲共を焼き払ったのである。
「まいったな。想像以上に強いぞ、これは」
「よく言う……」
アタリスは余裕な表情で笑みを浮かべる。
「まだ、“本気”ではないのだろう?」
その瞳は何もかもを見通している。
まだキャッチボール程度のお遊びしかしていない。アタリスは物陰から隠れている標的のその心理さえも見抜こうとしていた。
「……アンタ、やっぱりタダものじゃないな」
ローブの少年の声が次第に遠のいていく。
やまびこのように少しずつエコーがかかるように消えていく。声はその場から離れていってるようだった。
「待て、何処へ行く気、」
「君こそ何処へ行く気だい?」
突然聞こえてきた大人しめの声。
それを耳にした途端にアタリスは勿論、コピオズムも呆れるように手を上げる。
「……なに、少し遊んでいただけだ」
「その割には、随分と殺気立っていたじゃないか」
声の正体は……精霊騎士団のフリジオだ。
この現場を見て、アタリスが何やらおかしなことをしようとしたと判断したのかレイピアを問答無用で後ろから構えている。少しでも動けば、再生能力を無意味とする聖水付きのレイピアで、か細い喉を突き刺すと警告していた。
(あの小僧、恐れをなして逃げたか)
この現状が王都のトップ部隊にバレるのは都合が悪かったのか。タイミングが良いにしてはあまりにも見計らったような退却だった。
「待つのだ騎士よ! その者は我の危機を救って……」
「何度も言わせるな。私はお前に興味はない」
気配は消えた。あのローブの少年の殺戮ショーは何の予兆もなく閉演ということだ。あまりにも呆気ない終わりに萎えてしまったのか……アタリスはアクビをしながら、何事もなくその場を去ろうとしていた。
「聞いてくれ! 我は聞いたのだ! あの学園を襲ったということを、あの男から!」
……興味深い言葉。
その言葉にアタリスはそっと足を止める。
「ほほう、その話とは」
アタリスは面白そうにコピオズムの方に視線を向ける。
彼女は感じていた。
魔物の大量発生、謎の大量殺人、そして突如王都に現れた爆弾魔……この3つの事件には何か因果があるように思えた。
因果を操る黒幕とやらが何者なのか、この男の証言次第では今先の演目とやらも面白くなるかもしれない。
「私にもお聞かせください」
フリジオも興味津々だった。彼は家名に恥じぬ人間であるために、英雄の一族として名も恥じぬ戦士であるために功績を手に入れようとしている。
ヴラッドの娘であるアタリスを殺すこともその名誉に近づくかなりの近道であるが……精霊騎士団が手こずっているという謎の大量殺人の行方。これを解決することも近道として相応しい。
第一に事件を解決した騎士。王都に渦巻く闇を暴いた英雄となれる。
自分勝手な妄想を膨らませるフリジオも、彼の言葉に耳を傾けようとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へへっ! 上手くまいたな!」
赤いローブの少年は人気のない路地裏を通じてある組織の施設に向かっている。
「しかし、あのガキ……桁違いに強かったな。あんなものまで追ってくるなんて、随分な相手を上司は敵に回したな」
物騒な事に怖がるような仕草を取りながらも、少年は口元を人形のようにケタケタと笑わせている。
「だが……あれさえも蹂躙する自信。お前のプロジェクトは本当に面白そうだ! 特に俺みたいな奴には楽しみ過ぎてワクワクが止まらない!」
路地裏から飛び出した赤いローブの少年は高らかに叫ぶ。
「お前のやる事、“ゲッタ”は凄く楽しみなのさ!!」
少年は自身の名前を叫び……黒幕が所属していると思われる研究組織の施設へと姿を消していった。
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